ちょうどいい私は、無理めの宮久土先輩のくるぶしをかじりたい

KUMANOMORI(くまのもり)

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 私は航先輩と結婚し、男の子を生んだ。
 男の人は結婚後で変わると思う。

 そして子どもが生まれると女の人は変わるようだ。
 今はママを貸してあげてるだけだから、本当は俺のだから、と息子を牽制しながら航先輩は新婚モードを発揮する。

 完全に母親モードになった私は、完全なる夫忌避モードになり、二年の婚姻を経て離婚した。 
 息子の執権は共同親権をとる。航先輩とは別れたことでちょうどいいフレンドの関係に戻っていた。

 いよいよ二十代最後の年に差しかかったときに、右目が完全に見えなくなる。

 その日テレビをつけたら、新しい競技が五輪の競技になるとのアナウンスが聞こえた。画面に注目していると、選手の足首が目につく。その選手は日本代表ではないようで、その競技を五輪の競技に、という推進活動をしていたそうだ。
 元々はどこかの部族のスポーツだという。

 そのくるぶしを見て、私の左目は見ひらかれた。見えない右目も、感覚としてはパチッと開く。

「学生時代には陸上界の日本代表として~」
 とアナウンスされたことで、私の中で確信が生まれる。
 端正な顔立ちは相変わらずで、温度を感じられない表情もそのままだ。

「嬉しいです」と淡々と語り、「これで希望が叶うかもしれません」と言うのだった。

 数年ぶりに見たその顔に、私は心の底から安心する。そして、間もなくやって来た連絡に、心を震わせた。
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