30 / 51
第三部
隠れていた兄
しおりを挟むテオドールは1年ほど前のラヌス王崩御に関して、地下国の関与を知っている。ラヌス王を死に追いやったのは、フィアの異母兄であり、十二人兄弟の末子であるクロストだ。
クロストは隠された十二人目の兄弟で、兄たちによって、父であるラヌス王を倒す切り札として、その存在を隠されていた。クロストは地下国に潜み、力を蓄えていたと聞いている。
テオドールがフィアの兄弟やラヌスと捕らえたのを見計らい、クロストは地下国から出てきたのだ。タイミングを計らって門を開けたのは、地下国にいた者たちである。
クロストは影に潜む能力を使いながらラヌス王の元へ近づいて、杭を打ち込んだ。テオドールが向かったときには既に、ラヌスの全身には杭が打ち込まれていた。杭に残る魔法の痕跡を探り、テオドールは自分の影に潜むクロストの姿を捕らえる。クロストは漆黒の狼のような姿をしていた。だがすぐさま、クロストは別の影へと隠れていき、取り逃がしてしまう。
残されたテオドールは、ラヌス王に告げた。
「王、オレは今からあなたを見殺しにするつもりです。そして、あなたを倒したのは自分である、と主張します。それがオレのあなたへの復讐だ」
「それでいい。テオドール、母親のことは残念だった。護れずに申し訳ない」とラヌス王は言う。
「愚かな王ほど、首を垂れる。フィアは貰います。そしてこの国も」
ラヌス王は高らかに笑うのだった。
「テオドール。お前はあれを、御せると思うのか?最強の母を持つ怪力姫を、妻におさめるのは苦労すると思うが」
「ご自分の物差しでものおっしゃるのは、いい加減におやめにした方がいいのでは?あなたの器が、ライア様にふさわしくなかっただけです」
テオドールはそう言い放つ。
「お前の器がどうであるのか、見届けられないのが残念だな」
とラヌス王が言ったとき、テオドールは、王家の門の外にフィアの気配を感じ取る。ラヌス王も同様に感じ取ったようで、
「我がまま娘が来たな」と呟くのだ。テオドールが即座に床に向かって魔法を放てば、氷の轍が一目散に床を駆けていった。
「それでは、失礼します。さようなら、ラヌス王」とテオドールが告げれば、
「テオドール。せいぜい、手を焼くがいい」とラヌス王は予言めいたことを言う。
そのときは、気にも留めていなかった言葉だが、今になって思い出されるのだ。
フィアが自分のものになったことは、一度もなかった、とテオドールは思う。そして、その子どもであるノインもまた、制御不能の怪物であるのには、違いない。
ただ、どんなことがあろうと、フィアへの感情が消えることはない、とテオドールは思うのだ。
生意気ですぐに口答えをし、皮肉を口にする。
気を抜けばすぐに逃げようとするし、捕まえても、徹底的に抵抗してくる。何度肌を重ねようが、心を許さない。面倒な女。
何をされても腹が立つが、どんなときも心をとらえて離さない。
ラヌス王の予言は当たったのだ。
そして、間もなく、怪力姫が国を略奪しに戻ってくることをテオドールは知らない。
6
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。

あなた方には後悔してもらいます!
風見ゆうみ
恋愛
私、リサ・ミノワーズは小国ではありますが、ミドノワール国の第2王女です。
私の国では代々、王の子供であれば、性別や生まれの早い遅いは関係なく、成人近くになると王となるべき人の胸元に国花が浮き出ると言われていました。
国花は今まで、長男や長女にしか現れなかったそうですので、次女である私は、姉に比べて母からはとても冷遇されておりました。
それは私が17歳の誕生日を迎えた日の事、パーティー会場の外で姉の婚約者と私の婚約者が姉を取り合い、喧嘩をしていたのです。
婚約破棄を受け入れ、部屋に戻り1人で泣いていると、私の胸元に国花が浮き出てしまったじゃないですか!
お父様にその事を知らせに行くと、そこには隣国の国王陛下もいらっしゃいました。
事情を知った陛下が息子である第2王子を婚約者兼協力者として私に紹介して下さる事に!
彼と一緒に元婚約者達を後悔させてやろうと思います!
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、話の中での色々な設定は話の都合、展開の為のご都合主義、ゆるい設定ですので、そんな世界なのだとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※話が合わない場合は閉じていただきますよう、お願い致します。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる