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神獣たちの初夜
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しおりを挟む話を聞いた飛鳥は、始め驚いた様子だったが、静同様に寛麒への印象を変えたようだった。特に、寛麒が邦龍の甥にあたる事実を知ったときには、
「だとすれば寛麒様は、オレにとっても兄上のようなものだ」というのだった。
飛鳥は碧羅の者とも懇意だったので、静の父である邦龍を慕っているのだ。そして、麒鞠への謀りに関しては、もってのほかだと飛鳥は言い捨てる。
麒鞠の権力は、麒鞠が万物の過渡期を引き受けるからこその権力だ。四家の四の気は四旺(しおう)と言われ、力量が強いがゆえに、それぞれ反発し合う。その間を取り持つのが麒鞠の役割なのだ。
「麒鞠の支えがなければ、オレ達は領地を治められない。麒鞠あってこその、四家だ。麒鞠家への反逆はオレ達への反逆と同義だと思う」と飛鳥は言う。
「協力してくれる?」と静が言えば、「勿論」と飛鳥は言うのだった。
「義に篤い飛鳥なら、そう言ってくれると思った。寛麒も喜んでくれると思う」
と静が言えば、飛鳥は少し不貞腐れたような顔をする。
「寛麒様と愛は交わしていないとは言うが、静に親しい人が出来るのは、少し焼けてしまう」と飛鳥は隠し立てせずにそのまま言ってくるので、静も戸惑ってしまうのだった。
「飛鳥、少し感じが変わったような?そんなに焼きもちを口にしてはいなかったと思うけど」
「皆まで言わなかっただけだよ。静がとりわけ異性の友人と交流するのは、いつもヒヤヒヤしてた」
「私は、そんな軽くないというのに」
「しかし、静は女人だろう。相手が画策すれば……」
「無理やりどうにか、出来ると思う?」
「いや、たしかに、難しいな」
「難しかった?」
仕返しとばかりに、含みを持たせた言葉を言ったが最後、静自身に思い当たる節があり、身体が熱くなってきてしまう。
碧羅の性質なのか、静の性質なのか、心を許し、覚悟を決めたとはいえ、組み敷かれることへの抵抗力は静自身でも飼いならせない。それは、愛を交わすなどと甘い言葉では表現しきれない、取っ組み合いのようなものだった。
飛鳥も目を見張るほどではあったが、そのときに「静の鞘となれるのは、自分だけだ。そして自分も静以外では満たされないだろう」と深く思ったのも確かだ。
「どんな場面であろうが、静が大人しくおさまるなんて、思っていないさ。背中の爪や肩口の歯型は、少々痛むけれど」
と飛鳥は言う。
「な、なんでそれを言うの!悪かったと思っているのに!」静は顔を手で覆うが、飛鳥はその手を手を取り、自分の方へと視線を誘導するのだった。
「まったく悪くないよ。静に痕を残してもらえるのが嬉しいんだ。それは、交わした証のように感じるから」
静は飛鳥の緋色の目を見ると、炎のゆらぎが見えた。
「そ、それはそれで、おかしい気もするけれど」
思わず目を逸らすけれど、口付けがやって来る。角度を変えて何度も口づけられて、どんどん吐息が熱くなっていくのが分かった。
「ここでは」
「分かっている。さすがに麒鞠の中宮で不貞を行うのは難しい。今日のところは去るよ。けれど、寛麒様の話によれば静は中宮外に出れるようだ。ならば」
「ならば、また」
巽宮で、と言う前にもう一度唇を塞がれた。名残惜しい体温を互いに残したまま離れた後で、飛鳥は変化する。赤く燃える羽根と鶏冠、そして五本の尾を持つ艶やかな朱雀だ。尾の先には緑色の光沢のある飾り羽を持つ。
「久しぶりにその姿を見た。とても綺麗ね」
「もし、許されるならば。今後もこの姿をさらす機会はあるはずだ」
そう言って飛鳥は羽根で静の身体を包み、一度全身を撫でる。静は目をつぶり、その包容を受け取った。
そして、「静、また会おう」と言って飛鳥は飛びたつ。
静は櫓から美しい鳥が飛んでいくのをしばし見守っていた。宵闇の中で、赤く燃える飛鳥の姿は美しい。飛鳥の姿が見えなくなったのを見守った後で、楼閣から降り、東本殿へと戻っていく。
寝所に戻ると寛麒の姿はなく、侍女に聞くと、寛麒は学問の講義や研究を行う東堂にいるという。寛麒は一日の大半をそこで過ごし、そのまま眠りにつくことも多いらしい。
共寝をするとなれば、どうしようか、と思っていた静だったので、拍子抜けしてしまう。だだっ広い寝台の上で、身体を横たえていたら、おのずから眠気がやってきて静は眠りについた。
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