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2章 蒔かれたよ、変の種
●いつまで作れる、幼なじみ
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練習はいつもどおりバレー部と体育館を二分して行われた。
更に男子部と二つあるバスケコートを折半だから、実質使えるコートは一つだけ。女子部の面々は、そのコートの中でストレッチをする。
男子部は既にストレッチを終え、壁沿いをランニングしている。
そう言えば、穂波君も同じ部だったんだっけ?
屈伸をしながら、走っているメンツに目を向けてみる。
思えば、まともに男子部のメンバーを見たことなんてないかも。
軍団の中、穂波君は前のほうを走っていた。わたしが見ていると、視線に気づいた様子で、目があう。
逸らすのもどうなのかと思い、とりあえず手を振ってみたら、なぜか穂波君はつまずいて、転びそうになった。
同時に、
「本田あぁ!男子に色目使うんじゃないー!」
顧問の金切り声と体育館履きが飛んでくる。
何とか顔の前でキャッチして、投げ返す。
「ナイスキャッチ、ミサキー」とチームメイトの由紀が耳打ちする。
それにしても、色目って、古いよ先生……。
練習後、
「それにしても、今日もワニセン機嫌最悪だったねー」
更衣室で着替えを始めると同時に、女子バスケ部部長の今井先輩が、そう切り出した。
「ねー、お陰で穂波君よく見れなかったんだけどー」
「あたしなんか、大塚先生良く見れなかったー」
すると先輩達がたちまち話に乗っかっていく。
確かに、今日の鰐淵先生は一段と機嫌が悪く、よそ見をしようものなら、もれなく体育館履きが投げられた。
わたしを始め、ひょっとしたら皆一通り投げられたかもしれない。
「ミサキなんか、色目使うなって言われてましたよー」
と隣で着替えていた由紀も、会話に入っていく。
「ちょ、ユキ……っ!」
「本田が色目?珍しー」
「ていうか、本田って、人類に興味あったっけ?」
「先輩、さすがにそれひどいです……」
人類に対して興味の範囲が狭いのは自覚あるけれど。
「それで誰誰!?誰狙ってるの?」
「ねらっ……ちょっと見てただけです!」
「誰を?」
先輩の一人にロッカーを背に追い詰められる。
「先輩、近い、近いです!鼻息が……」
「抜け駆けは駄目だよ、本田。男子部のやつ、どんどんチア部と付き合っていって、在庫残り僅かなんだから!」
人間を在庫にたとえるってどうなんだろ。
それはともかく、この先輩、さっき穂波君が見れなかったって言っていた先輩だ。
穂波君を見ていたって言ったら、どうなるかな?
「先輩、穂波君好きなんですか?」
「そうなの!カッコいいよね、穂波君。色素薄くてちょっと日本人離れしてるし!」
「高塚、話題そらされてる、そらされてる」
「あ、そうだよ。それより、本田、誰見てたの?」
今井先輩が援護射撃をしてしまい、本題に戻される。
「穂波君って言ったら、どうします?」
冗談っぽくそう言ってみると、高塚先輩の顔にさあっと影がさす。
そして、
「握りつぶす」
とどすの利いた声でおっしゃる。
「あ、ははは……」
「まさか、本田、穂波君を――」
「い、いやいや!い、犬見てました!グラウンドをかける犬を」
嘘じゃない。
練習中何度か、開け放たれたドアの向こうに、ボールを追いかける犬が通り過ぎたのを見ている。わたしがそう言うと、話に入っていた面々はみんなして溜息をつく。
「ま、本田はそんな感じだよねー」
「色気ねー。浮いた話ないのー?」
「ないの、て言われても……」
「でも、本田いつも男子と帰ってるよね。あの、2年の」
「あーあの」
幸太郎が「あの」で表現されてしまうのは普段の行いが原因だ。
最近だと、4月の朝礼でサッカー部が表彰されたとき、賞状を渡してくれた校長に、
「ありがとう、グランパ」と言って全校を引かせたのが記憶に新しい。
本人はまったく覚えていないらしいけれど。
「付き合ってんの?」
「幼なじみです」
そう言うと、再び溜息をつかれる。そして、
「うわあ、つまんねー。幼なじみとくっつくパターンだ。チョー漫画的!」
「わー、つまらん!非常につまらん!幼なじみいないわたしは、どうしろちゅーんじゃ!」
「ていうか、幼なじみの定義って何?わたしも今から作れないかな幼なじみ!?」
「もう幼くないじゃん」
「うっそっ。まだ、幼さ現役ですけど?」
「幼さ現役でごじゃいましゅるー」
「いや、それ赤ちゃん言葉じゃないでしょ」
「幼なじみ欲しいでごじゃいましゅるー」
「しゅるー」
「アホか」
と怒涛のスピードで会話が流れていく。
「あ、あの……」
間を挟まないあたり、さすが先輩だ。
付き合ってないって否定をさせてすらもらえない。
何とか割って入れないか、とタイミングを見計らってみるけれど、そうしているうちに、いつの間にか会話の流れは、若手俳優の話に移ってしまっていた。
でもまあ、わざわざ訂正するのも面倒だしね。
更に男子部と二つあるバスケコートを折半だから、実質使えるコートは一つだけ。女子部の面々は、そのコートの中でストレッチをする。
男子部は既にストレッチを終え、壁沿いをランニングしている。
そう言えば、穂波君も同じ部だったんだっけ?
屈伸をしながら、走っているメンツに目を向けてみる。
思えば、まともに男子部のメンバーを見たことなんてないかも。
軍団の中、穂波君は前のほうを走っていた。わたしが見ていると、視線に気づいた様子で、目があう。
逸らすのもどうなのかと思い、とりあえず手を振ってみたら、なぜか穂波君はつまずいて、転びそうになった。
同時に、
「本田あぁ!男子に色目使うんじゃないー!」
顧問の金切り声と体育館履きが飛んでくる。
何とか顔の前でキャッチして、投げ返す。
「ナイスキャッチ、ミサキー」とチームメイトの由紀が耳打ちする。
それにしても、色目って、古いよ先生……。
練習後、
「それにしても、今日もワニセン機嫌最悪だったねー」
更衣室で着替えを始めると同時に、女子バスケ部部長の今井先輩が、そう切り出した。
「ねー、お陰で穂波君よく見れなかったんだけどー」
「あたしなんか、大塚先生良く見れなかったー」
すると先輩達がたちまち話に乗っかっていく。
確かに、今日の鰐淵先生は一段と機嫌が悪く、よそ見をしようものなら、もれなく体育館履きが投げられた。
わたしを始め、ひょっとしたら皆一通り投げられたかもしれない。
「ミサキなんか、色目使うなって言われてましたよー」
と隣で着替えていた由紀も、会話に入っていく。
「ちょ、ユキ……っ!」
「本田が色目?珍しー」
「ていうか、本田って、人類に興味あったっけ?」
「先輩、さすがにそれひどいです……」
人類に対して興味の範囲が狭いのは自覚あるけれど。
「それで誰誰!?誰狙ってるの?」
「ねらっ……ちょっと見てただけです!」
「誰を?」
先輩の一人にロッカーを背に追い詰められる。
「先輩、近い、近いです!鼻息が……」
「抜け駆けは駄目だよ、本田。男子部のやつ、どんどんチア部と付き合っていって、在庫残り僅かなんだから!」
人間を在庫にたとえるってどうなんだろ。
それはともかく、この先輩、さっき穂波君が見れなかったって言っていた先輩だ。
穂波君を見ていたって言ったら、どうなるかな?
「先輩、穂波君好きなんですか?」
「そうなの!カッコいいよね、穂波君。色素薄くてちょっと日本人離れしてるし!」
「高塚、話題そらされてる、そらされてる」
「あ、そうだよ。それより、本田、誰見てたの?」
今井先輩が援護射撃をしてしまい、本題に戻される。
「穂波君って言ったら、どうします?」
冗談っぽくそう言ってみると、高塚先輩の顔にさあっと影がさす。
そして、
「握りつぶす」
とどすの利いた声でおっしゃる。
「あ、ははは……」
「まさか、本田、穂波君を――」
「い、いやいや!い、犬見てました!グラウンドをかける犬を」
嘘じゃない。
練習中何度か、開け放たれたドアの向こうに、ボールを追いかける犬が通り過ぎたのを見ている。わたしがそう言うと、話に入っていた面々はみんなして溜息をつく。
「ま、本田はそんな感じだよねー」
「色気ねー。浮いた話ないのー?」
「ないの、て言われても……」
「でも、本田いつも男子と帰ってるよね。あの、2年の」
「あーあの」
幸太郎が「あの」で表現されてしまうのは普段の行いが原因だ。
最近だと、4月の朝礼でサッカー部が表彰されたとき、賞状を渡してくれた校長に、
「ありがとう、グランパ」と言って全校を引かせたのが記憶に新しい。
本人はまったく覚えていないらしいけれど。
「付き合ってんの?」
「幼なじみです」
そう言うと、再び溜息をつかれる。そして、
「うわあ、つまんねー。幼なじみとくっつくパターンだ。チョー漫画的!」
「わー、つまらん!非常につまらん!幼なじみいないわたしは、どうしろちゅーんじゃ!」
「ていうか、幼なじみの定義って何?わたしも今から作れないかな幼なじみ!?」
「もう幼くないじゃん」
「うっそっ。まだ、幼さ現役ですけど?」
「幼さ現役でごじゃいましゅるー」
「いや、それ赤ちゃん言葉じゃないでしょ」
「幼なじみ欲しいでごじゃいましゅるー」
「しゅるー」
「アホか」
と怒涛のスピードで会話が流れていく。
「あ、あの……」
間を挟まないあたり、さすが先輩だ。
付き合ってないって否定をさせてすらもらえない。
何とか割って入れないか、とタイミングを見計らってみるけれど、そうしているうちに、いつの間にか会話の流れは、若手俳優の話に移ってしまっていた。
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