冷静沈着敵国総督様、魔術最強溺愛王様、私の子を育ててください~片思い相手との一夜のあやまちから、友愛女王が爆誕するまで~

KUMANOMORI(くまのもり)

文字の大きさ
上 下
51 / 51
第四部

女王陛下の初仕事

しおりを挟む
「女王陛下。感傷に浸っている暇はない。ギルバート司令官の処遇を決めてもらう。そして、宰相を懐柔し正式に即位式を行う必要がある。その後は、さっさと地下国の平定をしろ」

「そんなに一度に言わないで。一人では出来ないわ、だからテオ手伝って欲しいんだけど」
 視線の高さはほとんど変わりない。テオドールの方が年上だが、例によってティアトタンの王族は成長が早いため、ほとんど同い年と言ってもいい。

 ただし、今はやや、テオドールの方が幼く見える。普段は表情の見えない深淵なテオドールの瞳にも、あどけなさが残っていた。可愛らしい、とフィアは思うのだ。

「それは、女王陛下の命令か?」
「違う。これはただのお願い」
「そんな甘いことを言っていて国を治めようというのは、愚かだな」
 とテオドールが言うのだが、
「フィアのお願いを聞いてあげないの?友達なのに」
 とアインが言ってきたことで、風向きが変わってしまう。

「お願いテオ」
「じゃあ僕からもお願い」
 とフィアとアインが言うことで、テオドールは抵抗の言葉を失っていくのだ。

 護らなければいけない、と思ってきた女に似た子どもがやって来てしまったのは、テオドールにとっては大きな誤算だ。
 真っすぐに見つめてくる瞳は愛らしい
「取り引きがあることは承知だろうな」
 と心にもないことを言う。
「取り引き?」
 フィアにとっては初めて聞く言葉だ。

「ああ」
「いいわよ、何でも言って?」
 あっさりと言われてテオドールが内心困惑していることに、フィアは気づかない。

「オレを軍の司令官に戻せ」
「それでいいの?そうすれば手伝ってくれるの?」
「ああ。そして、離婚はしない」
「え?」
「離婚したければ」

 テオドールの静かな瞳が悪戯に光ったので、まさか、その卑猥な語彙力を発揮しないでしょうね?とフィアは警戒した。

 アインの目の前でとんでもない単語を言われては困る、と思うが、
「そばにいろ」
 と言うのだ。

「意味が分からない。離婚するのにそばにいるなんて。矛盾したことを言っていると思うけど」
「出来ないのか?」
「え?出来るわよ?そばにいる。これまでもそうして来たと思うけど?」
 フィアがなんてことなく言うので、テオドールは肩の力が抜けて来てしまうのを感じた。

「大切な友人だもの」
「そっかぁ、テオドールはフィアのことが大好きなんだね」
 とアインが言ったことで、テオドールの顔がみるみる赤くなっていく。

「短絡的な子どもだ」
 と言い捨てる。
「えー好きだからそばにいたいんだよね?」
「うるさい」

「僕もフィアのことが好きだから、一緒だね。テオドールも友達になろう?」
 とアインがグイグイと距離を詰めていくので、テオドールは圧倒されてしまう。好奇心攻撃をしてくるいつぞやの姫の再現のようだったからだ。そして、その表情も似ているので、愛らしい、とテオドールは心の中で思う。
 ただ、それはフィアにもアインにも分からない。

「それでは、まずギルバートに会いに行きましょうか」
「地下の牢獄だ」
 とテオドールが言うので、やっぱり、とフィアは思った。
「面倒なものは、何でも地下に追放すればいいと思っているでしょ?地下国を行くのがどれほど面倒なのか、知らないでしょ?」

「知る必要はない」
「じゃあ、連れてきて。ギルバートを。そこから、私の仕事は始まるようだから」
「分かった」
 と告げたテオドールはマントを翻したかと思えば、音もなく消えていた。あのテオが、どうしてこんなにしおらしくなってしまったの?とフィアは不思議に思う。

 フィアは広場から、王都にそっくりのティアトタン国の都を見おろす。
「まずは女王になって見せなさい」
 と地下国で出会った母は言っていた。

「そうでなければ、何も始められない」とも言っていたけれど、何が始まると言うのだろう?とフィアは思っていた。

 ただ、自分は国のこともその外のことも何も知らない。そして、隠れ家の皆の率直な反応が、今の王族への目線なのだ。
 ここから、信頼を得て国を立て直していかなければ、といけない。

 フィアは気を引き締め、拳を握り締めたところで、視線の先に奇妙なものが見えた。
 巨大な黒髪の少女が見える。目の錯覚かと思い目を擦るけれど、一向に消える気配はない。
 街の中にたたずむ姿は異様だ。そして、少女に向かって飛んでいく青年の姿が見えた。短いシルバーブロンドの髪の青年だ。

 少女は向かっていく青年を手に握り、放る。そうして投げられた青年が落ちた家々が次から次へと破壊されていくのだ。
「ル、ルスティ!」
 そして、青年はクロストだ。再び立ち上がり、ルスティに向かっていき、そして投げ飛ばされて、都を破壊していく。
「な、何で巨大化しているの?」

「わー!ルスティ今度は、大きいなぁ!」とアインは楽しそうに笑いながら跳ねまわる。アインは短いシルバーブロンドの髪を兎の尻尾のように結わえた少年だ。

 あれ、そういえばアインの顔って、誰かに似ていない?とフィアはぼんやりと思うけれど、今は考えこんでいる場合じゃない、と思う。

 ティアトタン国は争いの国だ。
 前途多難だとは思うけれど、ここから始めなければ、いけない、とフィアは決意を新たにするのだった。
 しかしまずは、
「アイン、ルスティとクロストを止めに行きましょう!手伝ってくれる?」
「うん、もちろん!」

 ここからやらなければいけないらしい。
 ティアトタン国の女王陛下は、自分そっくりな敵国総督の子どもを連れて、城前広場を駆けおりていく。

 その後、王の間に黄金の剣が残されていたのを見つけ、フィアは口元をゆるめるのだった。

 友愛女王爆誕編・了
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

142
2024.08.08 142

種族を超えた、超個性的な家族‼️新しく、そしてすごく身近に感じ大好きです❤️我が家も猫亀を娘と思ってるからよくわかるし、人間の可愛我が子たちも親戚も、みんな超個性的✨なんで、そしてその個性を大好きだし!非常に魅力的な物語。ずっとワクワクとまりません!

解除
142
2024.08.07 142

素晴らしすぎる‼️1ページ目から❤️を連打せずにはいられない!なんと魅惑的で強いオーラをまとう凛々しくて退廃的なヒロイン‼️彼女の想い人もまたなんともクールで素敵!思いの交差、忘れられぬ思い。こんなに特別なヒロインとヒーローに出会えるなんて、今夜はついてる!こんな別格の作品に出会えるとは!いつもはこんな高評価はしたことありません。多分200作以上は読んでますが、飛び抜けて気に入りました!感謝です!

解除

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。