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第三部
地下の家族
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コトスの家で、フィア達は大歓迎される。ドラゴン姿のノインに関しては、「おお、我が同胞」とコトスは八本の手で抱きしめていた。レオスやギュスもまた、同様にノインに抱擁を求める。
コトス達は、ドラゴン姿のノインを「同胞」と呼ぶのだ。
「フィア!久しぶりだな。ぜひ心行くまで、休んでいってほしい」
とコトスは言い、巨大な兎やトカゲ、蛇などを使った野趣あふれる食卓に案内されるのだった。巨大な岩でできた食卓に乗る食材に、アインは目を輝かせて、片っ端から平らげていく。更には、
「すごぉおい!広いぃ!」
とアインはコトスの家の中を駆けまわるのだった。コトスの家は岩穴の中にいくつも枝分かれした通路があり、部屋がある。地上でいれば蟻の巣のような形状をしていた。アインはのべつ幕無しに、駆けまわっていく。頑丈な岩壁は、アインがぶつかってももろともしない。
「騒がしくて申し訳ない。アイツは、物珍しいものが好きなんだ。それにこの頃は自由に動きまわれずにいたからな。すっかり羽根を伸ばしてしまっている」
とゼクスは弁明するものの、自身も王都であればあり得ない形状の住まいに、関心を示している。
「この壁は、魔法への耐性がありそうだな、雷撃には耐えうるだろうか?」とコトスに尋ねていた。
地下国特有の大穴の家や、コトス達の姿に、ゼクスやノインが尻込みする可能性を、フィアは考えたが、そんな心配は無用だった。
「我らの姿が恐ろしくはないのか?お前達は、恐らく地上の者だろう?それにその黄金の瞳は、王族の印だ」とアインにコトスは言う。
「そして、灰褐色の瞳。ライアが予言した、ティアトタンの解放者だよな?」とレオスはゼクスに言うのだった。
「ティアトタンの解放者?」
お母様はそんなことを言っていたの?とフィアは思う。
「我らの姿はさぞかし、不思議な姿に映るだろう?」
「不思議ではあるが、恐ろしくはないな。これっぽっちも」
「うん、カッコイイ」
ゼクスとアインが端から好意的なこともあって、コトス達ともすぐに打ち解けていった。
終始和やかな食卓だったが、フィアがティアトタンの国内の事情を尋ねると、たちまちコトス達の口は重くなる。テオドールがノインを追放したことをコトス達はよく思っていなかったし、度々偵察に来るギルバートら軍部の不遜な振る舞いも、コトス達地下国の者達からすれば、理不尽極まりないことだ。
聞くにつれ、ティアトタン国内が分裂しているとフィアは感じる。兄や姉など、ラヌス前国王の子ども達と、ライア前王妃の家族、そしてテオドール一派。三つの権力に分断されているのだ。歯向かうものを片っ端から追放するテオドールのやり方は、結局火種を増やしているだけだった。
地下国の争いにより、ティアトタン国やその周辺地域でも魔法の枯渇が起こり、作物が育ちにくくなっている、とノインは、フランツからの聞きかじりの情報を話す。
さらにノインが、「お父様は、新しいお母様を探しては追い出すんだ。ムミカンソウがお父様の口癖」と言ったことで、フィアの闘志には火がついてしまった。
「散々好き放題しておきながら……。私を追放した後に、すぐに後妻探しとはいいご身分ね」
「宰相たちが、あちこちから新しいお母様を連れてくるんだ」
「新しいお母様……」
「宰相であれば。王に扱いやすいご令嬢、貴婦人方を王妃にあてがえばいい、と考えそうなものだな。そして従順で扱いやすい後継者が生まれれば最高だ。ただ、本人の意向は、どの程度反映されているのか」
と自身の経験上からゼクスが口を開けば、
「つまりは、据え膳上げ膳を食わぬは、男のなんとやら?ぜひその辺りは殿方からご意見を聞きたいところね」
とすっかり頭に来ているフィアは矛先を向けてくるのだった。地雷を踏んだな、とゼクスは思う。ただ、ゼクス本人は、後継者に関して宰相の意図も、前総督である父の意図にも迎合していない。フィアからアインを託されたからだ。
「一個人としては、上げ膳据え膳はいただかない意向だな。欲しければ、自ら狩る」
「か、狩る?」
「ああ、ご膳のように置かれたままでは、食指が動かない。欲しいときに自ら狩り、生け捕りでいただきたいものだ」
ゼクスは風変わりな趣向をさらりと語る。
「魚の踊り食いのこと?」とアイン。
「ゼ、ゼクス。聞いた相手を間違ったかもしれないわ。あなたは、少し特殊ね」
「よく言われる。だから言っただろ、一個人としては、と」
「いずれにしても。テオは後継者を新たに作ろうしているのね。ノインをこうして追い出して」
フィアにとってはその点が許せなかった。テオドールにとって、我が子もその程度の扱いなの?と思ったからだ。
テオドールとノインに血縁がないことも、そして、かつてテオドールが赤子であるノインの命を救ったことも、記憶を消されたフィアは知らなかった。
「ノインであれ、フィアの兄君、姉君であれ。命を取らずに、追放ですませるあたりに、テオドールの甘さがある。フィアの関係者に対しては無慈悲になれないのでは?」
「テオは前戦争でお母様を失っている。その復讐心から、テオはお父様を倒し、王になった。慈悲なんてないと思う」
「前戦争?何を言っているんだよ、フィア」と最年少のギュスが言う。
「え?」
「前戦争とはなんだ?」とコストも言うのだ。
「前戦争は、15年ほど前に王都がティアトタン国に攻め入り、国の一部が壊滅した戦争のこと。ティアトタン国では知らない人は、あまりいないと思うけれど」
とフィアは言うけれど、コトスは怪訝な反応をする。
「王都からの襲撃はあったようだが、それほど甚大な被害ではなかった」
「待って、前戦争はコトス達の記憶にはないの?」
「そうだなぁ、そんなもの聞いたことはない」とレオスまでも言う。
「どういうこと?前戦争がなくなった?」
フィアはゼクスと顔を見合わせる。
地下国の思いがけない冒険で前戦争に居合わせたのを思い出していた。そのとき、光りの渦に巻き込まれてしまい、二人は、当時幼子であった自分たちに乗り移ったのだ。
「あの時、石の壁が完成したことにより、ティアトタン国は護られていた?」
「それが、現実に反映されているのか」
「だとするなら、ティアトタン国に戻らなければ。今国がどんな風になっているのか、気になる」
青銅の門をくぐれれば、ティアトタン国の城に出られるはずだ。そうフィアが言えば、
「多分、地上側の入り口には魔道部隊が控えていると思う。それに、お父様が結界を張っているかもしれない」とノインが言う。
「地下側の出口はどこにある?」ゼクスが問えば、
「伯父様達の、岩城の中だよ。伯母様達が門を封印している。だからギルバートも中々最近はこっちに来れないんだ」とノインは答えた。
「つまり、お兄様達の城を攻略しなければ、地上には帰れないのね?」
「では、攻略すればいい」
とゼクスはいとも簡単に言ってのける。
「そんな簡単に言わないで」
「ところで、テオドールとフィアはどちらが強いんだ?」
「え?」
「封印されていない状態で、テオドールと戦ったことはあるか?」
「ない。でも、どういう意味?」
「テオドールは十一人すべての兄君、姉君を一人で地下国送りにしていたな。フィア一人で岩城を突破できれば、テオドールを凌いだことになる」
「煽るのはやめて」
と言いつつも、フィアは少しばかり闘志が刺激されるのだった。絶対に手合わせすらしてくれない、テオドールに自分はどの程度報いることができるのか、と。
「一人では厳しくとも、こちらにはさらに怪物が二人もいる。攻略出来ない理由はないな」
と言って、ゼクスはノインとアインに視線を注ぐ。
「ゼクス、あなたは?」
「俺はただの無力なガルド人だ。大してお役には立てないだろうな」とわざとらしく肩をすくめて見れる。
「無力なガルド人?どの口が言っているの?雷光の速さで走れるガルド人なんて、きっといないわ」
「助力くらいはさせていだたこう」
「それは、どうもありがとう」
とわざとフィアは抑揚なく言う。ゼクスのアカデミー時代の記憶をたどる中で、彼の面倒事を跳ねのける癖に気づいてきた。けれど、肝心なところでは協力してくれるというのも、分かって来ている。
「作戦開始だな」
とゼクスが言い、フィアは頷いた。
コトス達は、ドラゴン姿のノインを「同胞」と呼ぶのだ。
「フィア!久しぶりだな。ぜひ心行くまで、休んでいってほしい」
とコトスは言い、巨大な兎やトカゲ、蛇などを使った野趣あふれる食卓に案内されるのだった。巨大な岩でできた食卓に乗る食材に、アインは目を輝かせて、片っ端から平らげていく。更には、
「すごぉおい!広いぃ!」
とアインはコトスの家の中を駆けまわるのだった。コトスの家は岩穴の中にいくつも枝分かれした通路があり、部屋がある。地上でいれば蟻の巣のような形状をしていた。アインはのべつ幕無しに、駆けまわっていく。頑丈な岩壁は、アインがぶつかってももろともしない。
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とゼクスは弁明するものの、自身も王都であればあり得ない形状の住まいに、関心を示している。
「この壁は、魔法への耐性がありそうだな、雷撃には耐えうるだろうか?」とコトスに尋ねていた。
地下国特有の大穴の家や、コトス達の姿に、ゼクスやノインが尻込みする可能性を、フィアは考えたが、そんな心配は無用だった。
「我らの姿が恐ろしくはないのか?お前達は、恐らく地上の者だろう?それにその黄金の瞳は、王族の印だ」とアインにコトスは言う。
「そして、灰褐色の瞳。ライアが予言した、ティアトタンの解放者だよな?」とレオスはゼクスに言うのだった。
「ティアトタンの解放者?」
お母様はそんなことを言っていたの?とフィアは思う。
「我らの姿はさぞかし、不思議な姿に映るだろう?」
「不思議ではあるが、恐ろしくはないな。これっぽっちも」
「うん、カッコイイ」
ゼクスとアインが端から好意的なこともあって、コトス達ともすぐに打ち解けていった。
終始和やかな食卓だったが、フィアがティアトタンの国内の事情を尋ねると、たちまちコトス達の口は重くなる。テオドールがノインを追放したことをコトス達はよく思っていなかったし、度々偵察に来るギルバートら軍部の不遜な振る舞いも、コトス達地下国の者達からすれば、理不尽極まりないことだ。
聞くにつれ、ティアトタン国内が分裂しているとフィアは感じる。兄や姉など、ラヌス前国王の子ども達と、ライア前王妃の家族、そしてテオドール一派。三つの権力に分断されているのだ。歯向かうものを片っ端から追放するテオドールのやり方は、結局火種を増やしているだけだった。
地下国の争いにより、ティアトタン国やその周辺地域でも魔法の枯渇が起こり、作物が育ちにくくなっている、とノインは、フランツからの聞きかじりの情報を話す。
さらにノインが、「お父様は、新しいお母様を探しては追い出すんだ。ムミカンソウがお父様の口癖」と言ったことで、フィアの闘志には火がついてしまった。
「散々好き放題しておきながら……。私を追放した後に、すぐに後妻探しとはいいご身分ね」
「宰相たちが、あちこちから新しいお母様を連れてくるんだ」
「新しいお母様……」
「宰相であれば。王に扱いやすいご令嬢、貴婦人方を王妃にあてがえばいい、と考えそうなものだな。そして従順で扱いやすい後継者が生まれれば最高だ。ただ、本人の意向は、どの程度反映されているのか」
と自身の経験上からゼクスが口を開けば、
「つまりは、据え膳上げ膳を食わぬは、男のなんとやら?ぜひその辺りは殿方からご意見を聞きたいところね」
とすっかり頭に来ているフィアは矛先を向けてくるのだった。地雷を踏んだな、とゼクスは思う。ただ、ゼクス本人は、後継者に関して宰相の意図も、前総督である父の意図にも迎合していない。フィアからアインを託されたからだ。
「一個人としては、上げ膳据え膳はいただかない意向だな。欲しければ、自ら狩る」
「か、狩る?」
「ああ、ご膳のように置かれたままでは、食指が動かない。欲しいときに自ら狩り、生け捕りでいただきたいものだ」
ゼクスは風変わりな趣向をさらりと語る。
「魚の踊り食いのこと?」とアイン。
「ゼ、ゼクス。聞いた相手を間違ったかもしれないわ。あなたは、少し特殊ね」
「よく言われる。だから言っただろ、一個人としては、と」
「いずれにしても。テオは後継者を新たに作ろうしているのね。ノインをこうして追い出して」
フィアにとってはその点が許せなかった。テオドールにとって、我が子もその程度の扱いなの?と思ったからだ。
テオドールとノインに血縁がないことも、そして、かつてテオドールが赤子であるノインの命を救ったことも、記憶を消されたフィアは知らなかった。
「ノインであれ、フィアの兄君、姉君であれ。命を取らずに、追放ですませるあたりに、テオドールの甘さがある。フィアの関係者に対しては無慈悲になれないのでは?」
「テオは前戦争でお母様を失っている。その復讐心から、テオはお父様を倒し、王になった。慈悲なんてないと思う」
「前戦争?何を言っているんだよ、フィア」と最年少のギュスが言う。
「え?」
「前戦争とはなんだ?」とコストも言うのだ。
「前戦争は、15年ほど前に王都がティアトタン国に攻め入り、国の一部が壊滅した戦争のこと。ティアトタン国では知らない人は、あまりいないと思うけれど」
とフィアは言うけれど、コトスは怪訝な反応をする。
「王都からの襲撃はあったようだが、それほど甚大な被害ではなかった」
「待って、前戦争はコトス達の記憶にはないの?」
「そうだなぁ、そんなもの聞いたことはない」とレオスまでも言う。
「どういうこと?前戦争がなくなった?」
フィアはゼクスと顔を見合わせる。
地下国の思いがけない冒険で前戦争に居合わせたのを思い出していた。そのとき、光りの渦に巻き込まれてしまい、二人は、当時幼子であった自分たちに乗り移ったのだ。
「あの時、石の壁が完成したことにより、ティアトタン国は護られていた?」
「それが、現実に反映されているのか」
「だとするなら、ティアトタン国に戻らなければ。今国がどんな風になっているのか、気になる」
青銅の門をくぐれれば、ティアトタン国の城に出られるはずだ。そうフィアが言えば、
「多分、地上側の入り口には魔道部隊が控えていると思う。それに、お父様が結界を張っているかもしれない」とノインが言う。
「地下側の出口はどこにある?」ゼクスが問えば、
「伯父様達の、岩城の中だよ。伯母様達が門を封印している。だからギルバートも中々最近はこっちに来れないんだ」とノインは答えた。
「つまり、お兄様達の城を攻略しなければ、地上には帰れないのね?」
「では、攻略すればいい」
とゼクスはいとも簡単に言ってのける。
「そんな簡単に言わないで」
「ところで、テオドールとフィアはどちらが強いんだ?」
「え?」
「封印されていない状態で、テオドールと戦ったことはあるか?」
「ない。でも、どういう意味?」
「テオドールは十一人すべての兄君、姉君を一人で地下国送りにしていたな。フィア一人で岩城を突破できれば、テオドールを凌いだことになる」
「煽るのはやめて」
と言いつつも、フィアは少しばかり闘志が刺激されるのだった。絶対に手合わせすらしてくれない、テオドールに自分はどの程度報いることができるのか、と。
「一人では厳しくとも、こちらにはさらに怪物が二人もいる。攻略出来ない理由はないな」
と言って、ゼクスはノインとアインに視線を注ぐ。
「ゼクス、あなたは?」
「俺はただの無力なガルド人だ。大してお役には立てないだろうな」とわざとらしく肩をすくめて見れる。
「無力なガルド人?どの口が言っているの?雷光の速さで走れるガルド人なんて、きっといないわ」
「助力くらいはさせていだたこう」
「それは、どうもありがとう」
とわざとフィアは抑揚なく言う。ゼクスのアカデミー時代の記憶をたどる中で、彼の面倒事を跳ねのける癖に気づいてきた。けれど、肝心なところでは協力してくれるというのも、分かって来ている。
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