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かじりたい

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 学校に戻れば、部活後のクールダウンのランニングをしている生徒の姿が見えた。
 皆まで見なくても、それだけはとてつもなく輝いているからすぐに分かる。宮久土先輩の光輝くくるぶしが目に入ったら、一気に涙がこぼれてくる。

 頭の中から、くるぶしが消えそうにもないのは、結局あの光景が頭から離れないからなんだ。

 グラウンドに戻って腕で目を押さえてわんわん泣いていたら、リズムよく駆けてくる足音がして、声がかかった。顔をあげたら、
「芦野さん?」
 いつも波一つ立っていないような静かな瞳には、少しだけ心配の色がうかがえる。

 どうしたの?と聞かれて、私はまた過ちを犯す予感があった。身の程を知らない行動を起こすと思ったからだ。
 答えないでいたら、
「具合悪いの?」
 と宮久土先輩のクールな印象の顔つきに、慈悲の色が見えて驚く。

 宮久土先輩が急に去ったことで、他の陸上部のメンバーも、何だ何だ、と遠巻きに見守っていた。そんな風に心配させてしまうなんて、バカみたいだ。バカみたいだと思うのに、さらにバカみたいなことを口にしてしまう。

「宮久土先輩、くるぶしをかじらせてください。私何でもするから、宮久土先輩の希望を叶えるから」
 今、私は泣きながら支離滅裂かつ、意味不明なことを喚いている。遠目に見守っているメンバーには航先輩の姿もあった。

 ――――なに言ってんの、バカじゃん。

 私のアプローチはいつも断られるのに決まっているのだ。

 けれど、なぜか宮久土先輩は私の頬を撫でた。頬の涙が宮久土先輩の手のひらを濡らす。

「いいよ、かじって」

 じっと静謐な瞳で見つめてきた宮久土先輩は、
「でも今はダメだな。練習した後で汗だくだから」
 と言った。

 私は、信じがたい気持ちで宮久土先輩を見つめてしまった。

 これは私と宮久土先輩の間で謎の関係が生まれた瞬間だったのだ。

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