ちょうどいい私は、無理めの宮久土先輩のくるぶしをかじりたい

KUMANOMORI(くまのもり)

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ふってください、宮久土先輩

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 帰りには必ず私のクラスに宮久土先輩が迎えに来てくれる。

 そして、いつもそのまま帰ろうとするので、
「宮久土先輩、今日も部活に行かないんですか?」
 とある日聞いてみた。

「うん。やめた」
「え」

 宮久土先輩があっさりと言った言葉に、私は驚きのあまりに肩掛けカバンを落としてしまう。宮久土先輩がすぐに拾いあげて、渡してくれた。

「やめたって嘘ですよね?」
 宮久土先輩を見あげると、差し込んできた夕日が眩しくて、一度目をつぶる。光の調節がまだ難しいようだった。

「本当だよ」
 宮久土先輩は静かに言った。
「なんでですか、やめちゃダメですよ」

「陸上のせいで芦野さんを巻き込んだから。もう、走らない」
「それは、違います。宮久土先輩が悪いわけじゃ」

「拡散したのはゆらぎだったよ」
 極刑の宣告みたいだ。きっと、彼女は宮久土先輩のことが好きだっただけだと思う。急に近づいてきた私は、彼女からすれば邪魔な存在だったのかもしれない。

「ゆらぎさんは悪くないです」
 私は頭を振った。
 そしたら、少し視界がぐらついてしまう。宮久土先輩が腕を持って支えてくれた。

「人の写真を勝手に拡散するのは、悪いことだよ」
「でも、彼女はきっと。宮久土先輩のことが好きだっただけです」

 犯人はSNSを見たと供述していた。でも、それ以前から犯人は家の周りを巡回していたようだ。
 SNSの投稿がトリガーにはなったかもしれないけれど、事が起こるのは時間の問題だったのだと思う。

 宮久土先輩の瞳が私の目をとらえ、熱をじゅッと感じた。
「好きなんじゃない。執着だよ。満たされなかった気がするから、執着するだけ」
 宮久土先輩はにべもなく言って、私の手を取った。

「芦野さんが安心して学校に通えるように護るよ。もう陸上はしない」
 光が眩しくて、瞬きを何回もしてしまった。
 言葉が中々頭にしみ込んで来ない。
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