42 / 51
第四部
王位奪還への道のり
しおりを挟む
1週間前。
光差す門をくぐった先は、王の間だった。
王の間には人の姿も気配もなかったけれど、城内はにわかに騒がしくなる。
聞こえたのは、
「クロスト様がまた王に歯向かっておられる」
「城内での戦闘は、もう勘弁していただきたい!」
「ギルバート様は全く歯に立たないではないですか、一体何をなさっているのか」
「無理だな。軍司様は魔術では敵うべくもない」
という大臣たちの声だ。
フィア達は急いで王の間から脱出して、中庭に出た。
中庭を抜けて、城門の外から城前広場に出る。フィアは思わずため息のような声をあげた。
「嘘みたい」
ティアトタン国の街並みは、王都に瓜二つだ。城から眼下に広がる街並みも、礼拝堂や至聖所、貴族の住まいや騎士団、軍の屯所などまで、全ての場所が一致していた。
色とりどりの建物の色も、テラスに飾られる花々、街路樹や街灯の色、全てが色鮮やかだ。
「文献では読んだが、ここまで瓜二つだとは思わなかったな」
とゼクスは言う。
「あれぇ、王都に帰って来たの?」
とアインと言い、
「うわー綺麗な街!これは本当にティアトタン?すごい!」
とノインが言った。
ノインは元々城の外に出たことがほとんどない。
「前戦争の影響がなくなったのね。私はこんなティアトタン国の都を知らない」
「物理的な部分以外でも、色々と異なっている部分もあるかもしれない」
「異なっている部分?」
「ああ」
と言葉を切って、ゼクスが伺うような目を向けてくるので、フィアは例えば?と聞いてみる。
「例えば、テオドールが王ではない。あるいはフィア以外の王妃がすでにいるとか」
「王妃がすでにいる可能性は、高いわね。かの王様は寝屋がお好きなようだから」
とフィアが皮肉満点に吐き捨てれば、
「あの熱心な刻印だけみれば。たしかにお好きなようにも、見えるな」
とゼクスは言う。
「刻印?」
「前戦争がなかった場合でも、テオドールが王位を求める可能性は?」
「テオは前戦争でお母様を失くしているの。もし、それが王位を求めるきっかけなら、戦争がなければ、王位を求めていないかも」
「それは、トリガーであって動機ではない可能性があるな」
「トリガー?」
「そうだ。母君の逝去がきっかけだとしても。テオドールが王位を求める動機は、他にある可能性がある。例えば、フィアを護るためかもしれない」
「護るのは、囲うこと?城に閉じ込めることなの?」
「それは、愛し方の問題だな」
「あ、愛し方?」
「ああ。寝屋を重視し、毎晩愛を注ぐのまた愛し方だろ。触れて、伝える愛情表現もあるかもしれない。そして、自分が矢面に立ち痛みは引き受ける、そういう愛し方もある」
ゼクスがこうして急に情熱的な物言いをしてくるときに、フィアはいつも戸惑ってしまうのだ。
「どうして、テオの心を理解できるの?」
「さあ?フィアが男心に疎いだけでは?」
愛し方。そんな言葉が出て来るとは思わなかった。
「ゼクスの、愛し方は?」
フィアが思いついたことをそのまま口にすれば、ゼクスの目に鋭い光が入り、
「最終的にすべていただく。そこまでの道のりは前戯だ」
とさらりと言う。
「え?ぜん?」
何か聞き捨てならない、凄いことを言っていたようにも聞こえたけれど。
「では、聞き込みをしよう」
とすぐに話は切り替わったので、フィアは自分の気のせいかと思った。
「そうね。状況を知りたい」
アインは広場を駆けまわっており、周囲の視線を集めてしまっている。そして、ノインは興奮のあまりにエナジーを放出しすぎて、ドラゴンの尾が出て来てしまっていた。
広場から眼下に臨める美しい街を見て、フィアは思う。
――――この街を、国を護らなければ。
ティアトタン国を制圧してみせなさい。そう姉達の姿をとった母は言っていた。
仮にテオドールから王位を奪えたとして、それで国を制圧したことになるとは思えない。
無理やり力で押さえつけるやり方では、争いの種は消えない、とフィアは思うからだ。
光差す門をくぐった先は、王の間だった。
王の間には人の姿も気配もなかったけれど、城内はにわかに騒がしくなる。
聞こえたのは、
「クロスト様がまた王に歯向かっておられる」
「城内での戦闘は、もう勘弁していただきたい!」
「ギルバート様は全く歯に立たないではないですか、一体何をなさっているのか」
「無理だな。軍司様は魔術では敵うべくもない」
という大臣たちの声だ。
フィア達は急いで王の間から脱出して、中庭に出た。
中庭を抜けて、城門の外から城前広場に出る。フィアは思わずため息のような声をあげた。
「嘘みたい」
ティアトタン国の街並みは、王都に瓜二つだ。城から眼下に広がる街並みも、礼拝堂や至聖所、貴族の住まいや騎士団、軍の屯所などまで、全ての場所が一致していた。
色とりどりの建物の色も、テラスに飾られる花々、街路樹や街灯の色、全てが色鮮やかだ。
「文献では読んだが、ここまで瓜二つだとは思わなかったな」
とゼクスは言う。
「あれぇ、王都に帰って来たの?」
とアインと言い、
「うわー綺麗な街!これは本当にティアトタン?すごい!」
とノインが言った。
ノインは元々城の外に出たことがほとんどない。
「前戦争の影響がなくなったのね。私はこんなティアトタン国の都を知らない」
「物理的な部分以外でも、色々と異なっている部分もあるかもしれない」
「異なっている部分?」
「ああ」
と言葉を切って、ゼクスが伺うような目を向けてくるので、フィアは例えば?と聞いてみる。
「例えば、テオドールが王ではない。あるいはフィア以外の王妃がすでにいるとか」
「王妃がすでにいる可能性は、高いわね。かの王様は寝屋がお好きなようだから」
とフィアが皮肉満点に吐き捨てれば、
「あの熱心な刻印だけみれば。たしかにお好きなようにも、見えるな」
とゼクスは言う。
「刻印?」
「前戦争がなかった場合でも、テオドールが王位を求める可能性は?」
「テオは前戦争でお母様を失くしているの。もし、それが王位を求めるきっかけなら、戦争がなければ、王位を求めていないかも」
「それは、トリガーであって動機ではない可能性があるな」
「トリガー?」
「そうだ。母君の逝去がきっかけだとしても。テオドールが王位を求める動機は、他にある可能性がある。例えば、フィアを護るためかもしれない」
「護るのは、囲うこと?城に閉じ込めることなの?」
「それは、愛し方の問題だな」
「あ、愛し方?」
「ああ。寝屋を重視し、毎晩愛を注ぐのまた愛し方だろ。触れて、伝える愛情表現もあるかもしれない。そして、自分が矢面に立ち痛みは引き受ける、そういう愛し方もある」
ゼクスがこうして急に情熱的な物言いをしてくるときに、フィアはいつも戸惑ってしまうのだ。
「どうして、テオの心を理解できるの?」
「さあ?フィアが男心に疎いだけでは?」
愛し方。そんな言葉が出て来るとは思わなかった。
「ゼクスの、愛し方は?」
フィアが思いついたことをそのまま口にすれば、ゼクスの目に鋭い光が入り、
「最終的にすべていただく。そこまでの道のりは前戯だ」
とさらりと言う。
「え?ぜん?」
何か聞き捨てならない、凄いことを言っていたようにも聞こえたけれど。
「では、聞き込みをしよう」
とすぐに話は切り替わったので、フィアは自分の気のせいかと思った。
「そうね。状況を知りたい」
アインは広場を駆けまわっており、周囲の視線を集めてしまっている。そして、ノインは興奮のあまりにエナジーを放出しすぎて、ドラゴンの尾が出て来てしまっていた。
広場から眼下に臨める美しい街を見て、フィアは思う。
――――この街を、国を護らなければ。
ティアトタン国を制圧してみせなさい。そう姉達の姿をとった母は言っていた。
仮にテオドールから王位を奪えたとして、それで国を制圧したことになるとは思えない。
無理やり力で押さえつけるやり方では、争いの種は消えない、とフィアは思うからだ。
8
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

婚約解消したら後悔しました
せいめ
恋愛
別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。
婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。
ご都合主義です。ゆるい設定です。
誤字脱字お許しください。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる