妊娠しません！

妊活契約

4

　今ここで新しい言葉をかけてしまえば、関係が生まれてしまう。
　言葉をかけた瞬間に、人と人との間には関係が生まれるものだから。

　私がじっと見つめていたら、彼、秋彌輝夜は相好を崩す。相変わらずだな、と言うので私は喉の奥で、え、と声を出した。

「今の環はオレに対して声帯を使うのももったいない、この時間すらもったいないと思っていそうだな」
　私は首を振る。

「何か御用ですか、所長。私に出来ることならいいですけれど」
　皮肉っぽく聞こえることを望んで、私はそう言った。彼の表情は変わらない。

「仕事があるんだ。今の十倍の給料を支払う。あるいは具体的な金額を提示してくれれば、条件を飲む」
　十倍。
　その響きはとても魅力的だ。今となっては私が信じているものは、お金だけだからだ。

「十倍」
「さらに成功報酬も弾む。その際は三十倍を保証する」
　高額報酬を最初に提示するのは、その後続く話に興味を持たせるためだ。そんな手口だと分かっているのに、私はつい、問い返してしまう。

「三十倍」
　私の言葉に、
「場合によっては、愛と恋、友の学費も面倒見る」
　と添えられた言葉により、私の警戒心の壁は崩れてしまった。

　家族のことに触れてくるのは、反則だ。けれど、彼は私の妹たちに何度も会っていたし、仲は良好だった。

「あまりにも好条件だと、何かとても大変なことをさせられるんじゃないかって思います」

　彼、輝夜は椅子から立ちあがり、私の元へ近づいてくる。身長差は二十センチ。約三十センチほどの距離感を保ったまま、見あげれば、透徹な視線が降り注ぐ。

　私は今、彼とこれ以上距離を縮めるつもりはなかった。

「大変なことには違いない。ただ、経済的な安定は保証するつもりだ」