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彼しかいらない

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 仕事を休んでクリニックへ行った。一人で行くと言ったけれども、どうしても輝夜も来ると言うので連れ立っていく。

 抜去処置はチクりと僅かな痛みを感じた程度だったけれど、私はお守りを失った心もとなさを感じていた。

 妊活契約において輝夜と同じ土台に立つのはかなりの覚悟が必要だった。
 妊娠の可否で検査をくり返し、期待と絶望が交互にやって来るあの苦痛は味わいたくない。

 もし授からなければ、私達はそれぞれの別の人と結婚する。さらに授かったとしても、無事に育つのかどうか産めるかどうかは分からない。
 帰りの車で、信号に差しかかり私は口火を切った。

「これから、どうすればいいの」
「試したいんだ。そのためには環に覚悟してもらわないといけない」
「抜去はしたよ」

「そうだな、本当に良かったのか?」
「聞かないで。今すぐにでも、後悔するかもしれないから」

「厄介な奴に好かれたって思うだろ?契約で縛って、さらにこうして環を脅している」
 輝夜は言う。私は首をふった。

「私は輝夜からお金を搾り取って、契約破棄してもらおうと思ってた。きっと、利用されて捨てられるって思ってたから」
 ごめんな、と輝夜は言う。

「それでも、やっぱり好きなの。理由は分からないけど、輝夜にしか……」
 すべて言い終わらないうちに、キスを受けた。信号が変わり輝夜は何食わぬ顔で唇を離して、車を発進させる。

 きゅう、と身体の芯が引きしぼられる感覚があり、太腿をこすり合わせた。

 マーキングされている、と感じた。高校生の時にキスを受けたときから、あるいは、もっと昔から、彼の視線や言葉や僅かな接触で、完全に囲い込まれている。
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