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第四部
女王陛下の初仕事
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「女王陛下。感傷に浸っている暇はない。ギルバート司令官の処遇を決めてもらう。そして、宰相を懐柔し正式に即位式を行う必要がある。その後は、さっさと地下国の平定をしろ」
「そんなに一度に言わないで。一人では出来ないわ、だからテオ手伝って欲しいんだけど」
視線の高さはほとんど変わりない。テオドールの方が年上だが、例によってティアトタンの王族は成長が早いため、ほとんど同い年と言ってもいい。
ただし、今はやや、テオドールの方が幼く見える。普段は表情の見えない深淵なテオドールの瞳にも、あどけなさが残っていた。可愛らしい、とフィアは思うのだ。
「それは、女王陛下の命令か?」
「違う。これはただのお願い」
「そんな甘いことを言っていて国を治めようというのは、愚かだな」
とテオドールが言うのだが、
「フィアのお願いを聞いてあげないの?友達なのに」
とアインが言ってきたことで、風向きが変わってしまう。
「お願いテオ」
「じゃあ僕からもお願い」
とフィアとアインが言うことで、テオドールは抵抗の言葉を失っていくのだ。
護らなければいけない、と思ってきた女に似た子どもがやって来てしまったのは、テオドールにとっては大きな誤算だ。
真っすぐに見つめてくる瞳は愛らしい
「取り引きがあることは承知だろうな」
と心にもないことを言う。
「取り引き?」
フィアにとっては初めて聞く言葉だ。
「ああ」
「いいわよ、何でも言って?」
あっさりと言われてテオドールが内心困惑していることに、フィアは気づかない。
「オレを軍の司令官に戻せ」
「それでいいの?そうすれば手伝ってくれるの?」
「ああ。そして、離婚はしない」
「え?」
「離婚したければ」
テオドールの静かな瞳が悪戯に光ったので、まさか、その卑猥な語彙力を発揮しないでしょうね?とフィアは警戒した。
アインの目の前でとんでもない単語を言われては困る、と思うが、
「そばにいろ」
と言うのだ。
「意味が分からない。離婚するのにそばにいるなんて。矛盾したことを言っていると思うけど」
「出来ないのか?」
「え?出来るわよ?そばにいる。これまでもそうして来たと思うけど?」
フィアがなんてことなく言うので、テオドールは肩の力が抜けて来てしまうのを感じた。
「大切な友人だもの」
「そっかぁ、テオドールはフィアのことが大好きなんだね」
とアインが言ったことで、テオドールの顔がみるみる赤くなっていく。
「短絡的な子どもだ」
と言い捨てる。
「えー好きだからそばにいたいんだよね?」
「うるさい」
「僕もフィアのことが好きだから、一緒だね。テオドールも友達になろう?」
とアインがグイグイと距離を詰めていくので、テオドールは圧倒されてしまう。好奇心攻撃をしてくるいつぞやの姫の再現のようだったからだ。そして、その表情も似ているので、愛らしい、とテオドールは心の中で思う。
ただ、それはフィアにもアインにも分からない。
「それでは、まずギルバートに会いに行きましょうか」
「地下の牢獄だ」
とテオドールが言うので、やっぱり、とフィアは思った。
「面倒なものは、何でも地下に追放すればいいと思っているでしょ?地下国を行くのがどれほど面倒なのか、知らないでしょ?」
「知る必要はない」
「じゃあ、連れてきて。ギルバートを。そこから、私の仕事は始まるようだから」
「分かった」
と告げたテオドールはマントを翻したかと思えば、音もなく消えていた。あのテオが、どうしてこんなにしおらしくなってしまったの?とフィアは不思議に思う。
フィアは広場から、王都にそっくりのティアトタン国の都を見おろす。
「まずは女王になって見せなさい」
と地下国で出会った母は言っていた。
「そうでなければ、何も始められない」とも言っていたけれど、何が始まると言うのだろう?とフィアは思っていた。
ただ、自分は国のこともその外のことも何も知らない。そして、隠れ家の皆の率直な反応が、今の王族への目線なのだ。
ここから、信頼を得て国を立て直していかなければ、といけない。
フィアは気を引き締め、拳を握り締めたところで、視線の先に奇妙なものが見えた。
巨大な黒髪の少女が見える。目の錯覚かと思い目を擦るけれど、一向に消える気配はない。
街の中にたたずむ姿は異様だ。そして、少女に向かって飛んでいく青年の姿が見えた。短いシルバーブロンドの髪の青年だ。
少女は向かっていく青年を手に握り、放る。そうして投げられた青年が落ちた家々が次から次へと破壊されていくのだ。
「ル、ルスティ!」
そして、青年はクロストだ。再び立ち上がり、ルスティに向かっていき、そして投げ飛ばされて、都を破壊していく。
「な、何で巨大化しているの?」
「わー!ルスティ今度は、大きいなぁ!」とアインは楽しそうに笑いながら跳ねまわる。アインは短いシルバーブロンドの髪を兎の尻尾のように結わえた少年だ。
あれ、そういえばアインの顔って、誰かに似ていない?とフィアはぼんやりと思うけれど、今は考えこんでいる場合じゃない、と思う。
ティアトタン国は争いの国だ。
前途多難だとは思うけれど、ここから始めなければ、いけない、とフィアは決意を新たにするのだった。
しかしまずは、
「アイン、ルスティとクロストを止めに行きましょう!手伝ってくれる?」
「うん、もちろん!」
ここからやらなければいけないらしい。
ティアトタン国の女王陛下は、自分そっくりな敵国総督の子どもを連れて、城前広場を駆けおりていく。
その後、王の間に黄金の剣が残されていたのを見つけ、フィアは口元をゆるめるのだった。
友愛女王爆誕編・了
「そんなに一度に言わないで。一人では出来ないわ、だからテオ手伝って欲しいんだけど」
視線の高さはほとんど変わりない。テオドールの方が年上だが、例によってティアトタンの王族は成長が早いため、ほとんど同い年と言ってもいい。
ただし、今はやや、テオドールの方が幼く見える。普段は表情の見えない深淵なテオドールの瞳にも、あどけなさが残っていた。可愛らしい、とフィアは思うのだ。
「それは、女王陛下の命令か?」
「違う。これはただのお願い」
「そんな甘いことを言っていて国を治めようというのは、愚かだな」
とテオドールが言うのだが、
「フィアのお願いを聞いてあげないの?友達なのに」
とアインが言ってきたことで、風向きが変わってしまう。
「お願いテオ」
「じゃあ僕からもお願い」
とフィアとアインが言うことで、テオドールは抵抗の言葉を失っていくのだ。
護らなければいけない、と思ってきた女に似た子どもがやって来てしまったのは、テオドールにとっては大きな誤算だ。
真っすぐに見つめてくる瞳は愛らしい
「取り引きがあることは承知だろうな」
と心にもないことを言う。
「取り引き?」
フィアにとっては初めて聞く言葉だ。
「ああ」
「いいわよ、何でも言って?」
あっさりと言われてテオドールが内心困惑していることに、フィアは気づかない。
「オレを軍の司令官に戻せ」
「それでいいの?そうすれば手伝ってくれるの?」
「ああ。そして、離婚はしない」
「え?」
「離婚したければ」
テオドールの静かな瞳が悪戯に光ったので、まさか、その卑猥な語彙力を発揮しないでしょうね?とフィアは警戒した。
アインの目の前でとんでもない単語を言われては困る、と思うが、
「そばにいろ」
と言うのだ。
「意味が分からない。離婚するのにそばにいるなんて。矛盾したことを言っていると思うけど」
「出来ないのか?」
「え?出来るわよ?そばにいる。これまでもそうして来たと思うけど?」
フィアがなんてことなく言うので、テオドールは肩の力が抜けて来てしまうのを感じた。
「大切な友人だもの」
「そっかぁ、テオドールはフィアのことが大好きなんだね」
とアインが言ったことで、テオドールの顔がみるみる赤くなっていく。
「短絡的な子どもだ」
と言い捨てる。
「えー好きだからそばにいたいんだよね?」
「うるさい」
「僕もフィアのことが好きだから、一緒だね。テオドールも友達になろう?」
とアインがグイグイと距離を詰めていくので、テオドールは圧倒されてしまう。好奇心攻撃をしてくるいつぞやの姫の再現のようだったからだ。そして、その表情も似ているので、愛らしい、とテオドールは心の中で思う。
ただ、それはフィアにもアインにも分からない。
「それでは、まずギルバートに会いに行きましょうか」
「地下の牢獄だ」
とテオドールが言うので、やっぱり、とフィアは思った。
「面倒なものは、何でも地下に追放すればいいと思っているでしょ?地下国を行くのがどれほど面倒なのか、知らないでしょ?」
「知る必要はない」
「じゃあ、連れてきて。ギルバートを。そこから、私の仕事は始まるようだから」
「分かった」
と告げたテオドールはマントを翻したかと思えば、音もなく消えていた。あのテオが、どうしてこんなにしおらしくなってしまったの?とフィアは不思議に思う。
フィアは広場から、王都にそっくりのティアトタン国の都を見おろす。
「まずは女王になって見せなさい」
と地下国で出会った母は言っていた。
「そうでなければ、何も始められない」とも言っていたけれど、何が始まると言うのだろう?とフィアは思っていた。
ただ、自分は国のこともその外のことも何も知らない。そして、隠れ家の皆の率直な反応が、今の王族への目線なのだ。
ここから、信頼を得て国を立て直していかなければ、といけない。
フィアは気を引き締め、拳を握り締めたところで、視線の先に奇妙なものが見えた。
巨大な黒髪の少女が見える。目の錯覚かと思い目を擦るけれど、一向に消える気配はない。
街の中にたたずむ姿は異様だ。そして、少女に向かって飛んでいく青年の姿が見えた。短いシルバーブロンドの髪の青年だ。
少女は向かっていく青年を手に握り、放る。そうして投げられた青年が落ちた家々が次から次へと破壊されていくのだ。
「ル、ルスティ!」
そして、青年はクロストだ。再び立ち上がり、ルスティに向かっていき、そして投げ飛ばされて、都を破壊していく。
「な、何で巨大化しているの?」
「わー!ルスティ今度は、大きいなぁ!」とアインは楽しそうに笑いながら跳ねまわる。アインは短いシルバーブロンドの髪を兎の尻尾のように結わえた少年だ。
あれ、そういえばアインの顔って、誰かに似ていない?とフィアはぼんやりと思うけれど、今は考えこんでいる場合じゃない、と思う。
ティアトタン国は争いの国だ。
前途多難だとは思うけれど、ここから始めなければ、いけない、とフィアは決意を新たにするのだった。
しかしまずは、
「アイン、ルスティとクロストを止めに行きましょう!手伝ってくれる?」
「うん、もちろん!」
ここからやらなければいけないらしい。
ティアトタン国の女王陛下は、自分そっくりな敵国総督の子どもを連れて、城前広場を駆けおりていく。
その後、王の間に黄金の剣が残されていたのを見つけ、フィアは口元をゆるめるのだった。
友愛女王爆誕編・了
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