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失われた根
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しおりを挟むそして、未の根が失われたという事実は、離宮(りきゅう)を統べている紗紅那家の耳にも当然届いていた。巽宮(そんきゅう)での逢瀬の機会に、静と飛鳥の間でも話題に上っていたのである。
未の根は約90年前の運で、紗紅那に麒鞠から与えられたもので、坤宮の宮殿の中央に定礎として埋め込まれていた。いわば坤宮の要である。
未の根は、紗紅那と白露の当時の当主が封印していたはずだ。そう簡単に失われたり、盗まれたりするはずがない。
現在、碧羅と麒鞠との縁組により授かった辰(たつ)の根は、碧羅と紗紅那の両当主・邦龍と郭鳥により、約120年前の根と交換され、巽宮の宮殿へと封印されている。
その場に居合わせた静が見ても、念入りに封印されている様を見れば、そう簡単に失われるはずがない。封印を解けるほどの能力者がいるか、あるいは坤宮の当主自身が封印を解くか。静にはそんな可能性しか思い浮かばないが、いずれにしても考えにくいものだ。
静が坤宮に着いたときには、坤宮に住まう当主やその家族が迎えてくれた。坤宮の当主は紗紅那の縁戚や白露の縁戚が務めることが多い。現在は白露の縁戚者が務めているようだ。
静が偵察をしに来たことを告げると、
「麒鞠王子后自らがお越しになるとは思いませんでした」
と坤宮の当主は言う。
「麒鞠王子の弁によれば、適材適所とのことです。私は動いている方が性に合っておりますので」と静が言えば、
「なるほど、麒鞠王子は頭が柔らかくていらっしゃる」
と簡単な感想を述べて、坤宮の定礎へ案内してくれるのだった。
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