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落すとは?

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 翌日のお昼休みにゆうかに話してみると、
 「どこまでおあずけできるか実験してみれば?」としれっと言われた。あんまりな言い草だったけれど、ゆうかは彼氏と別れて不機嫌らしい。
「相手に彼女がいる状態で、SNSにあげるのはフェアじゃないと思うよね」
 彼氏の浮気相手と思しき女性が、匂わせ投稿をしているのに腹をたてているようなのだ。
「そういうのって、別れされる目的?自己顕示欲?」
「どっちもじゃない」
 といいつつ、ゆうかは元カレに連絡をしている。こういうのを何度繰りかえしているんだろう?
 別れたというのは形の問題で、縁は切れないんだろうな、と思っている。

 私は別れるつもりはまったくないし、あくまでも、彼のことを知りたいから、若槻に声をかけたのだけど。
「りかは、無自覚に匂わせしちゃう系。一番面倒なタイプだから、SNSあんまやってないの正解だよ」
 ゆうかは大好物のイチゴちょこメロンパンをほおばる。
「匂わせてないよ、本命はハッキリしているし」
 私は昨夜の残りの鳥そぼろをつめたそぼろ弁当の、肉と卵をスプーンですくって口に入れた。
「営業くんからすれば、どんな形でも接触できればOKでしょ」
「だっていろいろ問題があるんだもん。シグナル保険って知ってる?」
 そう気軽に話を向けたけれど、まさかゆうかが、
「もちろん知ってるよ、村瀬琢磨さんっていえば、シグナル保険だもん」と言う。

「その保険の関係で、色々制限があるんだよ」と私がいえば、
「私もクローズ保険で、レベル3くらいの制限はかかってるよ。たしか、バンジージャンプとかジェットコースターは大丈夫なレベルだったけど。だから、彼氏にはハードすぎるのはやめてねって言ってた」
 とゆうかは言うのだった。
 私は言葉もない。そんなにメジャーになっているとは思わなかった。
 ゆうかも、この辺では有名な名家の生まれだ。家族が心配して保険に入っていてもおかしくはないのかもしれない。

「レベル1っていうと、かなり低いね。刺激感度がよければ、制限きついかも」
「そっか。やっぱり解約してもらえない限り、難しいのかな」
 そうは言うものの、彼の話によれば、レベルの相談は難しいという。それにその問題がないとしても、他に彼は問題があると思っているようだった。
 何か打破できる一撃はないのかな?と思いながら、学校の一日を過ごす。


 その日のバイト前に、知らないアカウントから友達申請が来ていた。
「Kishii-naru」というアカウントだったので、彼の関係者かもしれない、と思った。申請許可をしたら、すぐにメッセージが来る。
「信を落としてくんない?」
 信、すなわち彼のことだ。
 どういう観点から離しているんだろう?と思う。
「落とすって何ですか」と打ってからバイトに入ると、終わった後には数件メッセージが来ていた。
「シグナル発生させるとか」
「既成事実作っちゃうとか」
「どのタイプの落とすでもOK」
「シグナルは危ないんじゃ?」と私が返せば、
「低レベルのシグナルなら問題ない」と返してくる。
「どうして落として欲しいんですか?」と聞いてみると、
「信がいい子ちゃんだからだよ」と返してきた。
 いい子ちゃん、つまり親の言うことを聞いているから、ってことなんだろうか?
 だとしても、私が関与できることなのかな、とも思う。

「私のことどのくらい知ってます?」
「信の彼女」「グイグイ行く系」「シグナル保険の創始者の娘」
「当たりです」
「既成事実はほとんどない」
 そう言われてしまえば確かにそうだ。けど、なんで知っているんだろう、と思う。
「何で知ってるんですか?」
「オレが見張りイベントで信の動向は調べてるから」と恐ろしいことを言うのだった。
「見張りイベントとは?」
「情報をくれたら、ゲームのランクが上がるとかそういうやつ」
「怖い」
「身内の情報集めてるだけなんで、問題ない」
 そんな風にして彼の情報を集めて、この人はどうするつもりなんだろう?そして、彼との関係性は?
「岸井信さんとどういうご関係ですか?」
「兄、オレが」と一言。
「とにかく、落として欲しい」
「信を放す気ないんだろ」
 と言われてしまうと、確かに心にジュっと火がつく。もちろん放す気はないけれど、彼が望まない形で、ガツガツ行くことがいいとも思えない。
 難しい問題だと思う。

 にも関わらず、この人は半ば強引に押しすすめるのを望んでいるようだった。
「落して欲しい」
 それは単なるスマホ上のやりとりにすぎなかったけれど、強烈に刻み込まれたフレーズだったのだ。
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