神獣たちの戯れ・碧羅姫と麒鞠王子の縁組~婚外交際のすすめ~

KUMANOMORI(くまのもり)

文字の大きさ
上 下
6 / 90
不本意な縁組

5

しおりを挟む

 そのとき、広間の戸が左右に開かれた。
 何事かと周りの人たちがざわめき始めたとき、
「ハハハハハ!愚か者とは、また威勢がいい」
 盛大な笑い声が響き渡る。金色の髪を翠玉で結わえた貝紫の瞳を持つ、金色の装いの人物が入って来た。

 麒麟紋の着物のその人物は、真っすぐに静の元へと進んでくる。邦龍や周りの家族が一様に首を垂れるのを見てその人物の正体に気づいた。しかし、静はその顔に張りついた笑顔を、今すぐにも吹き飛ばしたい気持ちに駆られてやまない。

「ご機嫌麗しゅう、碧羅の第二姫。この時間帯にも胴着とは、中々勇ましい」
 体中から放たれる煌びやかな気が、この人物の出自を語っている。

「午後の鍛錬の前ですので、胴着で失礼いたします。しかし、そのような身なりをする女が気に入らないのであれば、ぜひ破談にしては?」
 静の剣呑な様子に、いともおかしそうにその人物は笑う。

「ハハハ、随分と剣呑だ。名乗りもさせてくれないのかい?」
「その紋を拝見すれば、一目瞭然です。そして、その金色の髪に貝紫の瞳。全て麒鞠の方々の特徴です」
 その人物は静の前にかしづくと、その手を取り、口付けをほどこす。

「お初にお目にかかります、碧羅の第二姫、静龍様。私は麒鞠が第一王子。寛麒と申します。ぜひお見知りおきを」
「ええ、たった今存じ上げました。そして、永久にさようなら」
 静の無礼な振る舞いに、周りの人間が固唾を飲んで見守る。しかし、麒鞠の王子は物ともしない。

「噂にたがわぬ負けん気の強い姫だ。ぜひ、私の妻になってくれないだろうか?」
「イヤです。何かお考え違いをなさっているのでは?天下の麒鞠の次期王が、難ありの碧羅の姫を召し抱えるとは、気がおかしいとしか思いませんね」
「長老たちを同じことを申すのだな、碧羅の姫ならば李龍様か、桃龍様かその双曲が望ましいと。暴れ馬は、娶らずに碧羅においておくのがよいと」

「そうでしょう。その通りです」
「随分とひどい物言いだ。しかし、そなたを娶りたい男がいるようではないか」
 げ、と静は喉を鳴らす。一番触れて欲しくない部分に触れられたからだ。

「なるほど、にわかに瞳や唇に色香が満ちた。その男が好きなのか」
「あなたには、関係ありません」
 静の言葉に、寛麒は朗らかに笑う。

「妻の思い人は無関係ではないよ」
「いつ、妻になりましたか?祝言も契りも何もしておりません。どうして私なのです?あなたの気まぐれな戯れに付き合うのはイヤです!」
 静の問いかけに、寛麒は目を細め少しだけ遠い目をした。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...