妊娠しません！

名前のない関係

2

　戸籍上だけの結婚は夏嶺兄妹にとってのカモフラージュだ。彼らは私や輝夜の両親よりもシビアな事情を抱えている。
　彼らは自由に二人きりで暮らすことを求めていたようだ。
　
「君との婚約はあくまでも建前なんだ。契約結婚とでも思ってもらいたい。隠していて申し訳なかった」
　婚約破棄を告げようと出かけて行った私に、夏嶺はそう告げた。

「ただ、泊と自由に静かに暮らしたいだけなんだよ」
　夏嶺はそう真実を告げてくれる。同じように夏嶺泊から輝夜は話を聞いていたようだ。

　私達は婚姻関係を結んだ後に、離婚して戸籍をロンダリングしたいんだ、という。
　切実な頼みを断ることは難しかった。それは、輝夜も同じだったらしい。私達は合意の上で、婚姻関係を結んだ。


　私と輝夜の間には子どもは授かっていないけれども、輝夜のお父さんの陰謀により、私の戸籍上の父、春黎雅の遺伝子を持った子どもが誕生していた。冬茜あやせが帝王切開で出産している。

　冬茜あやせは、輝夜のお父さんに心酔しており、彼の望みを叶えるためにその身を捧げると語っていた。

　彼女は春黎雅の遺伝子との相性がいいらしい。容姿を遺伝させるための情報が残りやす相性だというのだ。

「眩夜さんのご希望であれば、何度でも産みますよ？当たり前でしょう？」と語る彼女は、少し狂気じみていると思う。

　好きな人の好きな人に似た相手を、この世に誕生させるために自分の身体を捧げる？
　彼女の思いの強さは、私には理解で出来ない。