幼なじみが犬になったら、モテ期が来たので抵抗します!

KUMANOMORI(くまのもり)

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5章 大混乱

●ひょっとして孤立無援

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……。
……ん。


 ……。
 ……ん。
「……くん。コータロー君」
 近くで声がして、わたしはハッと目を覚ました。
 真っ青な空を背景にして、まほり、穂波君、火恩寺君、松代君の四人がわたしを覗き込んでいる。
 みんな人間の姿をしているのは何でだろう?
 それに、さっきのは何?夢なの?
 とぼんやりした頭で思う。

「あ、目が覚めたみたいだ。突然倒れたから、びっくりしたよ」
「わたし、倒れたの……?」
「休み時間の間に、ちょっと散歩に出ようじゃねぇかって話になって、その途中で。覚えてねぇのか?」
 火恩寺君がそう教えてくれる。でも、話している内容が明らかにおかしかった。
「え、ちょっと待って。話がおかしいよ。確かわたし達は、コータローと戸田さんを探していたはずだよ。……それに、みんな、何で人間の姿に戻ってるの?」
「人間の姿?僕たちが、人間以外の何だというのだ?」
「それに、コータロー君、何で女の子みたいなしゃべり方なの?」
「何でって……。え?コータロー君?」
 慌てて起き上がり、まほりの目を見ると、不思議そうな眼差しでわたしを見ている。
「コータロー君って、わたしのこと?」
「うん。何かちょっとだけ雰囲気がいつもと違うけど、コータロー君はコータロー君だよ」
 そう言われて、全身を見下ろしてみる。
確かに、幸太郎と入れ替わったままのようで、見た目だけで言えば間違いようもなく幸太郎だ。
 でも、まほりも、その他のみんなも中身がわたしだってことを知っていたはずだ。

「疲れてるんじゃないかな。言っていることがめちゃくちゃだし」
「いや、疲れてるとかそういう問題じゃ……。あ、それじゃ、ミサキはどうなったの?この近くにいるの?」
 わたしが幸太郎とでしかみんなに認識されていないのなら、幸太郎のことは『本田美咲』として聞いたほうがいいと思って、そう聞いてみたけれど……。
 みんなして、まるで頭の上にクエスチョンマークを浮かべているかのような顔をする。
「ミサキ?知らないが」
「誰だ、そいつぁ」
「新進気鋭の魔術師かな?」
「料理研究家とか?聞いたことはないけど……」
 みんなが口々に言う言葉は、わたし本田美咲について一切かすりもしない。
「う、うそでしょ……!?みんなわたしのこと知らないの?」
「わたし?」
 わたしの叫びに、まほりが首を傾げる。
 これは、どういうことなんだろう?
わたしの存在が消えちゃったということ?
 だとしても、わたしが今ここにいるってことは、本田美咲の心はここにあるわけで……。
 じゃあ、消えたのはわたしの体と……ひょっとしたら幸太郎の心?
 そんなバカな……!?
 ふと、さっきまで見ていた変な夢が頭によぎる。

 確か幸太郎が消えて、そのとたんに夢が途切れた夢を。
「やはり、何か今の横堀はおかしいな。口調がまるで女性のようだ」
「おかしいのは割りといつもだけど、今日は特に変な方向におかしいのは確かだと思う」
「厄介なもんにとり憑かれたなら、伯父貴に頼んでみりゃ、祓ってくれるが……」
「うーん、取り憑かれたって言う感じじゃないけど……。何か、オーラが明らかに違うんだ。けど……コータロー君、だよね?」
 まほりがそう言いながら、わたしの方に探るような目を向けてくる。
 さすが、魔法少女まほりん……。
 まほりに何とか説明できれば、力を貸してくれないかな?
 変なことが起っているとなれば、喜んで手伝ってくれそうな気がする。
 でも、今はどうにもこうにも状況が分からないから説明しようがない。
 本当に『わたし』が消えてしまったのかどうかもまだ分からないし、何が起こったのかも分からない。
 そうためらっているうちに、
「ま、横堀が変なのはいつものことだし、放っておけば直るよ」
 穂波君がそうまとめてしまい、
「それもそうだね」
 とまほりも納得してしまい、タイミングを逃してしまった。
 結局、昼休みが終わってしまうというので、わたし達は合宿所に戻ることにした。


 合宿所へ戻りながら、わたしは、さっきまで見ていた夢のことを考えていた。
 わたしが穂波君と幼なじみで、幸太郎が単なるクラスメイトで……その他の色々が変な夢。
 妙に生々しくて、それでいてどこかちぐはぐで、まるで色んなパーツをコラージュしたみたいな夢だった。
 夢がどこかおかしくて、現実と違っているのは何もおかしなことはない。
でも、あの夢に関しては、単なる夢には思えなかった。
 夢の中で幸太郎が消えて、そして今、目覚めた先でも幸太郎がいないのだから。
 あの夢を見る前、みんなで幸太郎と戸田さんを探しに合宿所を出て、登山口から少し登ったところで急に気が遠くなったのを覚えている。
 まるで、そう、龍が尻尾から撒き散らしたあの靄を吸ったときみたいに……。
 だったら、あの夢は龍が見せたものなの?
 ……。
何にしても、情報が少なすぎる。
 もう少し色々探ってみないと。
 今出来ることといえば……わたしの体と幸太郎の心が本当にどこにもいないのかを確かめること、くらいかな?


 そんな風に思って、サッカー部の練習の間に、紀瀬や斉藤をはじめサッカー部のメンバーに聞いたけれど……。
 先輩も後輩も、同級生もみんな、本田美咲なんていう生徒は聞いたことも見たこともないという。
 紀瀬に至っては、俺が同じ学校の女の子の名前覚えてないわけないじゃーん。ていうか、その子他校?可愛い?紹介しろよー。アドレスでもいいしSNSのアカウントでもいいや。地面に書いて?
 と逆に問い詰められて困る羽目になってしまった。
 けれど、紀瀬が校内で知らない女の子がいるわけない、と言うくらいだし、『わたし』は多分この学校にはいないのは確かだと思う。
 いや、確かだと思う、とか冷静に分析している場合じゃない。
 幸太郎の身体の中に入ったままだし、その上肝心の幸太郎もいないし……。
 わたしを知っている人もいない……っぽい。
 だいたい、何が起こったのかも分からない。
 ひょっとしてこれって――――孤立無援ってやつなのかもしれない。
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