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第三部
隠れていた兄
しおりを挟むテオドールは1年ほど前のラヌス王崩御に関して、地下国の関与を知っている。ラヌス王を死に追いやったのは、フィアの異母兄であり、十二人兄弟の末子であるクロストだ。
クロストは隠された十二人目の兄弟で、兄たちによって、父であるラヌス王を倒す切り札として、その存在を隠されていた。クロストは地下国に潜み、力を蓄えていたと聞いている。
テオドールがフィアの兄弟やラヌスと捕らえたのを見計らい、クロストは地下国から出てきたのだ。タイミングを計らって門を開けたのは、地下国にいた者たちである。
クロストは影に潜む能力を使いながらラヌス王の元へ近づいて、杭を打ち込んだ。テオドールが向かったときには既に、ラヌスの全身には杭が打ち込まれていた。杭に残る魔法の痕跡を探り、テオドールは自分の影に潜むクロストの姿を捕らえる。クロストは漆黒の狼のような姿をしていた。だがすぐさま、クロストは別の影へと隠れていき、取り逃がしてしまう。
残されたテオドールは、ラヌス王に告げた。
「王、オレは今からあなたを見殺しにするつもりです。そして、あなたを倒したのは自分である、と主張します。それがオレのあなたへの復讐だ」
「それでいい。テオドール、母親のことは残念だった。護れずに申し訳ない」とラヌス王は言う。
「愚かな王ほど、首を垂れる。フィアは貰います。そしてこの国も」
ラヌス王は高らかに笑うのだった。
「テオドール。お前はあれを、御せると思うのか?最強の母を持つ怪力姫を、妻におさめるのは苦労すると思うが」
「ご自分の物差しでものおっしゃるのは、いい加減におやめにした方がいいのでは?あなたの器が、ライア様にふさわしくなかっただけです」
テオドールはそう言い放つ。
「お前の器がどうであるのか、見届けられないのが残念だな」
とラヌス王が言ったとき、テオドールは、王家の門の外にフィアの気配を感じ取る。ラヌス王も同様に感じ取ったようで、
「我がまま娘が来たな」と呟くのだ。テオドールが即座に床に向かって魔法を放てば、氷の轍が一目散に床を駆けていった。
「それでは、失礼します。さようなら、ラヌス王」とテオドールが告げれば、
「テオドール。せいぜい、手を焼くがいい」とラヌス王は予言めいたことを言う。
そのときは、気にも留めていなかった言葉だが、今になって思い出されるのだ。
フィアが自分のものになったことは、一度もなかった、とテオドールは思う。そして、その子どもであるノインもまた、制御不能の怪物であるのには、違いない。
ただ、どんなことがあろうと、フィアへの感情が消えることはない、とテオドールは思うのだ。
生意気ですぐに口答えをし、皮肉を口にする。
気を抜けばすぐに逃げようとするし、捕まえても、徹底的に抵抗してくる。何度肌を重ねようが、心を許さない。面倒な女。
何をされても腹が立つが、どんなときも心をとらえて離さない。
ラヌス王の予言は当たったのだ。
そして、間もなく、怪力姫が国を略奪しに戻ってくることをテオドールは知らない。
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