13 / 127
憧れの思い人と憎らしい婚約者
6
しおりを挟む
しばらくして戻ってきたライオネル様は、手に包帯を巻いていた。
衣服は焼け切れている。
何も言わずに、家を出るように扉の方に手をやり仕草で示してみせた。
「なぜです?」
「なぜ、と思うのは私の方だよ。なぜ、君のような貧相な小娘が私の相手なのか、と思っていたけれど。既に軍神の加護を受けているんじゃないか。それを知っていれば、もっと丁重にしたさ」
とライオネル様はおっしゃる。
加護?私は特別な洗礼を受けた覚えはない。姉たちと同様に、七つの頃に軍神の祝福を受けただけだ。五女である私は軍神の加護なんて、受けられる立場にいない。
「兵の屯所に戻るんだ。裁判所により、近衛兵に戻るようにとの沙汰があった」
「え、戻ってもよいのですか?」
「戻せとのことだ。誰が口添えしたのかは知らないけど」とライオネル様は、つまらなそうに吐き捨てた。
「では婚姻の話も、ひょっとすれば」
立ち消えたのでは?と尋ねようとすれば、
「残念だけど。婚姻は破棄しない。婚礼式を行うよ。加護を受けた巫女を離すわけがないだろう」
と私の手に指を絡め、ライオネル様はおっしゃる。
「しっかりと夫婦の務めは果たしてもらうよ」
ライオネル様を私は思わず睨みつけてしまった。
「ライオネル様は、ご器用ですね。たくさんの情愛を振りまいていらっしゃる」
と皮肉を放り込んでみる。ライオネル様と馬が合わないのは、端から分かりきっていた。
「器用で何が悪いんだい?お相手方にも、しっかりとした後ろ盾がある。単なるお遊びだ」
「こちらも単なる好みの問題ですので、お気になさらず」
と私は言う。
「彼女たちと縁を切れば、ミリアは満足なのかい?」
「端から相性がいまいちだと分かっている婚姻は、滑稽だと思うだけです。ただの戯言だとお思いください」
「そうだろうか?まだ、相性は確かめてないと思うけどね」
匂わせる視線を振り払うために、私は、
「それでは、失礼いたします」
と言ってその場を辞する。
ライオネル様のお屋敷を出て、宿舎に戻ることにした。
近衛兵の性質上、宿舎は王宮内にある。私が宿舎に戻ろうとすると、回廊の向こう側から煌びやかな気配の方々がやって来るのが見えた。
衣服は焼け切れている。
何も言わずに、家を出るように扉の方に手をやり仕草で示してみせた。
「なぜです?」
「なぜ、と思うのは私の方だよ。なぜ、君のような貧相な小娘が私の相手なのか、と思っていたけれど。既に軍神の加護を受けているんじゃないか。それを知っていれば、もっと丁重にしたさ」
とライオネル様はおっしゃる。
加護?私は特別な洗礼を受けた覚えはない。姉たちと同様に、七つの頃に軍神の祝福を受けただけだ。五女である私は軍神の加護なんて、受けられる立場にいない。
「兵の屯所に戻るんだ。裁判所により、近衛兵に戻るようにとの沙汰があった」
「え、戻ってもよいのですか?」
「戻せとのことだ。誰が口添えしたのかは知らないけど」とライオネル様は、つまらなそうに吐き捨てた。
「では婚姻の話も、ひょっとすれば」
立ち消えたのでは?と尋ねようとすれば、
「残念だけど。婚姻は破棄しない。婚礼式を行うよ。加護を受けた巫女を離すわけがないだろう」
と私の手に指を絡め、ライオネル様はおっしゃる。
「しっかりと夫婦の務めは果たしてもらうよ」
ライオネル様を私は思わず睨みつけてしまった。
「ライオネル様は、ご器用ですね。たくさんの情愛を振りまいていらっしゃる」
と皮肉を放り込んでみる。ライオネル様と馬が合わないのは、端から分かりきっていた。
「器用で何が悪いんだい?お相手方にも、しっかりとした後ろ盾がある。単なるお遊びだ」
「こちらも単なる好みの問題ですので、お気になさらず」
と私は言う。
「彼女たちと縁を切れば、ミリアは満足なのかい?」
「端から相性がいまいちだと分かっている婚姻は、滑稽だと思うだけです。ただの戯言だとお思いください」
「そうだろうか?まだ、相性は確かめてないと思うけどね」
匂わせる視線を振り払うために、私は、
「それでは、失礼いたします」
と言ってその場を辞する。
ライオネル様のお屋敷を出て、宿舎に戻ることにした。
近衛兵の性質上、宿舎は王宮内にある。私が宿舎に戻ろうとすると、回廊の向こう側から煌びやかな気配の方々がやって来るのが見えた。
1
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました
21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。
理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。
(……ええ、そうでしょうね。私もそう思います)
王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。
当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。
「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」
貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。
だけど――
「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」
突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!?
彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。
そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。
「……あの、何かご用でしょうか?」
「決まっている。お前を迎えに来た」
――え? どういうこと?
「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」
「……?」
「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」
(いや、意味がわかりません!!)
婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、
なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる