妊娠しません！

いくつかの真実

5

　仕事帰りに母のお見舞いに病院に行ったら、輝夜のお母さんに居合わせる。
　母の病室からちょうど出てくるところだった。

　私に気づき、
「環ちゃん、久しぶり」
　と手を振る輝夜のお母さん、秋彌煌（きらり）さんは、笑顔が素敵な女性だ。

　母は理由不明の体調不良でここ数年間入退院を繰り返している。
「来てくれたんですか？」
　と尋ねれば、苦笑いを浮かべながら、話を続けた。

「笑が入院してるって聞いて。やっと来れたの。中々許してもらえなくて」
「許して？誰にですか？」
　と聞けば、大抵出てくるのは輝夜のお父さんだ。

　その通りで、
「眩夜さん。あの人は笑や環ちゃんちに関わるのを嫌がるから」
　そう続けた。

「何か理由があるんですか？」
「ただのやっかみよ」
　とお母さんは言い、それじゃ、またね、と手を振ってくれた。病室に行けば、母は至って顔色がいい。

「煌さん来てたね？」
　と話かければ、サイドテーブルの上の紙袋に母は視線を向けた。

「環がもし結婚するなら、今のうちに色々話しておきたいことがあるの」
　紙袋の中を見るように母は言う。タブレット端末が入っていた。起動してファイルを開くように言われる。

「煌に資料を集めてもらったの。ここで見て、この場で削除して」と言うのだ。
「何？物々しくない？」

　私は言われるままに、ベッドサイドの椅子に腰をかけてタブレット端末を起動した。