悪女で候。十回の前世で聖女はやめました、現世は聖痕を血痕で塗りかえます。

KUMANOMORI(くまのもり)

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彼の真実、私の現実

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 ルドキアの軍の駐屯地には色町が出来ている。
 軍人たちが燻ぶった心を慰めるという名目で、女あるいは男を買いに行く。役職付きの行く高級娼館から、平軍人の行く娼館まで多種多様だ。

 私が目指すのは高級娼館だった。ただ今の身なりでそれは難しい。まずは普通の娼館に入り込んで、位をあげていかなければ。
 ゼリュードは娼館の前に馬を乗りつけて、私を降ろしてくれた。けれどそのまま帰ろうとはしない。

 早く行ってよ、とじろっと睨みつけたら、肩をすくめる。そして、
「オレは女衒になる」と一言。
「え?」

「オレはここで生まれてるんだよ。母がここの高級娼婦だった。ジェラートはオレの母の娘と言うことにすればいい」
 私の姿を上から下まで視線でさらっていく。

「未成熟な娘を好む者も多い」
 少しばかり苦味のこもった物言いで言った。
「未成熟ってどの部分を言っているの」
 不満を口にしたらゼリュードは吹き出す。

「分からないな。最近はジェラートの身体を見たことなんてないし」
 すっかりからかい顔で言う。
「ゼリュードが私の身体を見る機会なんて、永遠にないけどね」
 少し苛立って引き離したことを言ったら、ゼリュードは眉尻をさげた。

「そうかもな、オレたちは身分が違いすぎるから。ジェラートは聖女だ」
「娼婦よ」

 分かったよ、ため息をつきながらゼリュードは娼館の戸を叩いた。
 ぎゅっと心臓が捕まれるように感じる。ここで行われることは一つだけ――――性の狂乱、あるいは慰みのための色の売買だ。

 頭では分かっていたし、前世では娼婦まがいな扱いを受けたことしかない。けれど実際に娼館に足を踏み入れたのは現世が初めだ。
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