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彼しかいらない

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 輝夜の家に着けば、私はソワソワとしてしまい、どこにいていいのか分からなくなる。とりあえず座ってくれ、と言われて、カウンタキッチンのスツールに座った。

 この前来たときに、詰問されたのを思い出す。夏嶺との結婚について、そして付き合いに関して、身体を通して何度も問い質された。

 彼と肉体関係はない、と言っても信用してもらえないのだ。輝夜こそ他の人とたくさんチャンスはあったでしょ、と反撃すれば、至って真面目な顔で環以外EDだから、何もない、と嘘か本当か分からないことを言っていた。
 
「散々調べてみた。専門の文献から書籍やウェブのコンテンツまで見てみても、玉石混交、真偽不明の世界だな。生殖医療専門のクリニックや教授に問い合わせしたこともあるが、確率をあげることは出来ても、後は受精卵の生命力次第のようだ」

 メッセージアカウントからファイルが届く。開いてみれば迷信レベルから栄養素を根拠とするものまで、受胎率をあげるアイデアがまとめられていた。明記している出典は、研究文献から怪しげなサイトまで様々だ。

「これを全部しろってこと?」
「いや、結局どれも信憑性がないと分かった。今の段階では何も考えずに感じればいい、実るかどうかを考えない方がいい」

「そ、そんなのは書いてないけど。私見でしょ?」
「プレッシャーは敵だと聞く。諦めたときにやって来ると、巷では言うらしい。アンケートをとっている」

「アンケート?研究職の言い分にしては、事実関係の検証が弱いと思う。俗説やジンクスだと思うけど」
「生命の発生に関しては、未知の部分も多い。神頼み感覚頼みな部分もある」

「一回だけ」
 私は呟いた。輝夜の視線がこちらに向く。

「私達が避妊しなかったのは一回だけだよ。式場を予約しに行った日だけ」
 そうだな、覚えてるよ、と輝夜は言った。生真面目な私達は、勢いだけで先には進めない。

「ずっとオレの気持ちは変わらないんだ。環以外はどうでもいい」
 横のスツールに腰をかけ、人差し指で私の鼻先を撫でる。

「それ、好きだね」
「一番噛みやすい場所にあるから」
 と言って鼻先にキスをして来て、甘噛みするのだった。吐息に触れるだけで、ん、と声が出る。期待している自分は、バカだなと思う。

 いつもふられることを考えながらも、何度も抱かれたいと思ってしまうのだから。
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