冷静沈着敵国総督様、魔術最強溺愛王様、私の子を育ててください~片思い相手との一夜のあやまちから、友愛女王が爆誕するまで~

KUMANOMORI(くまのもり)

文字の大きさ
上 下
47 / 51
第四部

王位奪還完了

しおりを挟む

 そのとき突如、城がぐらぐらと揺れ始めた。辺りを見渡すが、何が起こっているのか、分からず顔を見合わせる。 

 巨大な鉛の塊が、城の壁を突き破って来たのを見て、
「ギルバート!」
 とテオドールが怒りをあらわに言い放つ。

「ギルバート?」
 フィアにとっては名前だけ聞く、ティアトタン国の軍司令官名前だ。
 鉛の塊はなおも放り込まれてきて、城を破壊していく。

「ここに集まっていることを知り、攻撃を仕掛けてきたな」とテオドール。
「軍の司令官が何でテオに攻撃を仕掛けるのよ!?」
「ティアトタンは争いの国だろう。反目し合うのが常だ」

 ノインとテオドールの親子喧嘩、テオドールからのコトス達の圧政、コトス達と兄達の親戚喧嘩、テオドールとクロストの王位争い、そしてギルバートとテオドールの内部崩壊?
 耳にしただけでも、争いの種が多すぎて、フィアはウンザリしてきていた。

「テオ、私を護ると思ってくれるならば。争いを失くす協力をして」
「それは懇願か?それとも命令か?」
「愛らしく頼めば、喜んで乗るそうだ」
 とゼクスが差しはさんでくる。

「お願い、テオ。このままじゃ城も壊れてしまう。私が継承すればお父様の結界魔法が使えるはず」
 そのとき、
「観念しなよ、お父様」
 と言ってノインが宝剣をテオドールへと放る。

 分割したノインが、宝剣を盗み出していたのだ。そしてノインはもう一人のノインと一体化していく。素晴らしい、と言いゼクスが口笛を吹いた。

「ノイン、その能力を隠していたのか」
 とテオドールが言うが、ノインは知らんぷりを決め込む。相変わらず可愛げのない奴だ、とテオドールは思う。
「結界魔法であなたを護れる。そしてみんなのことも。私を少しは信頼して欲しいの」

「お前が描く未来に、誰がいる。オレはそこにいるのか」
「何言ってるの、テオ。当然いるでしょ」
「友人として?」
「ええ、友人として。あなたは私の大切な、友人だもの。昔からずっと」

 自然を目が合い、フィアはテオドールの深海のように暗く瞳に、光が差したのを見た。
 何かの折にふと差しこむだけの光が、今はハッキリと見える。
 テオドールの口元がほころぶのをフィアは見た。

「敗け、だな」
「テオ?」
「どうやっても、屈服させられない。かえって心が奪われるばかりだ。勝ち筋は、見えない」
「何言っているの?そもそも私たちは闘っていないでしょう?」

 ――――心は絶対にあげない。

 そう言ったかつてのフィアを、フィア自身は知らない。ただ、テオドールだけは、知っていた。

「フィア・ティアトタン。いや、女王陛下、全てを捧げよう」
 宝剣をフィアの肩に触れさせ、そしてテオドールはひざまずいた。そして恭しくその手の甲に口づけをする。

「わぁ、キスだ。なんか、恥ずかしいね?」
 とアインが言い、ノインは顔を赤くしながらその顔を背けていた。

「テオ。ありがとう」
 フィアが微笑めば、テオドールは面映ゆそうにするのだ。

 フィアは自身の中に、力の萌芽を感じた。
 今はまだ、何もしていないし何も分からない、無能で無知な女王だ。
 そして今、出来ることは一つ。

 フィアは王の間の床に手を両手を付いた。そして、自分の身体中の力を注ぎこむ。
 床から壁へ、壁から窓の外へ、都へ、そして城壁の外へ、国の外へと。
 魔法のエネルギーがしみ込んでいった。壊れていた壁は一瞬のうちに修復され、鉛の球は溶けて消えていく。

「見事だな。エネルギーが充溢している」
「だが、根本的な解決にはなっていない。ギルバートをどうにかする。封印を解け」
 テオドールはフィアに言う。

「でも」
 少しだけ、戸惑いがあるのは事実だ。

「女王陛下はオレを信頼できないのか」
 と平淡な口調で問われて覚悟が決まる。

「いいえ、封印を解くわ」
 とフィアは言い、テオドールの手の甲に指輪を触れさせた。
 ぞわっとするほどの冷気がテオドールから立ち上るのが分かる。フィアがそのときチラッとテオドールを伺ったのは、今逆に封印されたら完全敗北する、と思ったからだ。

 テオドールは、
「ありがとう」と言い、音もなく消え去っていく。
「あ、あ、ありがとう!?」
 フィアは驚いて腰を抜かしそうになった。テオドールがお礼を言うなんて、初めて聞いたからだ。

 テオドールの中で、何が起こったのか、フィアには分からない。けれど、何かかが確実に変わったのに違いないのだ。

 間もなく、盛大な衝撃音が聞こえ、再び音もなくテオドールが戻って来る。
「完了だ」
「え、ギルバートは?」
「ギルバートの現状を題するなら、「氷の愚者」だ。処理方法は指示を仰ぐ」
 端的に告げた。要するに凍らせて黙らせてきた、と言うことなのだろうと思う。

「も、もう?」
 とフィアが尋ねれば、テオドールは頷く。
「砕くか?」
 と言うので、
「い、いいえ。ギルバートと話しに行くわ。話し合いをしましょう」とフィアは前のめりに言う。そうでなければ、すぐにでも砕いてしまうと思ったのだ。

「では、牢獄に入れておく。謁見の時期まで刑に服してもらおう」
 とテオドールが言う。
「牢獄って、まさか」
 とフィアは思い異議を申し立てようと思うのだが、声をかけるまでもなく去って行くのだ。足音もなく、消え去って行く。
「かなり有望な魔術師だな。王都にも欲しいくらいだ」とゼクスは言う。


「また地下国に幽閉するつもりかしら」
 とフィアが一抹の不安を感じ始めたところで、
「あれ~!?」
「身体が薄くなってる」
 とアインとノインが口々に言った。
「え、なぜ?」
 とフィアは二人の姿を交互に見る。

「何かの魔法かなぁ」
 とアインは言うけれど、ノインはすっかり怯えた顔をしていた。

「お父様が?」
 とノインは言うけれど、
「テオは、いえ、お父様はしないと思う」とフィアは言う。
 フィアやゼクスには異変がないことを思えば、二人だけに起こっていることだ、とフィアは思う。

「何で、二人だけに起こっているの?」
「二人だけ、か。だとすれば、この二人の共通点を考えればいいのか」
「共通点?アインは、あなたとあなたの愛する人との子どもよね?」
 愛する人、と口にするフィアの言いぶりに、さすがのゼクスも居心地の悪さを覚えた。

「そして、ノインは。私と」テオの、と言い募るフィアに、
「ああ」
 と答えながら、ゼクスの頭には一つの仮説が思い浮かぶのだ。まさか、とは思う。

 フィア以外の近しい人間が知っている事実。
 二人の双子関係のもたらした、その起源をゼクスは頭に思い浮かべる。

 今のフィアはスクールを卒業した時点の肉体を持っていた。騎士団に入る前のフィアであり、まだ、出会っていないはずの存在だ。
 それは、ゼクス自身も同じだった。

 だとすれば――――。

 あのあやまちの痕跡はどこにもない。奇跡の結晶を証明する身体の痕跡は、どちらにもないのだ。

「だとすれば、非常にマズいな」とゼクスは呟く。
「マズい?」
「ああ、舞台も条件も最悪だ」
 と頭を抱え始めるので、フィアはすっかり驚いてしまうのだ。そんな姿を見たことはない。

「ゼクス、どうかした?アインとノインのことで、何か分かったの?」
「仮説でしかないが、思い当たる節はあるな」
「じゃあ、教えて。このままだと、二人が消えてしまうかもしれない」
「二人が消えてしまうのは、困ることか?」

「何言っているの、当たり前でしょ」
「ノインはともかく、アインは王都で出会ったばかりだろう」
「アインは私の友人だもの。そして、あなたとあなたの愛する人の子でしょう?消えてしまうのは、困るに決まっている」
「そう。愛する人の子、だな」

 言葉の意味をしっかりと含み込むように、ゼクスが口にするので、フィアは面映ゆくなる。アイン母親のことを語るときだけ、彼の表情が柔らかくなり、口調が甘くなるのを、フィアは知っていた。

 彼に愛された人が羨ましい、と思わず思ってしまう。

「二人を存在させるためには、しなければいけないことがある」
「しなければいけないこと?それは、私に出来ることなの?」

「ああ、フィアにしか。そして、俺たちにしか出来ないことだ」
 とゼクスは言うのだが、その表情に躊躇いの色が見受けられるように、フィアには感じられた。
「ただし、フィアにとっては我慢を要するものだと、思う」
 いつも冷静沈着で、強引にでも周囲を巻き込んでしまうゼクスにしては、心もとない物言いだ、とフィアは思う。

「我慢を要するもの?それはどんな」
 フィアの問いには答えずに、ゼクスはアインとノインに声をかけた。

「アインにノイン。身体を残すために、非常に重要なことを行う。ビアンカあるいはアルフレートの元に行っていてくれ」
「なんで?僕たちだけ?」
「えーお母様とゼクスは?」
 不満の声をあげる。けれど、ゼクスは、
「このまま消えたくなければ、言うことを聞くんだな。善処するが、すべてはフィア次第だ」と有無を言わさずに追い出してしまうのだった。
 そして、フィアの手を取り、尋ねて来る。

「フィア、二人を存在させるために、ご協力いただけないだろうか?」
「勿論、協力するわ。何でそんなことをわざわざ聞くの?」
 フィアが言えばゼクスは長く長く、ため息をつくのだ。どうしたの?と問うフィアに、
「ここへ来て、信用を失うことをしなければいけないことが、苦しいんだ」
 とゼクスは言う。

 そして――――。
 フィアは触れた手からビリッと痺れを感じた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...