上 下
18 / 90
神獣たちの初夜

4

しおりを挟む

「頭をお上げください。寛麒様。もし誰かが見ていたとして、次期王が簡単に頭を垂れる、噂話が広がっては困ります」
「様はいらないよ、静龍。寛、もしくは寛麒と呼んでくれ」
「いえ、それは」

「私は必要ではないことには、頭を下げないさ。退屈な政ではおよそ下げたことはない。それに噂話が広がるのも、それはそれで面白い」
「それは、それでどうなのでしょうか」

「静龍。返事を聞かせて欲しい、協力してくれるか?」
 貝紫の瞳が静をとらえ、離さない。恐らく神獣の加護を受けていない者からすれば、強い強制力を持つ眼力となるのだろう。ただ、静は自分自身の意思として寛麒に協力しようと思っていた。

「協力いたします。というよりも、父上公認の上で任された任務となれば、まっとうするほかありません」
「個人の感情は一切ないと?」
「いえ、どうでしょう。ただ、寛麒様は」
「寛麒と」

「寛麒は、ただの気まぐれで私を惑わせているのではない、とは分かりました。お話を聞くつれ、五家や領地のことを考えておられるのだとは、感じています。ですから、私の個人的な感情からも、協力したいと思っております」
「ありがとう、静龍。感謝する」

 寛麒はいつになく、柔らかな表情で笑った。その表情に父や兄の面影を見つけ、静は驚きを隠せない。たしかに、血縁を感じずにはいられないのだった。

 静が寛麒に驚きを感じていたそのとき、寛麒は部屋の天井を仰ぐ。何か聞き耳を立てているかのような表情で、
「ああ、やはり来たか。南東の角楼だな。火の気が強まった」
 と言うのだった。

「何のことです?」静が尋ねると、寛麒は今度が少し悪戯な笑いを浮かべる。
「使いが来るか、本人が来るか。八割がた本人かと思ったが。やはりな」
 寛麒が一人納得しているので、静はわけが分からない。

「静、南東の角楼に行ってみるといい。結界を張って人払いをしておくから、心配はいらないよ」
「ですから、何の」
「一羽の鳥だよ。そなたを好いてたまらない、火の鳥が降りたったようだ。行っておいで」と寛麒が言う。その言葉に、静はすべてを理解した。胸が熱くなるのを感じる。
「婚姻に関して、明かすのか隠すのか。すべてはそなたにまかせる」
 静は頷くと、寝台から降り装束を整えた。一度ふり返ると、寛麒が手を振って送り出してくれる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...