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第三部
幼い両親
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地下国のノインは、コトスの家である岩穴から出て、月の光が照らす山を見上げていた。山の上にはフィアの長兄であるケアスを中心に、兄や姉たちが岩の城を作っている。陣地を作り、そこから岩を投擲して地下国の街を壊そうとしているのだった。
地下国の住民たちは山城へと火を放ち、追い払おうとしている。その規模があまりにも大きく、自然災害のようですらあった。翼を持つ者たちは、山城へと魔法を放ちにいく。宵闇の国に炎の手があがらない日はないため、この頃地下国は常に黄昏時のような明るさである。
恐怖を覚えていたのは、テオドールやラヌスにより、罪人として地下国に閉じ込められてしまっていた者たちだ。魔法の力を持たない者たちは、その光景を見て地獄を思うのだった。
山城の上に、緋色のドラゴンが回りながら落下していくのを見つけて、ノインはハッとする。同時に、自分と同い年くらいの少年が降って来るのを遠目に見た。どうやらドラゴンも少年も気を失っているようだ。あれは、まさに自分の半身とアインだった。
そして、アインが落ちていったのは、まさに山城の中心部だ。
――――マズいって、そこは根城だし。
ノインは慌てて片割れと同化する。アインをくわえて確保して飛びたつが、下方から投げられてきた巨大な岩がダイレクトにぶつかってくる――――。
岩が砕け、粉上になって風に散るのを、ノインはスローモーションで見ていた。砕け散った岩の向こう側にも飛んでくる複数の岩を見つける。
「避けて!」
と少女の声が飛んできて、ノインは身体を逸らした。近くの岩場を見れば、灰色の髪の少年が鞘のついたままの剣の上に、少女を乗せている。
「行け、フィア!」
と少年が言い、剣を振るえば、鞘の上に乗っていたシルバーブロンドの髪の少女がこちらへ向かって飛んできた。
「え?」
少女は旋回しながら飛んできて、飛び交う岩に拳を当てていき、次々に破壊していく。巨大な岩は瞬時に粉となって、地上へと降り注いでいった。ひとまず飛んできた岩は全て破壊し終わり、少女はドレスの裾を押さえながら、落下していく。下にいた少年が受けとめるが、再び岩が落下して来た。
「今度は、ゼクスがどうにかして」
と少女が言う。
「岩を切ったことはないな」と呟いた少年だったが、少女が手を組み上に乗るように言うのだ。
「姫君を足場にする?そんな騎士教育は受けていないが」
と少年が言い訳を口にしている間にも岩が降って来るので、
「もう、早くして!」
しびれを切らした少女は少年の手を取り、振り回すようにして、投げ飛ばした。飛んできた少年は身体を捻り、剣を岩に挿し込んだ。
閃光が走り、剣が岩を串刺しにしていく。岩に血管のように光の筋が走り、破損した一部の岩の一部が落下していった。
「すごい!」
とノインは思い、少女のいる岩場に近づいていく。
「閃電石ね」
と言って落ちて来た石を受けとめる少女の姿を見て、ノインは母を思い出した。シルバーブロンドの髪に、エメラルドグリーンの瞳を持つ少女は、ノインの母・フィアの容姿の特徴そのままだ。ただ、この少女は、実際に母よりも 大分幼い。
飛んでいった少年は少女のいる岩場へと、着地する。
「随分と手荒だったな」
とため息をつきながら、少年は気だるい動きで剣の塵を払う。そして、再び岩が降り注いでくるのを見て、少女もまた、ため息をついた。
「キリがないわ、一旦引きましょう。ノインも」とノインの方を見て、少女は言ってくるので、ノインは驚いてしまった。
「お母様?」
とノインはつい尋ねてしまってから、後悔する。そんなわけがない、と思ったからだ。
「すごいわノイン。どうして分かるの?」と少女は言う。
「お母様に似ているから」
「中々見る目がある。ただ、幼子姿のままなら、分かったかどうか。ここまでの道中、中々時間がかかった」
と少年は言うのだが、ノインは、この少年にもどことなく見覚えがあるような気もする。少年は、自分の瞳の色と同じ瞳を持っていた。
「ティアトタン国で、まさか命を失うなんて。あの場所にいた自分に乗り移ることになるなんて、思わなかった」と少女、フィアは言う。
「おかげで、フィアのことが色々分かったよ」と少年、ゼクスは言った。
ティアトタン国の強力な魔法に巻き込まれ、成人した二人の肉体は滅んだ。そして、七歳の頃の自分たちに、現在の魂が宿ってしまった。そして、ここまでの道中で、狼にいざなわれるままに、様々な記憶に触れて来ていたのだ。
モントリヒト公国のスクールや、王都アカデミーの記憶を経て、二人は地下国の山城に行き着いていた。
記憶を経たことにより、それぞれスクールやアカデミーを卒業した頃の身体にまでようやく成長している。長い道のりだった、とフィアは思う。
「覚えのないことも多いわ。特に、モントリヒト公国のスクールには記憶はないもの」
「さあ、夢もまざっているのでは?」
「ビアンカも、ルキシウスもいた。あれは、本当に夢なの?」
「地下国では、色々起こるんだろう?」
ゼクスには一つの仮説があった。
地下国はその者の記憶に触れる場所なのかもしれない。ある種、冥界にも近しい危うい場所なのでは?と。
「でも。とても、リアルな手ごたえがあった。特にエナジーを吸いとる感覚は……」
と少年と少女が話しているうちにも、岩が降り注いでくるのだ。
「話している場合ではないな、そろそろ退散しなければ」
とゼクスは言う。
「ノイン、コトス達の場所に案内できる?」
と母に言われてノインは頷いた。
「付いてきて、お母様」
と告げて、ノインは飛びたつ。ブラブラとノインの口先で揺れるアインが目を覚ました。
「ふぁあ、お父様とフィアの声がしたなぁ~!」とあくびをしながら、のんびりと言うアインに、ノインはため息をもらす。そして、アインと幼いフィアがそっくりであることに、ノインは気づくのだった。
地下国の住民たちは山城へと火を放ち、追い払おうとしている。その規模があまりにも大きく、自然災害のようですらあった。翼を持つ者たちは、山城へと魔法を放ちにいく。宵闇の国に炎の手があがらない日はないため、この頃地下国は常に黄昏時のような明るさである。
恐怖を覚えていたのは、テオドールやラヌスにより、罪人として地下国に閉じ込められてしまっていた者たちだ。魔法の力を持たない者たちは、その光景を見て地獄を思うのだった。
山城の上に、緋色のドラゴンが回りながら落下していくのを見つけて、ノインはハッとする。同時に、自分と同い年くらいの少年が降って来るのを遠目に見た。どうやらドラゴンも少年も気を失っているようだ。あれは、まさに自分の半身とアインだった。
そして、アインが落ちていったのは、まさに山城の中心部だ。
――――マズいって、そこは根城だし。
ノインは慌てて片割れと同化する。アインをくわえて確保して飛びたつが、下方から投げられてきた巨大な岩がダイレクトにぶつかってくる――――。
岩が砕け、粉上になって風に散るのを、ノインはスローモーションで見ていた。砕け散った岩の向こう側にも飛んでくる複数の岩を見つける。
「避けて!」
と少女の声が飛んできて、ノインは身体を逸らした。近くの岩場を見れば、灰色の髪の少年が鞘のついたままの剣の上に、少女を乗せている。
「行け、フィア!」
と少年が言い、剣を振るえば、鞘の上に乗っていたシルバーブロンドの髪の少女がこちらへ向かって飛んできた。
「え?」
少女は旋回しながら飛んできて、飛び交う岩に拳を当てていき、次々に破壊していく。巨大な岩は瞬時に粉となって、地上へと降り注いでいった。ひとまず飛んできた岩は全て破壊し終わり、少女はドレスの裾を押さえながら、落下していく。下にいた少年が受けとめるが、再び岩が落下して来た。
「今度は、ゼクスがどうにかして」
と少女が言う。
「岩を切ったことはないな」と呟いた少年だったが、少女が手を組み上に乗るように言うのだ。
「姫君を足場にする?そんな騎士教育は受けていないが」
と少年が言い訳を口にしている間にも岩が降って来るので、
「もう、早くして!」
しびれを切らした少女は少年の手を取り、振り回すようにして、投げ飛ばした。飛んできた少年は身体を捻り、剣を岩に挿し込んだ。
閃光が走り、剣が岩を串刺しにしていく。岩に血管のように光の筋が走り、破損した一部の岩の一部が落下していった。
「すごい!」
とノインは思い、少女のいる岩場に近づいていく。
「閃電石ね」
と言って落ちて来た石を受けとめる少女の姿を見て、ノインは母を思い出した。シルバーブロンドの髪に、エメラルドグリーンの瞳を持つ少女は、ノインの母・フィアの容姿の特徴そのままだ。ただ、この少女は、実際に母よりも 大分幼い。
飛んでいった少年は少女のいる岩場へと、着地する。
「随分と手荒だったな」
とため息をつきながら、少年は気だるい動きで剣の塵を払う。そして、再び岩が降り注いでくるのを見て、少女もまた、ため息をついた。
「キリがないわ、一旦引きましょう。ノインも」とノインの方を見て、少女は言ってくるので、ノインは驚いてしまった。
「お母様?」
とノインはつい尋ねてしまってから、後悔する。そんなわけがない、と思ったからだ。
「すごいわノイン。どうして分かるの?」と少女は言う。
「お母様に似ているから」
「中々見る目がある。ただ、幼子姿のままなら、分かったかどうか。ここまでの道中、中々時間がかかった」
と少年は言うのだが、ノインは、この少年にもどことなく見覚えがあるような気もする。少年は、自分の瞳の色と同じ瞳を持っていた。
「ティアトタン国で、まさか命を失うなんて。あの場所にいた自分に乗り移ることになるなんて、思わなかった」と少女、フィアは言う。
「おかげで、フィアのことが色々分かったよ」と少年、ゼクスは言った。
ティアトタン国の強力な魔法に巻き込まれ、成人した二人の肉体は滅んだ。そして、七歳の頃の自分たちに、現在の魂が宿ってしまった。そして、ここまでの道中で、狼にいざなわれるままに、様々な記憶に触れて来ていたのだ。
モントリヒト公国のスクールや、王都アカデミーの記憶を経て、二人は地下国の山城に行き着いていた。
記憶を経たことにより、それぞれスクールやアカデミーを卒業した頃の身体にまでようやく成長している。長い道のりだった、とフィアは思う。
「覚えのないことも多いわ。特に、モントリヒト公国のスクールには記憶はないもの」
「さあ、夢もまざっているのでは?」
「ビアンカも、ルキシウスもいた。あれは、本当に夢なの?」
「地下国では、色々起こるんだろう?」
ゼクスには一つの仮説があった。
地下国はその者の記憶に触れる場所なのかもしれない。ある種、冥界にも近しい危うい場所なのでは?と。
「でも。とても、リアルな手ごたえがあった。特にエナジーを吸いとる感覚は……」
と少年と少女が話しているうちにも、岩が降り注いでくるのだ。
「話している場合ではないな、そろそろ退散しなければ」
とゼクスは言う。
「ノイン、コトス達の場所に案内できる?」
と母に言われてノインは頷いた。
「付いてきて、お母様」
と告げて、ノインは飛びたつ。ブラブラとノインの口先で揺れるアインが目を覚ました。
「ふぁあ、お父様とフィアの声がしたなぁ~!」とあくびをしながら、のんびりと言うアインに、ノインはため息をもらす。そして、アインと幼いフィアがそっくりであることに、ノインは気づくのだった。
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