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悪女の手引き

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 私はテントを片付けて呼ばれるままに要塞都市に向かう。帝国側に招き入れられたのは、十回の人生の中でも初めてだった。

 私はベールを目深にかぶり、さらに額に布を巻いて聖痕を隠している。ケープをまとい、肌を隠すけれど、「もしも」のときのために脱ぎ着しやすいワンピースを着ていた。

 城は素っ気ない灰色の石造りの城は簡素な印象がある。けれど城の四方をぐるりと高い壁で囲んでおり、要塞都市の名を冠しているだけある、と私は思った。

 通された場所は宰務官の執務室のようだ。同行者の男は執務室の前で、
「私は補佐官をしている。レグノ様がお呼びだ」
 と言ってくる。やはりただの遣いではなかったのねと思った。

 連れ立って中に入れば、年若い宰務官が迎えてくれる。栗毛の髪に群青色の瞳を持つ男性は、一見人好きする印象があった。けれど瞳の中に、こちらを探るような狡猾な光をたたえている。

「やぁ、ジェリー、君の預言は凄いね。聖女の魔力を上手く感じ取るらしいじゃないか。まるで、君自身が聖女みたいだ」
 探りを入れてくるので、
「聖女がこんな身なりをするでしょうか?それに、私は元来、身売りが稼業です」
 と答える。

「じゃあ、生贄のイニシャルはあてすっぽうに言っているのかい?」
「軍部の名簿から好きなイニシャルを選んで言っているだけです。どうも、私のような者にはみなさん安易にもらしてくださるので」
「おや、それは軍部の者を生贄として差し出せ、と聞こえるね」
「あら。そう聞こえなければ、耳か頭に難がおありですね」

 首を傾け宰務官のレグノはこちらにやって来る。そして私の顎に手を当ててきた。不用意に触れてくるのは、こちらを下に見ている証拠だ。睨みつけようとしたら、微笑まれた。

「可愛らしいのに、恐ろしいことを平気で言う。ここで預言をしてみないかい?衣食住は不自由させない」
「それは、飼い殺しにしたいと暗におっしゃっていますよね?私は自由が欲しくて、この稼業をしているのです」

「そう、どこに秘密をもらすとも分からない。預言者?ジプシー?そんなものは信用できないものだよ。出来れば抱え込みたい」
 彼は案外あっさりと本音を述懐してきた。
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