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第二部
失踪事件
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寄宿舎に身を寄せたフィアには、騎士団の内部事情が流れ込んでくる。
エアハルトの評判や内部の不満などもフィアの元へ流れてくるのだった。エアハルトはほとんど任務には出向かずに、王宮に入り浸っているようだ。
「リウゼンシュタイン元団長、エアハルト団長をどうにかしてくれませんか?」
「エアハルト団長不在で、人手が足らないです」
と団員の声をいくつも聞く。
それに加えてフィア自身が騎士団に興味があったため、第二師団長であるブルーノに「訓練に参加したい」と伝えたところ、ぜひ参加して欲しい、と言われるようになる。
第二師団長であるブルーノ・シュレーベンは折り目正しく柔和な好青年だ。ゼクスの弟のようで、出会いがしらに、
「フィアさん、お話は兄から聞いています」と言い、「ぜひ任務にも同行していただけませんか?」
と言ってくる。
ブルーノはゼクスと同じ灰褐色の瞳に灰色の髪を持つ青年だが、その印象は対照的だ。
生真面目で柔和な性格で、ゼクスのように面倒事を強引に跳ねのけるわけでもない。それゆえに、エアハルトには手を焼いているようだ。
リウゼンシュタインではない自分に、何が出来るのかは分からないが、
「私に手伝えることがあれば、手伝うわ」とフィアは言う。
騎士団の正装をブルーノから手渡されたとき、城に来た行商人が見せてくれた服を思い出す。緋色と黒色を基調にして、金のパイピングのある騎士団の正装だ。
どこか懐かしさを覚えるのが不思議だった。
ゼクスには、「王都近辺で、魔法を感じられる場所がないか調べて欲しい」と言われている。自分は総督府にいて身動きがとりにくいため、フィアに情報収集をお願いしたいというのだ。
あまり王都の地理に詳しくないフィアは、騎士団の任務で動くのは地理を把握するのに好都合だ、と思った。そして、騎士団に所属している方が国民からの信頼も得やすい。西方地域に関する情報も手に入れたい、とフィアは思っていた。
貴族の護衛の仕事が多い中で、第二師団長であるブルーノや他の団員と共に伯爵家のパーティの警護に当たっていたときに、不思議な噂を耳にする。
人が消え、数日後に帰って来るという不思議な事件が起こっているらしい。帰って来た人物は、夢見心地で何が起こったのか、語ろうとしないらしいのだ。
話をしていた伯爵夫人の話によれば、最近では仕立屋、鍛冶屋の娘など女性が行方不明になることがあったらしい。
数日後に戻って来て尋ねても、何が起こったのか多くを語らないのだという。
「戻って来た方でお話の出来る方はいますか?」とフィアが聞けば、仕立屋の娘が数日前に戻って来たというので、話を聞きに行ってみることにした。
レース編みを得意とするというその娘は、フィアのことをリウゼンシュタインとして認識しているようで、「リウゼンシュタイン様、お話が出来て嬉しいです」と言うのだ。
その娘は刺繍の依頼を受けて、客人の品物を渡した記憶があるという。それ以降の記憶は数日後に飛んでおり、気づいたときには路地に座り込んでいたらしい。
「どんな客人でしたか?」と聞けば、
「どこか安心感があったのです。常連の方でしたし、この人ならば平気。そう思った記憶があります」と言うのだ。
安心感がある人物でまず想像されるのは、顔見知りの人物ね、とフィアは思う。
その他では、官職についている人物や、それこそ騎士団の人物などがその筆頭かもしれない、とも想像した。
「お話を聞くために、こちらに出入りしている、官職の方を調べてみましょうか?」
とフィアはブルーノに言う。
「なぜです?」
と問うブルーノに仮説を話せば、「なるほど。理に適っていますね、調べてみます」と言ってくれた。
仕立屋の娘からはほのかに魔法の気配がある。彼女自身の魔法ではない、魔法を受けた痕跡だ。
仕立屋からの帰り道に、フィアはふと城の位置が気にかかり、
「ブルーノ、城の位置はどっち?」と聞く。ブルーノが教えてくれる方向を見てから、王都を囲む四つの門の方向を聞いた。
ティアトタン国には王家の門が一つあるきりだが、王都の南門がちょうど王家の門の位置にあることが分かる。
「どうぞ、地図をお渡しします」
と言われて渡してもらった王都の地図を見てみれば、王都の造りはティアトタン国の造りに似ていた。
城砦となっているティアトタン国と、一都市である王都ではその規模は違うが、それぞれの王宮や王都の騎士団の宿舎とティアトタン国軍の司令部の場所はたしかに一致している。
貴族たちの家の集まる地域や至聖所、商人や職人たちの住まう地域など、全ては一致しているのだ。王都がかつてのティアトタン国に似せて作っているというのは嘘ではないようだった。
だとすれば、地下国の場所は――――?
フィアはゼクスに報告するために、総督府に向かうことにする。ブルーノからは、
「兄がフィアさんを信頼していた理由が、少し分かりました」と言われるのだが、フィアからすれば何のことか分からない。
「兄は見え透いた物事や面倒事が嫌いですから。上手く受け流しはするものの、滅多に内側へ人を入れません。それに強引に攻め入ったとしても強制的に退場いただく。ただ、フィアさんのことだけは何度も話を聞いたことがあります。得体が知れないところがある、興味深い人だと」
と言うのだ。
退場いただく、とは随分強引な言いぶりね、とフィアは思う。
「得体が知れないって。それって、褒め言葉なの?」
それに、自分のことを言われているようには思えなかった。リウゼンシュタイン元団長のことを言っているのだろう、とフィアは思う。
「もちろんです。兄が誰かの話しをすること自体が、すでに褒めているんです」
そう言ってブルーノは他の団員と共に、去って行く。
ゼクスに信頼されているという、リウゼンシュタイン元団長のことがフィアは少し羨ましく思えるのだった。
抑制魔法がなければ自分は、こんな綺麗な都では暮らせない。
腕力は強すぎるし、更に地のエネルギーが枯渇してしまうものならば、化けの皮が剥がれてしまうだろう。
フィアは総督府に向かう途中、自分の手を見つめた。
爪の形が変形してきているし、手の色もまた青白く変色してきている。
まずい、とフィアは思った。
どうにかしないと。
でも、一体どうしたら?
エアハルトの評判や内部の不満などもフィアの元へ流れてくるのだった。エアハルトはほとんど任務には出向かずに、王宮に入り浸っているようだ。
「リウゼンシュタイン元団長、エアハルト団長をどうにかしてくれませんか?」
「エアハルト団長不在で、人手が足らないです」
と団員の声をいくつも聞く。
それに加えてフィア自身が騎士団に興味があったため、第二師団長であるブルーノに「訓練に参加したい」と伝えたところ、ぜひ参加して欲しい、と言われるようになる。
第二師団長であるブルーノ・シュレーベンは折り目正しく柔和な好青年だ。ゼクスの弟のようで、出会いがしらに、
「フィアさん、お話は兄から聞いています」と言い、「ぜひ任務にも同行していただけませんか?」
と言ってくる。
ブルーノはゼクスと同じ灰褐色の瞳に灰色の髪を持つ青年だが、その印象は対照的だ。
生真面目で柔和な性格で、ゼクスのように面倒事を強引に跳ねのけるわけでもない。それゆえに、エアハルトには手を焼いているようだ。
リウゼンシュタインではない自分に、何が出来るのかは分からないが、
「私に手伝えることがあれば、手伝うわ」とフィアは言う。
騎士団の正装をブルーノから手渡されたとき、城に来た行商人が見せてくれた服を思い出す。緋色と黒色を基調にして、金のパイピングのある騎士団の正装だ。
どこか懐かしさを覚えるのが不思議だった。
ゼクスには、「王都近辺で、魔法を感じられる場所がないか調べて欲しい」と言われている。自分は総督府にいて身動きがとりにくいため、フィアに情報収集をお願いしたいというのだ。
あまり王都の地理に詳しくないフィアは、騎士団の任務で動くのは地理を把握するのに好都合だ、と思った。そして、騎士団に所属している方が国民からの信頼も得やすい。西方地域に関する情報も手に入れたい、とフィアは思っていた。
貴族の護衛の仕事が多い中で、第二師団長であるブルーノや他の団員と共に伯爵家のパーティの警護に当たっていたときに、不思議な噂を耳にする。
人が消え、数日後に帰って来るという不思議な事件が起こっているらしい。帰って来た人物は、夢見心地で何が起こったのか、語ろうとしないらしいのだ。
話をしていた伯爵夫人の話によれば、最近では仕立屋、鍛冶屋の娘など女性が行方不明になることがあったらしい。
数日後に戻って来て尋ねても、何が起こったのか多くを語らないのだという。
「戻って来た方でお話の出来る方はいますか?」とフィアが聞けば、仕立屋の娘が数日前に戻って来たというので、話を聞きに行ってみることにした。
レース編みを得意とするというその娘は、フィアのことをリウゼンシュタインとして認識しているようで、「リウゼンシュタイン様、お話が出来て嬉しいです」と言うのだ。
その娘は刺繍の依頼を受けて、客人の品物を渡した記憶があるという。それ以降の記憶は数日後に飛んでおり、気づいたときには路地に座り込んでいたらしい。
「どんな客人でしたか?」と聞けば、
「どこか安心感があったのです。常連の方でしたし、この人ならば平気。そう思った記憶があります」と言うのだ。
安心感がある人物でまず想像されるのは、顔見知りの人物ね、とフィアは思う。
その他では、官職についている人物や、それこそ騎士団の人物などがその筆頭かもしれない、とも想像した。
「お話を聞くために、こちらに出入りしている、官職の方を調べてみましょうか?」
とフィアはブルーノに言う。
「なぜです?」
と問うブルーノに仮説を話せば、「なるほど。理に適っていますね、調べてみます」と言ってくれた。
仕立屋の娘からはほのかに魔法の気配がある。彼女自身の魔法ではない、魔法を受けた痕跡だ。
仕立屋からの帰り道に、フィアはふと城の位置が気にかかり、
「ブルーノ、城の位置はどっち?」と聞く。ブルーノが教えてくれる方向を見てから、王都を囲む四つの門の方向を聞いた。
ティアトタン国には王家の門が一つあるきりだが、王都の南門がちょうど王家の門の位置にあることが分かる。
「どうぞ、地図をお渡しします」
と言われて渡してもらった王都の地図を見てみれば、王都の造りはティアトタン国の造りに似ていた。
城砦となっているティアトタン国と、一都市である王都ではその規模は違うが、それぞれの王宮や王都の騎士団の宿舎とティアトタン国軍の司令部の場所はたしかに一致している。
貴族たちの家の集まる地域や至聖所、商人や職人たちの住まう地域など、全ては一致しているのだ。王都がかつてのティアトタン国に似せて作っているというのは嘘ではないようだった。
だとすれば、地下国の場所は――――?
フィアはゼクスに報告するために、総督府に向かうことにする。ブルーノからは、
「兄がフィアさんを信頼していた理由が、少し分かりました」と言われるのだが、フィアからすれば何のことか分からない。
「兄は見え透いた物事や面倒事が嫌いですから。上手く受け流しはするものの、滅多に内側へ人を入れません。それに強引に攻め入ったとしても強制的に退場いただく。ただ、フィアさんのことだけは何度も話を聞いたことがあります。得体が知れないところがある、興味深い人だと」
と言うのだ。
退場いただく、とは随分強引な言いぶりね、とフィアは思う。
「得体が知れないって。それって、褒め言葉なの?」
それに、自分のことを言われているようには思えなかった。リウゼンシュタイン元団長のことを言っているのだろう、とフィアは思う。
「もちろんです。兄が誰かの話しをすること自体が、すでに褒めているんです」
そう言ってブルーノは他の団員と共に、去って行く。
ゼクスに信頼されているという、リウゼンシュタイン元団長のことがフィアは少し羨ましく思えるのだった。
抑制魔法がなければ自分は、こんな綺麗な都では暮らせない。
腕力は強すぎるし、更に地のエネルギーが枯渇してしまうものならば、化けの皮が剥がれてしまうだろう。
フィアは総督府に向かう途中、自分の手を見つめた。
爪の形が変形してきているし、手の色もまた青白く変色してきている。
まずい、とフィアは思った。
どうにかしないと。
でも、一体どうしたら?
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