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不本意な縁組
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しおりを挟むそのとき、広間の戸が左右に開かれた。
何事かと周りの人たちがざわめき始めたとき、
「ハハハハハ!愚か者とは、また威勢がいい」
盛大な笑い声が響き渡る。金色の髪を翠玉で結わえた貝紫の瞳を持つ、金色の装いの人物が入って来た。
麒麟紋の着物のその人物は、真っすぐに静の元へと進んでくる。邦龍や周りの家族が一様に首を垂れるのを見てその人物の正体に気づいた。しかし、静はその顔に張りついた笑顔を、今すぐにも吹き飛ばしたい気持ちに駆られてやまない。
「ご機嫌麗しゅう、碧羅の第二姫。この時間帯にも胴着とは、中々勇ましい」
体中から放たれる煌びやかな気が、この人物の出自を語っている。
「午後の鍛錬の前ですので、胴着で失礼いたします。しかし、そのような身なりをする女が気に入らないのであれば、ぜひ破談にしては?」
静の剣呑な様子に、いともおかしそうにその人物は笑う。
「ハハハ、随分と剣呑だ。名乗りもさせてくれないのかい?」
「その紋を拝見すれば、一目瞭然です。そして、その金色の髪に貝紫の瞳。全て麒鞠の方々の特徴です」
その人物は静の前にかしづくと、その手を取り、口付けをほどこす。
「お初にお目にかかります、碧羅の第二姫、静龍様。私は麒鞠が第一王子。寛麒と申します。ぜひお見知りおきを」
「ええ、たった今存じ上げました。そして、永久にさようなら」
静の無礼な振る舞いに、周りの人間が固唾を飲んで見守る。しかし、麒鞠の王子は物ともしない。
「噂にたがわぬ負けん気の強い姫だ。ぜひ、私の妻になってくれないだろうか?」
「イヤです。何かお考え違いをなさっているのでは?天下の麒鞠の次期王が、難ありの碧羅の姫を召し抱えるとは、気がおかしいとしか思いませんね」
「長老たちを同じことを申すのだな、碧羅の姫ならば李龍様か、桃龍様かその双曲が望ましいと。暴れ馬は、娶らずに碧羅においておくのがよいと」
「そうでしょう。その通りです」
「随分とひどい物言いだ。しかし、そなたを娶りたい男がいるようではないか」
げ、と静は喉を鳴らす。一番触れて欲しくない部分に触れられたからだ。
「なるほど、にわかに瞳や唇に色香が満ちた。その男が好きなのか」
「あなたには、関係ありません」
静の言葉に、寛麒は朗らかに笑う。
「妻の思い人は無関係ではないよ」
「いつ、妻になりましたか?祝言も契りも何もしておりません。どうして私なのです?あなたの気まぐれな戯れに付き合うのはイヤです!」
静の問いかけに、寛麒は目を細め少しだけ遠い目をした。
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