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かつて、欲しかったもの

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 その日、夏嶺から新居の内覧の連絡が来る。
 空いている日に新居探しに行こうと言われていた。彼の新しい研究所の近くにすることにしていたし、今もそのつもりだ。

 スケジュールを確認して、空いている日を告げる。
 結婚の話を受け入れたときと、今はまだ状況が変わっていた。輝夜の契約を受ける前に、婚約していたからだ。

 夏嶺は多くを求めない。
 妹達への支援にも協力的だ。だからこそ、婚約を受け入れた。
 仕事や見た目、その他の条件も悪くないし、何より結婚することで私の家族は守られる。だから、婚約を結んだのだ。
 上から目線の婚約かもしれないけれど、こんな婚約は世の中にいくつもあるはずだ。

 夏嶺から連絡が来て、来週末の予定が組まれたことで自分の可能性がまた一つ失われたことを知る。
 息苦しくなった私は嘘を思いついた。

 輝夜に、
「生理が来た、今回は無理だったみたい」
 と連絡した。

「了解」
 と返って来た文字を見つめ、より息苦しくなってしまう。
 こんな嘘は無意味だ。数か月後には私は夏嶺の妻になっている。
 お金が欲しい。

 でも、もっと欲しかったのは、輝夜という夫だ。
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