冷静沈着敵国総督様、魔術最強溺愛王様、私の子を育ててください~片思い相手との一夜のあやまちから、友愛女王が爆誕するまで~

KUMANOMORI(くまのもり)

文字の大きさ
上 下
24 / 51
第二部

曙光嫌いのエアハルト

しおりを挟む
 エアハルトのことをゼクスへ報告に行く。
 行方不明者に関してエアハルトが関わっている可能性を告げると、ゼクスは、
「ビュンテ団長には謎が多い」と言う。
 エアハルトの騎士団名簿に彼は王都出身と書かれているらしい。

 アカデミーの卒業歴は記載されているが、同時期に在籍していたはずのゼクスも、他の騎士団員たちも記憶にないというのだ。

 更に、ルキシウスは縁戚者と言っていたが、エアハルトの直接的な家族のことを知る者はいない。王の推薦を受けて騎士団に入団し、団長を務めている。けれど、この頃は近衛兵のようにして王宮に入り浸っており、騎士団には近づこうとしないようだ。

「謎が多く、二つ名を持つ。誰かを思わせるな」とゼクスは言う。
「リウゼンシュタインね。リウゼンシュタインは、朝を待たない。エアハルトも夜明けの光が嫌い?だとすれば、何か共通点があるかと思う」
「そうだな。ただ、もし、リウゼンシュタインと同じ理由だとすれば。ビュンテ団長もまた、王都に潜んでいたということになるが」

「潜んでいる?」
「ああ」
「では、私はエアハルトを探ってみるわ。彼はどこに暮らしているの?」
「城内の近衛兵の駐屯所に、自分で部屋を用意しているようだな」
「じゃあ、そこへ早速行って」

 言いかけたら、
「王宮を調べるときは、同行すると言っただろ」
 と言われる。
「それじゃ、警戒されるでしょ。ただ、そもそも私はエアハルトから嫌われているから、近づくのは難しいとは思うけれど」
「フィアがビュンテ団長を探っていると分かれば、動き出すと思う。敵の巣へ行くまでもない。おびき出せばいい。噂を流させよう」
「流させる?」

「サロンのご婦人方は噂が大好きだ。それに、騎士団の者たちも。更に総督府や騎士団に出入りしている者たちにそれぞれ仄めかせば、あっという間に広まる」
「アリーセ様に?」
「ああ、それに騎士団の面々は協力してくれるだろう」
 噂を流させて、エアハルトが尻尾を出したところで捕まえて問い質そう、と言うのだ。

「ビュンテ団長を狩る。場合によっては、芋づる式に色々と分かるかもしれない」
「それじゃあ、作戦開始ね」とフィアは言う。

 ゼクスは、去ろうとするフィアの名を呼ぶ。「刻印を」と言って、その手の平に口づけをした。ピリッとささやかな痺れがあって、力が流れ込んでくるのを感じる。

「少し爪が変わっていた」
「ありがとう」
 フィアは少し恥ずかしくて、唇を噛む。こうしたゼクスの丁寧な所作を見ると、その身体に染みついている品の良さを感じるのだ。

「これこそ、噂の種になると思うけど」
「フィアがイヤではないなら、俺は構わない」
「アリーセ様は?」
「より離縁に近づく。まったく、これっぽっちも、構わないだろうな」と力強く念を押されるので、フィアは思わず吹き出してしまう。

 そして、帰り道はくれぐれも気をつけてくれ、と言ってゼクスは送り出してくれるのだ。
 ゼクスが信頼してくれていることが嬉しかった。
 そして、手の甲の刻印が熱い。

 唇が触れたその感覚やまるで愛おしむかのような丁寧な所作に、胸がギュッと詰まるのだ。
 そして、思わず手を胸に抱えている自分に気づいて、ハッとした。
 それはダメ。
 どう考えても、ダメでしょ!

 妻子もいる敵国の総督に、よろめいてどうするの?とフィアは思う。

 自分にはノインもいる。テオドールには追放されてしまったけれど、ビアンカもアルフレートもティアトタン国にいるのだ。母国を放っておくことは出来ない。

 美しい王都に来て、騎士団として人の役に立てたかのように感じて、つい勘違いしてしまっているに違いないのだ。

 母国のために動かなければ。

 でも、もし仮に、国同士で戦わずにすむ未来があるなら、ゼクスとは協力し合えるのかもしれない。

 そして、自由に思いを――――?

 あり得もしない考えが浮かびかけて、フィアは頭を振って追い払った。

 今は、エアハルトをおびき出す作戦に集中することにする。
 
「曙光嫌いのエアハルト」を狩らなければ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...