神獣たちの戯れ・碧羅姫と麒鞠王子の縁組~婚外交際のすすめ~

KUMANOMORI(くまのもり)

文字の大きさ
上 下
10 / 90
水魚、もしくは龍鳥の交わり

2

しおりを挟む

「初恋?なんの話だ?」
「お姉様たちのことは、飛鳥の初恋だったと」
「それは、魯礒や柚信が話したのか?」
「そうだけど?」

「あいつらは本当に油断も隙もない!」
「違うの?」
「違う。あの二人には少し気になることがあり、それを、聞いていたまで。それをあいつらが面白おかしく語っているだけだ」

「気になること?」
 と静が問えば、やましいことは何もない、と飛鳥は言う。
 かえって怪しいけれど、と静が言えば、彼女たちは教養が深い。神域や五家について知りたいことがあったんだ、と飛鳥は言うに留めた。

「では、初恋ではない?」
「それはそうだろう!オレは今も昔も静しか……」
 静は飛鳥の目を見る。飛鳥が頷くのを見て、静は身体が熱くなってくるのを感じた。言葉を切り、再び額に手を当てて飛鳥は嘆息する。

「進むべきか、進まざるべきか。難しいな」
「飛鳥が誤解しているなら、訂正したいのだけど。魯礒や柚信と、その、一線を超えたこともないし。私は殿方と寝屋を共にしたことなど、身を許したことなど、ない」
 たどたどしい言葉は自分の言葉ではないようだった。静はこの手の話を聞くのは好きだが、自身で話すのは苦手だ。眉をひそめ、飛鳥は静を抱きしめた。

「悪かった、そんなこと言わせて」
「私は飛鳥と婚姻すると思っていた」
「それは、オレも同じだ」
「でも、私たちはまだ何も……」
 両家公認の仲とはいえ、何も明確な契りは交わしていないのだった。静を抱きしめる飛鳥の腕に力がこもるのが分かる。

「ああ。婚姻だ縁組だのと格式張らず、無理矢理にでも、奪っておけばよかった。何度想像したか分からないのに」
「な、何を!」
「色町には遊びに行くのに、そんなことも分からないのか?あそこで行われることを、いや、それ以上にもっと、根深く、貪婪なことを」

「ひ、飛鳥も、そんなこと考えるの?」
「考えるよ。静はそばにいて、どんどん美しい女性になっていくし、お互いに身体つきだって、昔とは変わっていく。抱擁のその先に、静の身体を強引に暴く想像をしないのは、難しい」
「い、今も、抱擁しているじゃない」

 それに美しいなんて、飛鳥の口から聞いたことはなかった。さらに力強く抱かれて、耳に飛鳥の熱い息がかかる。この抱擁はいつも静から始めるものとは違った。
「そう。だから、難しいんだ、とても」

 飛鳥は日向の匂いがする、と静はいつも思う。その匂いは温かく、愛おしい。安心できる匂いだ。
 飛鳥とは手合わせの後に共に湯浴みをしたこともあるような、気の置けない仲だった。けれど、静が13になり、神獣の洗礼を受けたあたりで、飛鳥は湯浴みをやめようと言い始める。
 男女のたしなみとして、互いに素肌を晒すのはやめようと言ったのだ。静は寂しかった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

処理中です...