上 下
21 / 32

21.聖女召喚

しおりを挟む
「な!? ルチア嬢が消えたぞ!?」

「まぁ……」

 ルチア様の気配の探索を終えていたわたくしは、そんなことよりも殿下とルチア様の親密度が上がっていることに驚きましたわ。いつのまにか、ルチア嬢とお呼びになっていらっしゃる。ルチア様ったら、無事に攻略対象との仲を深めていらっしゃるのね……。わたくし、少し仲間はずれみたいな気持ちで寂しくなってしまいましたわ。いえ、わたくしは悪役令嬢。このように皆様と仲良くしていただいていることが奇跡なのですわ。

「気配の探索をいたしましたところ、ルチア様は、隣国デゼール王国にいるはずですわ」

「デゼールに!? なぜ? 気配の探索……?」

「誘拐イベント……いえ、聖女ですから」

「聖女だから……?」

 聖女たるルチア様が転移魔法を使って、誘拐されたということは、国際問題になりかねませんわ。聖女の業務で隣国デゼール王国へ行かれたことにしておきましょう。
 なぜか、殿下は混乱なさっているお顔をしていらっしゃいますが、それはさておき、どのようにデゼール王国へ入国致しましょうか。原作ではどのようにデゼール王国は入国していたのかしら。


“まて、もう一人女がいるぞ”
“王女様はこの女もお望みかもしれん”
“少ないより、多い方がいいだろう”


 そんな言葉が聞こえたかと思ったら、目の前から殿下のお姿が消え、転移魔法陣のある部屋に変わりました。

「わたくしも……?」

 聖女でないわたくしまで、なぜ誘拐されてしまったのでしょうか?

「……悪役令嬢も連れてこられた?」

「えぇ、わたくしもなぜか転移させられてしまいましたわ」

 ヒロインでも聖女でもないわたくしが、なぜ? わたくしは、公爵令嬢。我が公爵家を敵に回す意味をデゼール王国では理解されていないのでしょうか……?
 そんな疑問を胸に抱きながら、そっとルチア様を抱きしめます。

「わたくしがなぜ転移させられたのかわかりませんが、ルチア様をお守りいたしますわ」

「ありがとう、悪役令嬢」


「おい、何をコソコソ話している!?」

「逃げ出されたら迷惑だ。あのお方にこいつらを見せる時まで、牢に入れて閉じ込めておこう」

「そうだな。あのお方にこの離宮では好きにしていいと言われているからな」

 そう話すお方の手元には鍵があります。最悪、あの程度の鍵くらいならなんとでもなりますが、ルチア様とお話しする必要があるので、おとなしく捕えられておきましょう。



「ルチア様。わたくしたちは、おとなしく捕えられますわよ?」

 そう言ったわたくしに、ルチア様はこくりと頷きます。牢へと連れて行かれたルチア様とわたくし。ふと、わたくしたちの見張りをさせられているお方を見ると、お耳が生えていらっしゃいます。もしかして、お噂に聞く獣人のお方でしょうか? もふもふしてみたいですわ……。


「……悪役令嬢。他の獣に興味持たないで」

「え!? な、なんのことでしょう? ルチア様、その言い方ではあなたがまるで」

 そう言いながら、ルチア様の目元を見つめると獲物を狙い定める視線を……獣人のお方に……。

「お待ちなさい! ルチア様。あのお方に何をなさろうとしていらっしゃるの?」

「獣……美味しそう」

「おやめなさい、ルチア様。獣人は人間とカウントします。食べてはいけません」

「なぜ?」

「確かに、我が国への獣人の入国は禁じられておりますし、こちらの国でも奴隷として扱っているようです。しかし、我々と同じように思考し、」

「美味しそう」

「人の話をお聞きなさい!?」

「……だめ?」

「可愛い顔をしても、ダメなものはダメですわ! いい加減なさい? わたくしがダメと決めたのです。ダメに決まっておりますわ?」

「悪役令嬢がそこまで言うなら仕方ないか……。食べて良くなったら教えてね?」

「えぇ。絶対にありえませんけど、食べて良くなったら教えますから、絶対に食べてはいけませんわよ?」

「はぁい」

 ルチア様は不満げでいらっしゃいます。こちらの国では、彼女から絶対目を離さないようにいたしましょう。何があっても。



「おい、お前たち。高貴なお方がお前たちにお会いする、と仰せだ。不敬のないように」

「わかりましたわ」

「誘拐した方が不敬……」

「しっ! 黙って頷いておきなさい、ルチア様」

 わたくしが慌ててルチア様のお口を塞ぎます。こくこく頷くルチア様とわたくしの姿を見て、わたくしたちを牢から出しに来た男は、納得したようです。牢からだし、どこかへと連れて行きます。








「ほう。これが聖ルピテアの聖女か……って、二人?!」

「お久しぶりでございます。デゼール王国第一王女エミーラ様」

 わたくしがデゼール王国での淑女の礼をとり、ご挨拶すると、エミーラ様は顔を真っ青にして口をパクパクしながら私を指差します。

「わ、お、ま、えら、」

「まあ、エミーラ様。人を指差すなんて……外交問題ですわね?」

「ひぇ!」

「王女様!? どうなさりました!? この女、殺しますか?」

「こ、殺すな! 頼むから殺すな!」

「では……」

「この女の記憶を消して、元の場所に誰にもバレないように返してこれるか?」

「はい」

 まぁ、勝手に国に返されるなんて困りますわ。そんな身勝手な話し合いをなさるエミーラ様とその臣下の方のお話に割り込ませていただきます。


「まぁ、エミーラ様。わたくし、デゼール王国にせっかくきたのなら、観光を楽しみたいですわ? 勝手に人の記憶をいじろうとなさって、国に返そうとするなんて……ひどいですわ?」

 わたくしが悲しそうな顔を向けると、エミーラ様は倒れられました。まぁ、大変ですわね。人がわらわらと集まってきて……。


「何事だ!?」

「あら? お久しぶりでございますわ。デゼール王国第一王子エミル様?」

 わたくしが第一王子に微笑みを向けてそう申し上げると、第一王子は頭を抱えてしまわれました。

 さて、観光名所のご案内と魔物討伐の旅を依頼いたしましょう。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚してやる!と言われたので、契約条項について確認していきます

碧桜 汐香
恋愛
「お前なんか、離婚してやる!」  そう叫ぶ書類上の旦那様に、結婚時に結んだ契約の内容について、わかりやすく解説する妻。  最終的に国王の承認を得て女領主となり、夫は今までに犯していた様々な罪に問われ、連れていかれる。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

処理中です...