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シグナル発動

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 中学の知り合いのほとんどいない今の高校に入るにあたって、「愛される側」になりたくて振る舞いや髪型を変えてみれば、意外にも愛される側としてモテた。
 けれど、色々と障害が多いことに、少しウンザリする。

 私は顔を寄せて彼の薄い唇にキスをして、さらに深く入り込んでいく。こういうのは、虚をつけば大抵成功する。口腔内の温度は彼の方が少しだけ低い。それでも何度も舌先を動かしているうちに、息が熱くなり、例えそういう興奮に凪いでいたとしても、単なる驚きでも、彼の脳は少しだけ興奮するようだ。
 胸のあたりとトン、と押されて唇を離される。

「なんで、こんな……」
 そう彼は言うけれど、少しだけその瞳が濡れているのを見た。
「条件は達成するから。だからね、岸井さん、今は抱いてもいい?」
 彼の目が大きく見開かれる。
 私は彼の手を掴み、床に押し倒した。私の方が小柄ではあるけれど、中学の頃はレスリング部だったこともあり筋肉には自信がある。
 脱ぐのも脱がすのももどかしかったので、ボトムスのボタンを外し、そのまま下へ引きずりおろす。


 彼は戸惑いや怯えの見える目で、私の挙動を見守っている。ああ、これって、訴えられたら絶対に負けるよね、合意とは言えない。何罪になるんだろう?と思いながらも、やめない。
 下着の下のその部分に大きな反応はなく、大人しい。その部分は軽く触れる程度にして、後ろの方に指を触れさせる。
 彼は大きく腰を跳ねさせて、逃れようと動いていた。
「村瀬さん、どうして?」と問う。
「私は岸井さんが想像していたよりも、モンスター側だったってことだよ」と答えた。
 硬直し閉ざしていた場所も、私が何度も何度もしつこく撫でていると、少しだけ弛緩する瞬間がある。
 彼の端正な顔に焦りの色が浮かんでいるのを見て、愛おしさが増してしまうのは、私がモンスターだからだろうか?
 新鮮なときめきを感じて、つい強引に指を進めたくなった。大腿部に熱が溜まっていくのを感じる。

 彼の身もだえと、短い叫び声。
 こんな声、もし愛される側だったら、聞けていないのかもしれない?いや、でも愛される側にも、聞ける特別な声があるはずだ、と私は思う。
 まだ、「して」もらうことに希望を持っていた。

 何度もこね回し、練りまわしているうちに、魚のように彼が跳ねるのが分かって、私は自分の指を引き抜き、彼の中に自分自身を入れ込んでいく。
もっと抵抗してもいいのに、彼はそれほど激しくは抵抗しなかった。
 私の動きに対して、興奮というよりも、子どものような純粋な羞恥の表情を浮かべている。可愛らしく見えて、私は思わず彼の頬にキスをしてしまう。

「好き。私のことも、もっと好きになってくれたらいいのに」と私は言う。
 これでひょっとしたら、関係は終わってしまうかもしれない。
 こらえて、こらえて、してもらえる条件をちゃんと達成してから、すべて明かせばよかったのだろうけれど。
 本命の人としないうちに、他の人とする、というのは私からすればNGだ。
 従順じゃない私にこらえるのは、とても難しい。


 そして彼の中に一段と深く刻みつけ、私が彼の中で達したとき、彼は言った。
「意外過ぎて、あまり感情のモニタリングができなかったよ」
 と力なく告げてきたあとで、シグナルが発動する。
 額の部分が赤く光り、彼はそのまま眠りについた。

 

 このままで保護されては彼があまりにも気の毒だと思ったので、衣服を着せて身なりだけは整えておいた。
 やって来たスタッフは特に何か問い質すこともなく、彼をストレッチャーに乗せ、「低レベルのシグナルなので、数時間後には回復すると思います、ご家族にご連絡してありますので」と言って去っていく。
 スタッフに交じって彼そっくりな男性もやって来て、私に声をかけてきた。

「初めまして。あんた、単なるお嬢さんってわけじゃなかったんだな」
「悪いけど、単なるお嬢さんだよ」
「じゃ、オレともやってよ?」
 その人、岸井成はにやにやした笑いをはりつけながら、私の顎に指を添えてくる。彼とそっくりな顔には、彼とは似ていない表情が浮かんでいた。
「ビジュアルは最高だけど、岸井さんみたいないい匂いがしないので、好みじゃないかな。それに彼があなたを警戒しているみたいなので、お断りします」
 私の言葉に、おかしくてたまらないという風に、大笑いする。

「オレはほとんど同じ遺伝子を持ちながら、性質が少し違う信が今後どんな風になるのか気になるだけ。信は警戒してるけど」
「ふーん」
「信も面白い奴に好かれたもんだな~今後に期待」
 そう言って、岸井成は去っていった。私は鍵が開きっぱなしの部屋が気になったので、しばらく部屋にいることにする。
 その後合鍵を見つけたので、鍵をしめて部屋を後にした。
 フラれたら、そのときに合鍵を返そうと思ったのだ。
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