未経験でよろしく

童貞信仰

2

　元々未経験だった元カレ達は、最初こそぐいぐいと攻められるのに喜んでくれるけれど、数回で浮気しそう、という理由でふってくる。

　そしてなんだかんだ、清楚系の女の子と付き合い直していた。本音が見えて、切なくなる…ってわけでもない。私も新しい彼氏をハンティングしにいくだけだ。

「筆下ろし専門のオンナって思われてるわぁーカワイソー」
　嫌味を言ってこられても、やっぱり未経験な好きなのだ。真剣で、不安そうで、それでも好奇心からしてみたいっていう、卒直な気持ちが見えて可愛い。

「いいもん。オレの初めてのオンナ、割と、よかったなぁーって年取ってから振り返ってもらえば」
「よくわかんねぇーその性癖。何年がかりのプロジェクトだよ」

「速水だって好きでしょ、未経験？」
「いや、狭くて硬くてあんま。締まりがあって、ある程度に開いてるほうが気持ちいい」
「いやいや、機能の話じゃなくて！恥ずかしそうな方が燃えない？」

「わかんねぇーマグロ嫌いだもん、オレ。反応がいいほうが楽しい」
「……聞く相手間違ったわ」
「てか、好きじゃなくても、童貞ってだけでいけるやつが変態すぎんだよ」

「いいんだよ、変態で。前カノと比べてこない童貞サイコー！」
　帰るわと席を立つけれど、方向一緒じゃん、と言って後をついてきた速水と途中まで帰った。
　速水の友達が私のハツカレで、初めての相手だ。

　普段は優しくていい人だったけど、一度スイッチが入ると、元カノ大好きの未練男に変わる。
　元カノはこうしてくれた、元カノならこういう……。

　どこまで元カノ主軸で話すので、ある日、
「私と元カノ、どっちのほうが好きなの？」
　と間違った質問をしたせいで、「元カノ」と答えた彼氏と大喧嘩になり、別れた。

　じゃあなんで別れたんだよ！なんで私と付き合ったんだよ！と捨て台詞を吐く。
　後から聞けば、元カノにも元カノが良いと言って別れていたらしい。元カノ信仰が強い人だったようだ。


　こと男の人においては、元カノを美化するのは永遠に直らないクセのようなものだから、諦めた。
　そして、比較対象のいない相手を探していたら、童貞にたどり着く。
　ただし、あまり長くこじらせていると、二次元に元カノがいたり、重度のマザコンだったりと大変なこともあると、最近学んだ。

　後輩メインで相手を探すのは、穢れを知らない子がいい、という偏った処女信仰の男女逆転版みたいで、我ながら気持ちの悪いなとは思う。童貞信仰はなはだしい。

　自分の自己肯定感を満たすために、経験値が下の相手に行くという発想は、やっぱりある。自信なんかない。

　元カノに勝てないし、後カノにも、勝てない。それでも、楽しければいいじゃん？長く続かなくても、かりそめでもさ、と思っていた。

　初恋の先輩が戻ってきてしまうまでは。