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第四部
再会
しおりを挟むフィアはまずビアンカやアルフレートを探すことにした。アルフレートはディトリッヒ家にいることが想像できたが、ビアンカは自由気ままに行商に出ていることも多い。
試しに、オイラー家とディトリッヒ家に出かけてみる。
ディトリッヒ家は城の西側にある軍の屯所の近くに住居を構えており、一方のオイラー家は貴族の住まいが立ち並ぶ都の東側にあった。テオドールの用いた階級制度によって、本来の貴族たちは場所を追われていたが、オイラー家はビアンカの父や兄達の交渉の手管によって、上手く地位を護っていた。
アルフレートの父である宰相はテオドールの手の内にいる。アルフレートとの接触は危険かと思われたが、運よく視察帰りと思しきアルフレートを捕まえることが出来た。
馬上から降りたった栗毛の貴公子は、フィアの姿を認めて、
「フィア!?」
と驚きのこもった声をあげる。
「アル、久しぶり。無事だった?」と気軽な挨拶をするつもりだった。
けれど、
「本当によかった、無事だったんだな。フィアが無事でなければ、この国はおしまいだった」
とアルフレートがまるで敬虔な信徒のように、目の前にひざまずいてくるので、フィアは戸惑ってしまう。
「私も追放された後のことが気になっていたの。教えてもらえる?」
「フィアがいなくなった後に残ったのは、テオドールの追放方式の政権だよ。そして、今は少し困ったことに。フィアのお兄様もいる」
「お兄様?」
「クロスト・ティアトタン様だ」
「初めて聞く名前だけれど。本当にお兄様なの?」
「ああ。兄君や姉君が追放され、王子のノインが追放されたことで、王位を略奪しようと画策し始めたようだ。普段はどこにいらっしゃるのかは分からない。隠れていらっしゃるんだ」
王子、の単語に、後ろにいたノインが身じろぎする。
「えー?ノインって王子様なの?」
とアインが言う。
ノインは黙ったまま首を横に振るのだ。アルフレートはフィアの後ろにいる面々に気づき、息を飲んだ。
ノイン、そして、ノインと同じ灰褐色の瞳の少年、そして、幼少時のフィアそっくりな金の瞳を持つシルバーブロンドの髪の少年。見る目にも分かる、明らかな血縁関係を目の前にして、出た言葉は、
「ノイン王子もご無事でよかった。そして、そちらの方々は、ティアトタン国にようこそ。私はアルフレート・ディトリッヒ。フィアの家臣に当たる家の者です」非常にシンプルなものだ。
「アルは家臣と言うよりも、昔なじみの友人よ」とフィアは、紹介する。
金色の瞳を持つ少年が、あの時逃がした子どもだとはアルフレートにも想像がついた。
年の頃がノインと同じであることからすれば、あの時、子どもは二人いたのだと分かる。しかし、アルフレートには、フィアの失われた記憶のことを口にしたならば、喉が焼き切れる魔法がかかっていた。
「初めまして、僕はアインだよ!フィアの友達」
「初めまして、アイン」
とアルフレートはアインに応えるが、その視線はその横にいるゼクスに向けられる。アルフレートにも魔法の心得が多少なりともあるし、剣の嗜みも少しはあった。アルフレートが見る限り彼には一切の隙がない、と感じられるのだ。
「そちらの、あなたは?」
とアルフレートが尋ねれば、
「ゼクスだ。よろしく、アルフレート」と簡潔に挨拶をしてくる。
年の頃はアルフレートよりも、年下に見えるが、物腰の落ち着きがあった。握手を求めてみれば、
「今は抑制魔法が切れてコントロールが効かないんだ。握手は難しい。すまない」
と言って断られてしまう。
「ビリビリに痺れると思う」
とフィアが言い添えた。
「恐らくあなたは」
とアルフレートはゼクスに、視線を送る。
「ご想像にお任せする。そして、アルフレートからすれば、ここで俺を討ち取っておくのも、一つの手だろうな。敵国の人間がまんまとやって来ているのだから、功を立てるチャンスだ」
飄々と口にするゼクスに、アルフレートは及び腰となるのだ。
「いや、あなたは騎士だろう?俺では到底無理だよ。それに、フィアの」
「私の?」
フィアが深追いすれば、アルフレートはいや、と喉をおさえて押し黙る。じりじりと喉の奥から痛みがやって来る気配があった。
「ところで、フィア?少し幼く見えるのは、気のせいか?」
とアルフレートは尋ねて来る。
「地下国で一度肉体が滅んだの。前戦争の記憶に巻き込まれたみたい。諸々あって、今はこんな感じ」
「フィアに関しては、スクール卒業時の肉体のようだ」
とゼクスは言う。
「そんな大変な道のりを来たのか?今はリュオクス国側に何やら異変があるようで、停戦状態だ。地上の方がよほど楽な道のりだったと思うけれど」
「テオがノインを地下国に落したのがいけないの。ノインをパニックにさせたら破壊力があがることを知っているはずなのに。おかげで王都の研究施設を壊してしまったし」
「ごめんなさい、お母様」
「いいえ、お父様がいけないのよ。後でしっかりと搾り上げないと」
「ディトリッヒ家にご招待したいところだが。我が家は色々と面倒もある。テオには見つかるのは本意ではないはずだ。隠れ家に招待するよ」
隠れ家?とフィアは首をかしげる。
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