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不本意な縁組
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しおりを挟む「十数年ほど前か。五家の祭事の際、邦龍殿に伴われてやって来たそなたは麒鞠の庭園の木で、見事な木像を彫っただろう?五本の神木で五家の象徴をすべてを彫りつくし、邦龍殿に大層叱られていた」
長兄でもなく、第二姫である静が麒鞠の庭園に行く機会は少ない。珍しく出かけた先で、見事な神木を見かけ、何かを残したいと思った記憶だけがある。
「そなたは見事な神木なのに、なぜ触れてはいけないのですか?五家の象徴を彫ればもっと見事になると思いました、とのたまったのだ。私は、面白くて面白くてたまらなかった!そんな者には今まで一度も出会ったことがなかったからだ」
「やはり、感性が少しおかしいのでは?」静はつい毒づいてしまう。
「そうかもしれないな。けれど」
寛麒は静の碧色髪の房を手に取り、自らの唇に寄せる。寛麒の髪飾りが揺れ、芳香が香った。
「今のように胴着を身に着け、縛りあげた髪を揺らしながら鉈を振るう姿は美しかった。そのときから、私は妻とする者を決めていたと言っていい」
「そのようなことは、困ります!」
「なぜ困る?」
「なぜって」
そのとき静は寛麒と目が合う。貝紫の瞳の奥には野心は見えない。ただ静への単純な興味があるようだった。
「私はあなたを愛せません」
「それは、好きな男がいるからか」
静はおずおずと頷いた。
飛鳥に好意をハッキリと思いを伝えたことはない。それはお互いに薄々とは感じていたことで、あえて語る必要もないことだったからだ。飛鳥は特定の女性と関係を持とうとはしなかったし、静もまた、一線は守っていた。静は飛鳥と結ばれると思っていたからだ。
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