ちょうどいい私は、無理めの宮久土先輩のくるぶしをかじりたい

KUMANOMORI(くまのもり)

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無から有へ

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「うらちゃん、タイム測ってよ」
 と声がかかるたびに駆けずり回っていたら、滝のような汗が噴き出てくる。

「芦野さん、汗凄いよ」
 宮久土先輩はそう言ってタオルを渡してくれた。

 うらちゃん、うらちゃんとみんなが呼ぶ中で、宮久土先輩は芦野さんと呼ぶ。だから、すぐに分かるのだ。

「ありがとうございます、先輩」
 受け取ったタオルは柔軟剤の匂いがした。宮久土先輩の好きな柔軟剤らしい。自分で家事をしているなんてすごいな、と思う。

 汗を拭いた後ですいすんすんと嗅いでいたら、犬みたいだよ、と宮久土先輩は笑った。
「いい匂いしますね」
「そう、最近もまた新しいの見つけた」
 と言う。

 最近、宮久土先輩はよく笑う。見ているとホッとするしなんだか嬉しいのだ。
 私たちのやり取りに航先輩は、
「へぇ、うらちゃん凄いな」
 と感心したような声をあげるのだった。

「少し前まで、馳は無って感じだったんだけど。感情が戻った感じ」
「無?」

 練習に戻っていった宮久土先輩の後ろ姿を見る。くるぶしは隠れて見えないけれど、すっと真っすぐに伸びるアキレス腱が魅惑的だ。
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