妊娠しません！

ブライダルチェックとシリンジ法

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　今日はシリンジで入れるから、自分で精を出しておいて、と告げている。
　クリニックで購入したものだ。

「最後までするのは、時間がかかりすぎるから。出してくれたのを入れるのはどう？」

　部屋につけば何を言い合うこともなく、シャワーを浴び寝室に行く。今日は後から部屋にやって来た輝夜に私はそう告げた。

　部屋着に着替えてきた輝夜の姿に、動揺する。薄手のシャツを着てグレージュの柔らかい質感のボトムスを穿いた姿は、かつて付き合っていた頃の部屋着にも似ていた。

　彼が一寸のよれもないスーツ姿で会社員をしていた頃、私は彼のネクタイを外し、シャツを脱がす権利があることに、喜びを覚えていた。それはそう遠くない昔のことだったはずだ。

　輝夜は一見不愛想だけれども、話しはじめると滑らかに言葉を紡ぐ。無駄のない、かゆいところに手が届く会話術と、そしてその類まれな容貌により営業成績は最高を叩きだしていたらしい。

　仕事のスイッチが入っているときの輝夜であって、スイッチが切れているときの、部屋着の姿の彼は、ただのんびりとくつろぐことを望む、愛らしい人だった。

「シリンジ」と繰り返す輝夜を見つめながら、ビニール袋から紙袋を取りだし、ジップ式のビニールから注入具を取りだす。

　性交不全の夫婦が行う方法を取ろうと思っていた。
　輝夜の視線がその注射器にも見える注入具に向く僅かな間に、私はさっきまでのことを思いおこしている。