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娼婦デビュー
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娼館御用達だという衣装店に行き、ドレスを購入する。
お金のない私は一番安いドレスを求めたけれど、ゼリュードは「奮発した方がいい」と言ってビーズのたくさんついたサテンのワインレッドのドレスを買ってくれる。
はなむけだよ、と言う。なぜゼリュードがこんなにたくさんの身銭を持っているのか分からなかった。少し怖くなって尋ねたら、パトロンがいるんだ、と言う。
「リリアナを懇意にしていた男性たちがいる。オレの父親はある意味では博愛だからな。突けばいくらでも」
「本当の父親?」
私の問いにはゼリュードは首を横にふった。
「それじゃ、今度こそは本番だ」
ゼリュードは言って、昨日の娼館へと私を連れていく。
「ゼリュードはこれからどうするの」
「オレは孤児院に戻ってそれから、また考える。聖印騎士を目指すのはやめると思うけど」
そう言って肩をすくめてみせる姿が、悲しい。けれどお互いに婚姻を目指さない以上、仕方ないのだ。私は聖女にならないし、彼は私の剣士にはならないのだから。
その夜娼館に足を踏み入れ、昨日と同じ女性に見とがめられる。けれど、今度は、女性の目の色が変わったのが分かる。
「ほぉ、見違えたじゃないか。昨日とはまるで別人だ、いっぱしの娼婦に見える」
上から下まで舐めまわすように見て、女性は言った。
「一晩で育てられたか、開花されたのか」
私とゼリュードを思わせぶりな視線で交互に見る。頭の先から足の先まで、すべてゼリュードに触れられていた。さらにドレスに着替え、メイクもしている。赤を基調にしたメイクで、目元や口元に艶やかな印象を強めるようにと教わっていた。
「いずれにしても、中々いい女になっている」
評判を得たところで、
「それじゃ、任せたよ」
ゼリュードはそう言い、去って行く。
私はその背中を見つめていた。
さよなら、ゼリュード。好きだった人。
お金のない私は一番安いドレスを求めたけれど、ゼリュードは「奮発した方がいい」と言ってビーズのたくさんついたサテンのワインレッドのドレスを買ってくれる。
はなむけだよ、と言う。なぜゼリュードがこんなにたくさんの身銭を持っているのか分からなかった。少し怖くなって尋ねたら、パトロンがいるんだ、と言う。
「リリアナを懇意にしていた男性たちがいる。オレの父親はある意味では博愛だからな。突けばいくらでも」
「本当の父親?」
私の問いにはゼリュードは首を横にふった。
「それじゃ、今度こそは本番だ」
ゼリュードは言って、昨日の娼館へと私を連れていく。
「ゼリュードはこれからどうするの」
「オレは孤児院に戻ってそれから、また考える。聖印騎士を目指すのはやめると思うけど」
そう言って肩をすくめてみせる姿が、悲しい。けれどお互いに婚姻を目指さない以上、仕方ないのだ。私は聖女にならないし、彼は私の剣士にはならないのだから。
その夜娼館に足を踏み入れ、昨日と同じ女性に見とがめられる。けれど、今度は、女性の目の色が変わったのが分かる。
「ほぉ、見違えたじゃないか。昨日とはまるで別人だ、いっぱしの娼婦に見える」
上から下まで舐めまわすように見て、女性は言った。
「一晩で育てられたか、開花されたのか」
私とゼリュードを思わせぶりな視線で交互に見る。頭の先から足の先まで、すべてゼリュードに触れられていた。さらにドレスに着替え、メイクもしている。赤を基調にしたメイクで、目元や口元に艶やかな印象を強めるようにと教わっていた。
「いずれにしても、中々いい女になっている」
評判を得たところで、
「それじゃ、任せたよ」
ゼリュードはそう言い、去って行く。
私はその背中を見つめていた。
さよなら、ゼリュード。好きだった人。
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