ちょうどいい私は、無理めの宮久土先輩のくるぶしをかじりたい

KUMANOMORI(くまのもり)

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つかめない先輩

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 目の前にある色艶のいいくるぶしを見て、ごくりと唾を飲み込む。
 しなやかな腱と骨のふくらみに、じゅるりとよだれが出そうになった。

 宮久土先輩の部活が終わるのを待って、一緒に帰る。宮久土先輩は私の訳の分からない言葉を真面目に受け取ってくれたらしい。

 連れ立って帰る途中で宮久土先輩は不意に立ち止まる。足を内側に曲げた状態で、先輩は足首を持ちあげて見せてくれたのだ。

 ピッとスポーツウェアの裾をめくり、出てきたくるぶしはあまりに眩い。ほどよく日焼けした足首は健康美の妙だと思う。

「噛む?部室でシャワー浴びてきたよ」
 何気なく聞かれて、ずうっと頭が冷静さを取り戻していく。
 宮久土先輩は陸上部の期待の星だ。その足は宮久土先輩の宝物にも等しいと思う。

「か、噛めません」
「なんで?」
「そのくるぶしは才能と資産の結晶!傷つけたら、宮久土先輩の損失だし、うちの学校の損失だし!」
「そうなの?」

「痛めたら大変なことになります!」
「そんな大袈裟だよ」
 随分と鷹揚だと思う。身体が資本のスポーツマンとは思えない。

「噛んで足を痛めたら、私は各方面から非難ごうごうだと思います。下手したら暗殺されるかも」
「そしたら、齧れないよ?」
 スポーツウェアの裾を元に戻して、宮久土先輩は不思議そうな顔をする。齧りたいんじゃないの?と。

「走っているときのアキレス腱のしなりを含めて魅力的なんです!痛めて動けなくなったら、困ります」
「芦野さんが困るの?」
「困ります!オフシーズンになるまでは、噛んじゃダメだと思います」
「オフシーズン?いつなのそれ」

 え、と喉の奥から声が出た。大会の予定がなくて空いているときです、と言ったら、いつ?と返ってくる。
「分からないんですか?」
「うん、いつ?」

 ぼんやりとした発言に、私の丹田がぐにゃりと緩む感覚があった。お腹に力が入らなくなる。
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