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水魚、もしくは龍鳥の交わり
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しおりを挟む「初恋?なんの話だ?」
「お姉様たちのことは、飛鳥の初恋だったと」
「それは、魯礒や柚信が話したのか?」
「そうだけど?」
「あいつらは本当に油断も隙もない!」
「違うの?」
「違う。あの二人には少し気になることがあり、それを、聞いていたまで。それをあいつらが面白おかしく語っているだけだ」
「気になること?」
と静が問えば、やましいことは何もない、と飛鳥は言う。
かえって怪しいけれど、と静が言えば、彼女たちは教養が深い。神域や五家について知りたいことがあったんだ、と飛鳥は言うに留めた。
「では、初恋ではない?」
「それはそうだろう!オレは今も昔も静しか……」
静は飛鳥の目を見る。飛鳥が頷くのを見て、静は身体が熱くなってくるのを感じた。言葉を切り、再び額に手を当てて飛鳥は嘆息する。
「進むべきか、進まざるべきか。難しいな」
「飛鳥が誤解しているなら、訂正したいのだけど。魯礒や柚信と、その、一線を超えたこともないし。私は殿方と寝屋を共にしたことなど、身を許したことなど、ない」
たどたどしい言葉は自分の言葉ではないようだった。静はこの手の話を聞くのは好きだが、自身で話すのは苦手だ。眉をひそめ、飛鳥は静を抱きしめた。
「悪かった、そんなこと言わせて」
「私は飛鳥と婚姻すると思っていた」
「それは、オレも同じだ」
「でも、私たちはまだ何も……」
両家公認の仲とはいえ、何も明確な契りは交わしていないのだった。静を抱きしめる飛鳥の腕に力がこもるのが分かる。
「ああ。婚姻だ縁組だのと格式張らず、無理矢理にでも、奪っておけばよかった。何度想像したか分からないのに」
「な、何を!」
「色町には遊びに行くのに、そんなことも分からないのか?あそこで行われることを、いや、それ以上にもっと、根深く、貪婪なことを」
「ひ、飛鳥も、そんなこと考えるの?」
「考えるよ。静はそばにいて、どんどん美しい女性になっていくし、お互いに身体つきだって、昔とは変わっていく。抱擁のその先に、静の身体を強引に暴く想像をしないのは、難しい」
「い、今も、抱擁しているじゃない」
それに美しいなんて、飛鳥の口から聞いたことはなかった。さらに力強く抱かれて、耳に飛鳥の熱い息がかかる。この抱擁はいつも静から始めるものとは違った。
「そう。だから、難しいんだ、とても」
飛鳥は日向の匂いがする、と静はいつも思う。その匂いは温かく、愛おしい。安心できる匂いだ。
飛鳥とは手合わせの後に共に湯浴みをしたこともあるような、気の置けない仲だった。けれど、静が13になり、神獣の洗礼を受けたあたりで、飛鳥は湯浴みをやめようと言い始める。
男女のたしなみとして、互いに素肌を晒すのはやめようと言ったのだ。静は寂しかった。
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