悪女で候。十回の前世で聖女はやめました、現世は聖痕を血痕で塗りかえます。

KUMANOMORI(くまのもり)

文字の大きさ
上 下
13 / 49
彼の真実、私の現実

3

しおりを挟む
 店に出て開口一番、
「六割がた話はついたな」
 とゼリュードは言う。そんなに感触がよかったとは、私は思わない。

「普通の娼館ならジェラートの見た目があれば十分だ。お客も勝手に盛りあがって去って行ってくれるだろ。でも、高級娼館となればそれなりの技術がなければ難しい」
「そうみたいね」
 私は嘆息する。自ら娼婦を志しながら、覚悟の甘さを痛感した。

「婚姻経験なんて意味がないのね。相手がどんな身分であろうと、私はただ好き放題を許していただけ。娼婦も同じで足を開けばいいんでしょ、と簡単に思っていたかもしれない」
 私が呟くと、ゼリュードは猥雑な表情をする。彼は私の婚姻経験の話を信じたわけじゃないだろうに、どうしてあんなほらを吹いたんだろう?

「オレが鍛えてやるよ、明日までに。ジェラートが客を取るために十分な技を使えるように」

 ――――なにを、言っているの?

 ゼリュードの顔を見あげれば、彼はその瞳に悲しみの色をたたえていた。

「ジェラートが転生しているのをオレは知っている。これは十一回目だということも。前回盗賊に襲われたことにして自害してしまったことも」
 お腹の辺りからぞわっと湧きあがるものを感じて、私は言葉をつげない。

「オレとの婚姻が、死ぬほどいやだったのは知ってるんだよ」
「ゼリュード、なんで……」

「ジェラートと結ばれたかった。だから何度も転生して来たし、ジェラートがどこに召し抱えられても絶対にそばにいようと誓っていたんだ。でもさ」

 ゼリュードは私の頬を包み込むようにして手の平を触れさせた。彼のラピスラズリ色の瞳は悲しい瞳をたたえている。

「死なれてしまったら、もう諦めるしかない。オレとの婚姻生活が自害するほどいやだったとは、思わなかったんだ」
 ゼリュードはぶんぶんと頭をふった。

「悪かった、ジェラート」
「ゼリュード、それは」

 違うっ、と言おうとしたら、手を引かれる。
「宿を取ろう。そこで、教えてやる。オレが知っている限りの性技を。そしたら本当にお別れだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...