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妊活契約

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 輝夜と婚約破棄となってから、私は研究所をやめて事務職に転職した。

 一般企業の一般事務の仕事を定時まで行って、直帰する生活だ。

 その日、仕事終わりに迎えに来てくれた夏嶺と夕食をとる約束をしていた。
 研究所を辞めると告げたときに、夏嶺から交際の申し出があり、半年ほど付き合っている。

 一度断ったけれど、二度三度アプローチがあり、付き合うことになった。決定的だったのは、夏嶺からの、
「実は僕も失恋しているんだ」
 という告白だ。

 付き合うにあたって一つだけ、私は条件を出していたけれども、夏嶺はその条件を飲んでくれる。
 肉体関係は持たない。その一点だけだ。

「所長が環さんと話をしたいと言っていたんだ」
 と夏嶺が言う。

 私が夏嶺の顔を見つめれば、彼は首を振った。
「無理強いはしない」
 と続けるので、私はうなずく。

 婚約破棄のことを夏嶺が触れてきたことはないけれど、推して察すると周りが腫物を触るように私に接していたのを、彼は見て来ていた。

 所長の息子と交際していて、婚約破棄された。
 誰が言いだしたとも分からないけれど、人の口を介しているうちに、私の出自が話に出ていたようだ。格差婚は上手くいかないものですね?と後輩の研究員に言われてしまったときに、あ、結局そこの行き着くのか、と落胆したのを覚えている。
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