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ランス・リルージュ

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 可愛いリーミアを見てすっかり気分がよくなった私は、教会の戸から飛び出て行く。
 その瞬間に、目の前に影が出来て誰かとぶつかる気配があった。
 前のめりに倒れる気がして、受け身を取る準備をしていたら、腕を引かれて引っ張られる。

 白いモーニングスーツが目の前に見えた。金刺繡のそのジャケットはつい昨日見ていた。
 顔をあげれば青色の瞳がこちらを見ている。アンニュイな眼差しには好奇の光が入っていた。どっくん、心臓の筋肉が全力で拡張、収縮を繰り返す。
 声を失いそうになったけれど、気を取り直す。
 しっかりしろ、シュシュ~っ、と言い聞かせた。
 私はもう死んでいるんだぞ、これは別の世界で私は舞日楽華じゃない。悪役令嬢、シュシュだよ。

「君は?」
 ハスキートーンの声で問われる。その人は痛いくらいの視線でこちらを見つめてくるのだ。じりっと頬が焦れて、私は視線を逸らす。
 メインヒーロー、ランス・リルージュだ。

「失礼いたしましたっ、ランス様」
 私は即座に頭をさげて離れようとするけれど、腕を離してくれない。
「お名前は?」
 視線を逸らすことなく、力をゆるめることもなくランスは私に問いかけてくる。
「シュシュ・リーブル、いえ、婚姻して、シュシュ・ルイドランとなりました」

「婚姻?」
「昨日、王太子殿下がお越しになったときに、ルイドラン家とリーブル家の婚礼式を行っておりました。受けとめていただき、ありがとうございます」

 顔をあげて、と私の顎に手をやり、ランスは私の視線を奪う。
 強引に視線を合わされて、私の心は波打つ。だって、自分を殺した彼氏にそっくりなんだから。
 申し分ない整った顔立ちなのに、陰鬱な表情が浮かんでいる辺りもそっくりだ。

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