幼なじみが犬になったら、モテ期が来たので抵抗します!

KUMANOMORI(くまのもり)

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5章 大混乱

●半分行ってる、で了解

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 手がかりを探し損ねたわたしをその後待っていたのは、幸太郎の身体になってしまったゆえの……厄介な問題だった。
 手がかりを探し損ねたわたしをその後待っていたのは、幸太郎の身体になってしまったゆえの……厄介な問題だった。
 あの後わたしは、穂波君と松代君を手伝ってから、幸太郎の部屋を探してそこに戻った。
 ドアを開けるや否や、
「コータロー、風呂風呂、風呂行こーぜ!」
 と元気な声が飛んで来たのと同時に頭をどつかれた。
 これは確か、宗高。隣のクラスの、小柄だけれど、いつもハイテンションなイメージのある男子生徒だ。

「頭叩いて、これ以上コータローがアホになったらどうすんだよ」
 後から声が飛んできたと思ったら、大柄の男子生徒が出てくる。幸太郎がいつも誠二と呼んでいる、これまた隣のクラスの生徒だ。
 その後から紀瀬と斉藤もぞろぞろと出てきた。
「よ。あれから全然返ってこないから、女子部屋に転がり込んでるのかと思った」
「い、いや、それはないけど……」
「それより、風呂行くだろ?」
 斉藤がフェイスタオルを投げて渡してくる。
 それを慌てて受け取りながらも、わたしは半分状況を把握しきれていなかった。
「お風呂って……わ俺も一緒に行くの?」
 この人達とわたしがお風呂?何のギャグ?と思ったのだ。

 けれど、
「お風呂、って……。何で女みたいなしゃべり方してんだよ、お前」
 誠二の怪訝そうな言葉で、わたしはハッとした。
 そうだった。今のわたしは、『わたし』の心を持っているけれど、見た目はまがいようもなく幸太郎なのだ。
「お、いや風呂はちょっと……」
 ちょっとどころか絶対無理!断固拒否、と言いたいところだが、見た目が幸太郎なのに変に拒絶しても、変な印象を与えかねないので、濁しながらそう言ってみる。
 すると、
「へー?何か入れない理由でもあるわけ?実は身体が女の子になっちゃったとか?」
 目を爛々と輝かせながら、紀瀬がそう食いついてくる。
「そ、そんなわけあるかよ」
 中身が女の子になっちゃっています。
「けど、お前今日はなんかおかしいし。なーんかある気がするんだよなー。ちょっとそこで脱げよ」
 と言いながら、寄ってくる。
「な、何で脱がなくちゃなんねーんだよ!」

「お前、練習の前も後もどっか別のとこで着替えてきたろ?怪しいんだよなー」
「そ、そんなのたまたまだって……」
 さすがに男子に囲まれながら着替えるのは嫌で、こっそり別室で着替えたのは事実だけれど……。
 無駄に観察眼が鋭すぎる。
「あと、ミサキちゃんだっけ?女の子の名前聞いて回ってるのも、何かある気がするし。つか、いいから脱げ」
 そう言いながら、ぴらぴら、とTシャツの裾を引っぱってくる。
 面倒くさい、ひじょーに面倒くさいよ、紀瀬!

「変なのはお前だ、ダイチ。お前は女のことばっかり考えてるから、そんな発想になるんだろうが」
 と誠二がフォローに入ってくれたのは良いものの、
「メンドクセーやり取りはもういいじゃん、風呂いこーぜ。な?」
 宗高がそう言って、背中を叩いてくる。
「い、いや、俺は……」
 これだとお風呂に行く流れになってしまう。それは諸々の意味で困る。
 わたしが渋っていると、今度は斉藤が怪訝そうな顔をする。
「確かにちょっと変かもな。今日のコータロー。いつもなら、風呂の王者になってやるーっ!とか意味の分からないこと言って、ムネと暴れ放題なのに」
 な、何その風呂の王者って……。不思議ちゃんを通り越して、危ない子だ。
「具合悪りーの?」
 斉藤が心配そうにそう言ってくる。良い奴だね、斉藤……。

 けれど、
「あ。それとも、宿舎の壁ぶっ壊して呼ばれたの、ばっくれたとか?で、良心が痛んで元気がない、と」
 話が思わぬ方向へゆく。
「そ、それは……」
 紀瀬がついた大嘘だ。
「え、ぶっ壊したってホントかよ!?」
「そんなことあったか?」
「あったよーななかったよーな。俺はないに一票かなー」
 とまあ、紀瀬がすっかりしらばっくれてしまっているせいで、
「俺が一緒に謝ってやるから、顧問のとこいこーぜ?」
 斉藤はすっかり自分の説が本当のように思ってしまって、わたしの手を引いてくる。
 友達思いの良い奴だけれど……。
 今のわたしには、これはこれで面倒くさい。
「違うって。風呂に入りたくねーのは、そんな理由じゃない」
 そう言いながら理由を必死で考えていた。幸太郎の性格にちゃんとよった理由を。
「じゃあ、どんな理由だよ?」
 4人の視線が刺さる。理由、理由……。
 幸太郎ならこんなとき、どう言うかな?
「こっ……」
 どうしよう。幸太郎なら、何て考えたせいで思わず口に出てしまったものの、まったく考えが浮かばない。
「こ?」

「こ――――」
 こうなったらもう、出任せでいくしかない。
「これから、裏の滝で水浴びするつもりだから、風呂になんか入ってるヒマはねーの!」
 わたしが言うと、辺りにしじまが広がった。
 それからぽそっと、
「裏に滝なんかあったっけ?」
 斉藤が口にすると、誠二が小さく低い声で、
「止めとけ」
 と言う。
 紀瀬は肩をすくめて、宗高はため息をつく。
 何だろう、この触れちゃいけません、相手にしちゃいけませんという雰囲気は。

「俺らは行ってくるから、お前は、ま……寝とけ?」
 そう言われて、手に持っていたタオルを誠二に引き抜かれ、頭にかぶせられる。
 そして、じゃあな、と言われて4人の背中を見送ることになった。
 どうも釈然としないけれど、これで、良かったんだよね?
 けれど、去っていく彼らが、
「コータローどうしたんだろうな?」
「熱中症熱中症ー」
「こんなんだっけ、熱中症って?てっきりとうとうアッチ側に行ったのかと思った」
「既に半分行ってるだろ」
 言いたい放題言っているのを聞くと、若干の罪悪感が湧く。
 わたしは、大切なものを失わずに済んだけれど、幸太郎は大切なものを失ったかもしれない……。
 ごめんね、幸太郎。
 と言っても、本当にそうやって声をかけることは出来ない。
 わたしの姿をしているはずの幸太郎は、今のところ、どこにも見当たらないからだ。
 幸太郎は、どこに行ってしまったんだろう――――?

 四人が去った廊下で、わたしはそんなことを考えながら、ぼんやりと窓の外を見る。
 窓の外には中庭が臨めるようになっている。
 外灯の光に照らされ、日よけのついた何対かのテーブルと椅子が並べられているのが見えた。
 そして、テーブルや椅子の並ぶもっと向こう側には、数本の木が立っている。
「ん?あれは……」
 その木の傍で蓄音機のような形をした変な機械を持ってたたずむまほりと、木の上で何やら周囲に目を光らせている火恩寺君の姿が見えた。
 何をしているんだろう?

 まほりと火恩寺君というのは、何だか不思議な組み合わせだ。
 しかも、まほりの持っている機械といい火恩寺君の様子といい、何か妙な作業をしている雰囲気だ。
自分自身が妙な状況になってしまっているわたしとしては、何か関係があるかもしれない、と願望も含めてそう思う。
 そうこうしているうちに、窓の向こうでは、まほりがパンクロッカーのごとく頭を上下させながら、ぶんぶんと機械を振り回し始める。
 怖いよ、まほり……。
 関係があろうとなかろうと、このまま見過ごせない。
 わたしは中庭に急ぐことにした。
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