いちばん好きな人…

麻実

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思わぬ事

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「お父さんが骨折して入院した」
息子からメールがきた。

何でも雪掻きをしていて転んだそう。
「お母さんは来なくていいよ」
薄々、事情を感ずいていたらしい大学生の息子が、入院手続きを済ませていた。

「渡したいものがあるんだけど、行っていい?」
更にメールが来たので不思議に思いながらも
「あら、勿論よ。
ここは貴方のお部屋なのに、何時までもごめんなさいね」
と返信する。
「大丈夫。彼女も僕とずっといられて喜んでる」
とのろけられた。

久し振りに自分の部屋に戻って来た息子は 部厚い茶封筒をテーブルにおいた。

「お父さんの不倫の証拠。もしかして使うかもしれないと思って」

中には東京のホテルの領収証が数えきれないほどあった。
 上野、鴬谷、巣鴨、渋谷、神田・・・ラブホテル山手線の駅全制覇とか目指しているのかしら?
と馬鹿なことが頭をよぎる。
他にも沢山あるのは、赤と銀色の模様が目立つ横長の封筒。
『エース』と印刷されているそれは大手旅行会社のフリープラン旅行日程表。
飛行機の座席の番号札もちらほらと。 
夫の席の隣の番号は
必ず『タナカ カヨ』と印字されていた。


「お母さん。離婚して僕と一緒に住む?」
息子の言葉にはっとする。

「彼女がいるのに何を言っているのよ。
でも、ありがとう」

そんな会話を交わした後、息子は少しの衣類をスポーツバックに詰め、再び出ていった。


雪子はこの穢らわしい証拠を取り合えず引き出しに閉まった。
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