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第四部
王位奪還への道のり
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1週間前。
光差す門をくぐった先は、王の間だった。
王の間には人の姿も気配もなかったけれど、城内はにわかに騒がしくなる。
聞こえたのは、
「クロスト様がまた王に歯向かっておられる」
「城内での戦闘は、もう勘弁していただきたい!」
「ギルバート様は全く歯に立たないではないですか、一体何をなさっているのか」
「無理だな。軍司様は魔術では敵うべくもない」
という大臣たちの声だ。
フィア達は急いで王の間から脱出して、中庭に出た。
中庭を抜けて、城門の外から城前広場に出る。フィアは思わずため息のような声をあげた。
「嘘みたい」
ティアトタン国の街並みは、王都に瓜二つだ。城から眼下に広がる街並みも、礼拝堂や至聖所、貴族の住まいや騎士団、軍の屯所などまで、全ての場所が一致していた。
色とりどりの建物の色も、テラスに飾られる花々、街路樹や街灯の色、全てが色鮮やかだ。
「文献では読んだが、ここまで瓜二つだとは思わなかったな」
とゼクスは言う。
「あれぇ、王都に帰って来たの?」
とアインと言い、
「うわー綺麗な街!これは本当にティアトタン?すごい!」
とノインが言った。
ノインは元々城の外に出たことがほとんどない。
「前戦争の影響がなくなったのね。私はこんなティアトタン国の都を知らない」
「物理的な部分以外でも、色々と異なっている部分もあるかもしれない」
「異なっている部分?」
「ああ」
と言葉を切って、ゼクスが伺うような目を向けてくるので、フィアは例えば?と聞いてみる。
「例えば、テオドールが王ではない。あるいはフィア以外の王妃がすでにいるとか」
「王妃がすでにいる可能性は、高いわね。かの王様は寝屋がお好きなようだから」
とフィアが皮肉満点に吐き捨てれば、
「あの熱心な刻印だけみれば。たしかにお好きなようにも、見えるな」
とゼクスは言う。
「刻印?」
「前戦争がなかった場合でも、テオドールが王位を求める可能性は?」
「テオは前戦争でお母様を失くしているの。もし、それが王位を求めるきっかけなら、戦争がなければ、王位を求めていないかも」
「それは、トリガーであって動機ではない可能性があるな」
「トリガー?」
「そうだ。母君の逝去がきっかけだとしても。テオドールが王位を求める動機は、他にある可能性がある。例えば、フィアを護るためかもしれない」
「護るのは、囲うこと?城に閉じ込めることなの?」
「それは、愛し方の問題だな」
「あ、愛し方?」
「ああ。寝屋を重視し、毎晩愛を注ぐのまた愛し方だろ。触れて、伝える愛情表現もあるかもしれない。そして、自分が矢面に立ち痛みは引き受ける、そういう愛し方もある」
ゼクスがこうして急に情熱的な物言いをしてくるときに、フィアはいつも戸惑ってしまうのだ。
「どうして、テオの心を理解できるの?」
「さあ?フィアが男心に疎いだけでは?」
愛し方。そんな言葉が出て来るとは思わなかった。
「ゼクスの、愛し方は?」
フィアが思いついたことをそのまま口にすれば、ゼクスの目に鋭い光が入り、
「最終的にすべていただく。そこまでの道のりは前戯だ」
とさらりと言う。
「え?ぜん?」
何か聞き捨てならない、凄いことを言っていたようにも聞こえたけれど。
「では、聞き込みをしよう」
とすぐに話は切り替わったので、フィアは自分の気のせいかと思った。
「そうね。状況を知りたい」
アインは広場を駆けまわっており、周囲の視線を集めてしまっている。そして、ノインは興奮のあまりにエナジーを放出しすぎて、ドラゴンの尾が出て来てしまっていた。
広場から眼下に臨める美しい街を見て、フィアは思う。
――――この街を、国を護らなければ。
ティアトタン国を制圧してみせなさい。そう姉達の姿をとった母は言っていた。
仮にテオドールから王位を奪えたとして、それで国を制圧したことになるとは思えない。
無理やり力で押さえつけるやり方では、争いの種は消えない、とフィアは思うからだ。
光差す門をくぐった先は、王の間だった。
王の間には人の姿も気配もなかったけれど、城内はにわかに騒がしくなる。
聞こえたのは、
「クロスト様がまた王に歯向かっておられる」
「城内での戦闘は、もう勘弁していただきたい!」
「ギルバート様は全く歯に立たないではないですか、一体何をなさっているのか」
「無理だな。軍司様は魔術では敵うべくもない」
という大臣たちの声だ。
フィア達は急いで王の間から脱出して、中庭に出た。
中庭を抜けて、城門の外から城前広場に出る。フィアは思わずため息のような声をあげた。
「嘘みたい」
ティアトタン国の街並みは、王都に瓜二つだ。城から眼下に広がる街並みも、礼拝堂や至聖所、貴族の住まいや騎士団、軍の屯所などまで、全ての場所が一致していた。
色とりどりの建物の色も、テラスに飾られる花々、街路樹や街灯の色、全てが色鮮やかだ。
「文献では読んだが、ここまで瓜二つだとは思わなかったな」
とゼクスは言う。
「あれぇ、王都に帰って来たの?」
とアインと言い、
「うわー綺麗な街!これは本当にティアトタン?すごい!」
とノインが言った。
ノインは元々城の外に出たことがほとんどない。
「前戦争の影響がなくなったのね。私はこんなティアトタン国の都を知らない」
「物理的な部分以外でも、色々と異なっている部分もあるかもしれない」
「異なっている部分?」
「ああ」
と言葉を切って、ゼクスが伺うような目を向けてくるので、フィアは例えば?と聞いてみる。
「例えば、テオドールが王ではない。あるいはフィア以外の王妃がすでにいるとか」
「王妃がすでにいる可能性は、高いわね。かの王様は寝屋がお好きなようだから」
とフィアが皮肉満点に吐き捨てれば、
「あの熱心な刻印だけみれば。たしかにお好きなようにも、見えるな」
とゼクスは言う。
「刻印?」
「前戦争がなかった場合でも、テオドールが王位を求める可能性は?」
「テオは前戦争でお母様を失くしているの。もし、それが王位を求めるきっかけなら、戦争がなければ、王位を求めていないかも」
「それは、トリガーであって動機ではない可能性があるな」
「トリガー?」
「そうだ。母君の逝去がきっかけだとしても。テオドールが王位を求める動機は、他にある可能性がある。例えば、フィアを護るためかもしれない」
「護るのは、囲うこと?城に閉じ込めることなの?」
「それは、愛し方の問題だな」
「あ、愛し方?」
「ああ。寝屋を重視し、毎晩愛を注ぐのまた愛し方だろ。触れて、伝える愛情表現もあるかもしれない。そして、自分が矢面に立ち痛みは引き受ける、そういう愛し方もある」
ゼクスがこうして急に情熱的な物言いをしてくるときに、フィアはいつも戸惑ってしまうのだ。
「どうして、テオの心を理解できるの?」
「さあ?フィアが男心に疎いだけでは?」
愛し方。そんな言葉が出て来るとは思わなかった。
「ゼクスの、愛し方は?」
フィアが思いついたことをそのまま口にすれば、ゼクスの目に鋭い光が入り、
「最終的にすべていただく。そこまでの道のりは前戯だ」
とさらりと言う。
「え?ぜん?」
何か聞き捨てならない、凄いことを言っていたようにも聞こえたけれど。
「では、聞き込みをしよう」
とすぐに話は切り替わったので、フィアは自分の気のせいかと思った。
「そうね。状況を知りたい」
アインは広場を駆けまわっており、周囲の視線を集めてしまっている。そして、ノインは興奮のあまりにエナジーを放出しすぎて、ドラゴンの尾が出て来てしまっていた。
広場から眼下に臨める美しい街を見て、フィアは思う。
――――この街を、国を護らなければ。
ティアトタン国を制圧してみせなさい。そう姉達の姿をとった母は言っていた。
仮にテオドールから王位を奪えたとして、それで国を制圧したことになるとは思えない。
無理やり力で押さえつけるやり方では、争いの種は消えない、とフィアは思うからだ。
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