ちょうどいい私は、無理めの宮久土先輩のくるぶしをかじりたい

KUMANOMORI(くまのもり)

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私達の約束

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「私はその間に、二回結婚して子どもがいます」
「オレは、えーと。あんまり思い出せないな。でも、出来るだけ頑張った」
 と宮久土先輩は言う。

「頑張った?」
「百数十以上の国籍の人と付き合ってみても、やっぱり芦野さんがいいって分かったから」
 息を飲んだ。
 百数十以上?

「でも結婚はしていなんだ。事実婚には強引に持ち込まれそうになったけど」
 到着した肉を片っ端から焼きながら、宮久土先輩は言った。

「そ、そうなんですね。宮久土先輩はもう、私の経験の規模を飛び越えてます」
「芦野さんの経験も大切な経験だよ。航から連絡来てた。元妻をよろしくって。子どもって航の子なんだね」

「言い方がいやらしいですよね、航先輩」
 今息子は航先輩と暮らしている。通っている園が彼の家からの方が通わせやすいからだ。

「航の子なら、オレの子って言ってもあまり変わりないかも」
「え、いや。そうかなぁ?」

「よろしくって、どういう意味だと思う?」
 宮久土先輩がこちらを見ると、瞳に熱がこもる。

「それは、もちろん」

 私は宮久土先輩のお皿にお肉を置いていく。
 宮久土先輩が私に視線を向けているのが分かった。

「元妻が宮久土先輩のくるぶしを噛むけど、よろしくってことですよ」
 と私は言う。

 もちろんこれは方便だ。航先輩にくるぶしの話をしたことはない。

 それに今、宮久土先輩と駆け引きのような話題をするつもりはなかった。でも、口をついて出たのは、回りくどい提案だ。

「でも、宮久土先輩は日本代表選手だから、噛めないかも。オフシーズンが知りたいから、マネージャーしてもいいですか?」

 宮久土先輩が目を丸くして、それから眉尻をさげた、ように見える。
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