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第二部
曙光嫌いのエアハルト
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エアハルトのことをゼクスへ報告に行く。
行方不明者に関してエアハルトが関わっている可能性を告げると、ゼクスは、
「ビュンテ団長には謎が多い」と言う。
エアハルトの騎士団名簿に彼は王都出身と書かれているらしい。
アカデミーの卒業歴は記載されているが、同時期に在籍していたはずのゼクスも、他の騎士団員たちも記憶にないというのだ。
更に、ルキシウスは縁戚者と言っていたが、エアハルトの直接的な家族のことを知る者はいない。王の推薦を受けて騎士団に入団し、団長を務めている。けれど、この頃は近衛兵のようにして王宮に入り浸っており、騎士団には近づこうとしないようだ。
「謎が多く、二つ名を持つ。誰かを思わせるな」とゼクスは言う。
「リウゼンシュタインね。リウゼンシュタインは、朝を待たない。エアハルトも夜明けの光が嫌い?だとすれば、何か共通点があるかと思う」
「そうだな。ただ、もし、リウゼンシュタインと同じ理由だとすれば。ビュンテ団長もまた、王都に潜んでいたということになるが」
「潜んでいる?」
「ああ」
「では、私はエアハルトを探ってみるわ。彼はどこに暮らしているの?」
「城内の近衛兵の駐屯所に、自分で部屋を用意しているようだな」
「じゃあ、そこへ早速行って」
言いかけたら、
「王宮を調べるときは、同行すると言っただろ」
と言われる。
「それじゃ、警戒されるでしょ。ただ、そもそも私はエアハルトから嫌われているから、近づくのは難しいとは思うけれど」
「フィアがビュンテ団長を探っていると分かれば、動き出すと思う。敵の巣へ行くまでもない。おびき出せばいい。噂を流させよう」
「流させる?」
「サロンのご婦人方は噂が大好きだ。それに、騎士団の者たちも。更に総督府や騎士団に出入りしている者たちにそれぞれ仄めかせば、あっという間に広まる」
「アリーセ様に?」
「ああ、それに騎士団の面々は協力してくれるだろう」
噂を流させて、エアハルトが尻尾を出したところで捕まえて問い質そう、と言うのだ。
「ビュンテ団長を狩る。場合によっては、芋づる式に色々と分かるかもしれない」
「それじゃあ、作戦開始ね」とフィアは言う。
ゼクスは、去ろうとするフィアの名を呼ぶ。「刻印を」と言って、その手の平に口づけをした。ピリッとささやかな痺れがあって、力が流れ込んでくるのを感じる。
「少し爪が変わっていた」
「ありがとう」
フィアは少し恥ずかしくて、唇を噛む。こうしたゼクスの丁寧な所作を見ると、その身体に染みついている品の良さを感じるのだ。
「これこそ、噂の種になると思うけど」
「フィアがイヤではないなら、俺は構わない」
「アリーセ様は?」
「より離縁に近づく。まったく、これっぽっちも、構わないだろうな」と力強く念を押されるので、フィアは思わず吹き出してしまう。
そして、帰り道はくれぐれも気をつけてくれ、と言ってゼクスは送り出してくれるのだ。
ゼクスが信頼してくれていることが嬉しかった。
そして、手の甲の刻印が熱い。
唇が触れたその感覚やまるで愛おしむかのような丁寧な所作に、胸がギュッと詰まるのだ。
そして、思わず手を胸に抱えている自分に気づいて、ハッとした。
それはダメ。
どう考えても、ダメでしょ!
妻子もいる敵国の総督に、よろめいてどうするの?とフィアは思う。
自分にはノインもいる。テオドールには追放されてしまったけれど、ビアンカもアルフレートもティアトタン国にいるのだ。母国を放っておくことは出来ない。
美しい王都に来て、騎士団として人の役に立てたかのように感じて、つい勘違いしてしまっているに違いないのだ。
母国のために動かなければ。
でも、もし仮に、国同士で戦わずにすむ未来があるなら、ゼクスとは協力し合えるのかもしれない。
そして、自由に思いを――――?
あり得もしない考えが浮かびかけて、フィアは頭を振って追い払った。
今は、エアハルトをおびき出す作戦に集中することにする。
「曙光嫌いのエアハルト」を狩らなければ。
行方不明者に関してエアハルトが関わっている可能性を告げると、ゼクスは、
「ビュンテ団長には謎が多い」と言う。
エアハルトの騎士団名簿に彼は王都出身と書かれているらしい。
アカデミーの卒業歴は記載されているが、同時期に在籍していたはずのゼクスも、他の騎士団員たちも記憶にないというのだ。
更に、ルキシウスは縁戚者と言っていたが、エアハルトの直接的な家族のことを知る者はいない。王の推薦を受けて騎士団に入団し、団長を務めている。けれど、この頃は近衛兵のようにして王宮に入り浸っており、騎士団には近づこうとしないようだ。
「謎が多く、二つ名を持つ。誰かを思わせるな」とゼクスは言う。
「リウゼンシュタインね。リウゼンシュタインは、朝を待たない。エアハルトも夜明けの光が嫌い?だとすれば、何か共通点があるかと思う」
「そうだな。ただ、もし、リウゼンシュタインと同じ理由だとすれば。ビュンテ団長もまた、王都に潜んでいたということになるが」
「潜んでいる?」
「ああ」
「では、私はエアハルトを探ってみるわ。彼はどこに暮らしているの?」
「城内の近衛兵の駐屯所に、自分で部屋を用意しているようだな」
「じゃあ、そこへ早速行って」
言いかけたら、
「王宮を調べるときは、同行すると言っただろ」
と言われる。
「それじゃ、警戒されるでしょ。ただ、そもそも私はエアハルトから嫌われているから、近づくのは難しいとは思うけれど」
「フィアがビュンテ団長を探っていると分かれば、動き出すと思う。敵の巣へ行くまでもない。おびき出せばいい。噂を流させよう」
「流させる?」
「サロンのご婦人方は噂が大好きだ。それに、騎士団の者たちも。更に総督府や騎士団に出入りしている者たちにそれぞれ仄めかせば、あっという間に広まる」
「アリーセ様に?」
「ああ、それに騎士団の面々は協力してくれるだろう」
噂を流させて、エアハルトが尻尾を出したところで捕まえて問い質そう、と言うのだ。
「ビュンテ団長を狩る。場合によっては、芋づる式に色々と分かるかもしれない」
「それじゃあ、作戦開始ね」とフィアは言う。
ゼクスは、去ろうとするフィアの名を呼ぶ。「刻印を」と言って、その手の平に口づけをした。ピリッとささやかな痺れがあって、力が流れ込んでくるのを感じる。
「少し爪が変わっていた」
「ありがとう」
フィアは少し恥ずかしくて、唇を噛む。こうしたゼクスの丁寧な所作を見ると、その身体に染みついている品の良さを感じるのだ。
「これこそ、噂の種になると思うけど」
「フィアがイヤではないなら、俺は構わない」
「アリーセ様は?」
「より離縁に近づく。まったく、これっぽっちも、構わないだろうな」と力強く念を押されるので、フィアは思わず吹き出してしまう。
そして、帰り道はくれぐれも気をつけてくれ、と言ってゼクスは送り出してくれるのだ。
ゼクスが信頼してくれていることが嬉しかった。
そして、手の甲の刻印が熱い。
唇が触れたその感覚やまるで愛おしむかのような丁寧な所作に、胸がギュッと詰まるのだ。
そして、思わず手を胸に抱えている自分に気づいて、ハッとした。
それはダメ。
どう考えても、ダメでしょ!
妻子もいる敵国の総督に、よろめいてどうするの?とフィアは思う。
自分にはノインもいる。テオドールには追放されてしまったけれど、ビアンカもアルフレートもティアトタン国にいるのだ。母国を放っておくことは出来ない。
美しい王都に来て、騎士団として人の役に立てたかのように感じて、つい勘違いしてしまっているに違いないのだ。
母国のために動かなければ。
でも、もし仮に、国同士で戦わずにすむ未来があるなら、ゼクスとは協力し合えるのかもしれない。
そして、自由に思いを――――?
あり得もしない考えが浮かびかけて、フィアは頭を振って追い払った。
今は、エアハルトをおびき出す作戦に集中することにする。
「曙光嫌いのエアハルト」を狩らなければ。
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