49 / 49
愛娼として
2
しおりを挟む
その日も呼びつけられて王家の寝室に行ってみれば、嫉妬深い幼なじみが待っている。
もうじき皇帝として即位するようだ。宰務官も行政官もその身分を疑うことはない。
彼もまた「印」を持っているからだ。
かつて経験のある「印を調べるための交わり」をしようとすれば、顔を真っ赤にして必要ない、と断られる。
彼の容姿を見れば王太子として疑う者は一人もいない。彼は皇帝とリリアナとの間の落胤なのだ。
「そろそろ預言者はやめたらどうだろう?」
そんな風に言ってから、私の手を取り寝台へといざなう。もう婚姻を望むことはしない。けれど、十一回目の人生で初めて子どもを成していた。
血塗られた剣士の役目は、今では病弱な剣士が担っている。箱入りの身の上では荷が重い仕事だが、静寂な森の中は彼の病気を平癒される効果があったらしい。彼の病は環境由来だったようだ。
剣士の手によって聖女の森には相変わらず何体もの遺体が転がり続けているが、聖女信仰はいまだに消えない。
新しい聖女が生まれてしまったからだ。
私たちの娘として。
王太子からは懇ろな遊び女として毎夜のように寝室へ呼ばれる。今もまた私は、
「ちゃんと、前から重ねてください」
と言うのだった。
そうすると、前世のことを何度もなじらないでくれ、と何度目でも初々しく恥ずかしがる。
「おいで、もっと近づいて」
腕を広げる彼のラピスラズリ色の瞳は柔らかに光る。
私はまた聖女として転生するだろうか?
それは分からないけれど――――
今は何も考えずに初恋の幼なじみの腕におさまり、きつく抱き合う。
その髪からはもう孤児院の香りはしない。
了
もうじき皇帝として即位するようだ。宰務官も行政官もその身分を疑うことはない。
彼もまた「印」を持っているからだ。
かつて経験のある「印を調べるための交わり」をしようとすれば、顔を真っ赤にして必要ない、と断られる。
彼の容姿を見れば王太子として疑う者は一人もいない。彼は皇帝とリリアナとの間の落胤なのだ。
「そろそろ預言者はやめたらどうだろう?」
そんな風に言ってから、私の手を取り寝台へといざなう。もう婚姻を望むことはしない。けれど、十一回目の人生で初めて子どもを成していた。
血塗られた剣士の役目は、今では病弱な剣士が担っている。箱入りの身の上では荷が重い仕事だが、静寂な森の中は彼の病気を平癒される効果があったらしい。彼の病は環境由来だったようだ。
剣士の手によって聖女の森には相変わらず何体もの遺体が転がり続けているが、聖女信仰はいまだに消えない。
新しい聖女が生まれてしまったからだ。
私たちの娘として。
王太子からは懇ろな遊び女として毎夜のように寝室へ呼ばれる。今もまた私は、
「ちゃんと、前から重ねてください」
と言うのだった。
そうすると、前世のことを何度もなじらないでくれ、と何度目でも初々しく恥ずかしがる。
「おいで、もっと近づいて」
腕を広げる彼のラピスラズリ色の瞳は柔らかに光る。
私はまた聖女として転生するだろうか?
それは分からないけれど――――
今は何も考えずに初恋の幼なじみの腕におさまり、きつく抱き合う。
その髪からはもう孤児院の香りはしない。
了
0
お気に入りに追加
63
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
【完結】この地獄のような楽園に祝福を
おもち。
恋愛
いらないわたしは、決して物語に出てくるようなお姫様にはなれない。
だって知っているから。わたしは生まれるべき存在ではなかったのだと……
「必ず迎えに来るよ」
そんなわたしに、唯一親切にしてくれた彼が紡いだ……たった一つの幸せな嘘。
でもその幸せな夢さえあれば、どんな辛い事にも耐えられると思ってた。
ねぇ、フィル……わたし貴方に会いたい。
フィル、貴方と共に生きたいの。
※子どもに手を上げる大人が出てきます。読まれる際はご注意下さい、無理な方はブラウザバックでお願いします。
※この作品は作者独自の設定が出てきますので何卒ご了承ください。
※本編+おまけ数話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる