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名前のない関係

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 アフターピルの常用を告げれば、きっと輝夜に失望されると思った。

 お金を搾り取ろうとする当初の意図とは変わってしまっているけれども、私は妊娠するのが怖いのだ。

「悪かった、環」
 と輝夜は言い、私の頭を撫でた。
 ぐしゃぐしゃに髪をかき乱す撫で方なので、思わず手でおさえる。

「もう、父との賭けには負けている。焦る理由はないはずなのに、オレはどうも環の戸籍に不満があるみたいなんだ。紙切れ一枚だとしても、早く夏嶺さんと別れて欲しいと思っている」
「一年間だけだよ、そしたら海外に行くらしいから」

 同性婚は私達の両親の頃よりも市民権を得てきているけれど、近親婚は遺伝リスクの面でも、法律の面でも難しいのが現状だ。
 少しでも協力できればいい思って、協力を買って出ていた。けれども。輝夜はあまり乗り気ではないようだ。

「付き合ったのはたった一年で、結婚もしていないのに。私達はまだこうして、そばにいられている。でも、だからこそ、妊娠して結婚してしまったら、今度こそ別れるのかもしれないって思う」

 確かな戸籍関係もなければ、子どもも出来ていない。私達の間には確かなものは何もないのだ。だとしても、私は輝夜のそばにいられるだけで幸せだった。

「好きな相手と結婚して子どもを望むことが、こんなに難しいとは思わなかった」
「私はまだ覚悟出来ないよ。期待も絶望もしたくない」

 私には、一人ため息をつき続けていた記憶が残っていた。

「環に信頼されるためには、時間もかけるしなんでもする。いつか、ちゃんと結婚できる日が来るまで」

 指に光る結婚指輪は互いのイニシャルが刻まれている。けれど、このマンションを一歩でも出たら、私達は他人として振る舞わなければいけない。

 少なくともお互いが離婚するまでは。
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