上 下
7 / 32

7.学園入学

しおりを挟む
「とうとう学園入学の日ですわ!」

「お嬢様がこんなにも大きくなられてぇぇぇぇ!」

 相変わらずばあやが号泣しております。学園には、一人の付き人の同行が許されております。ですから、学園にはばあやも一緒に行くことになっておりますのに……。

「マリア、ナリアンヌをよろしく頼むわよ?」
「ばあや、一緒に学園に向かうぞ?」

「お任せください、奥様!! さぁ、坊ちゃま、お嬢様。参りますよ?」

 お母様に声をかけられ、切り替えたばあやは、涙を拭ってわたくしたちを馬車に押し込みます。
 ばあやばあやと呼んでおりますが、実は見た目は若々しくメイドとよく間違えられておりますの。でも、ばあやの実年齢は……ひっ!? 殺気が!?

「お嬢様? 余計なことは考えずに、参りましょうね?」

「えぇ、ばあやと一緒に学園にいくことができて嬉しいわ。よろしくお願いするわね」

「お、お嬢様がぁぁぁぁ」

「ナリアンヌ、ばあやを泣かせるな」

「だって、仕方ないじゃない、お兄様。さぁ、ばあや。早く行かないと初日からわたくしが遅刻してしまいますわ」

 きりっと表情を切り替えたばあやが、馬車に飛び乗り、出発します。


「お兄様。わたくし、とっても楽しみですわ!」

「いい子に頑張るんだぞ、ナリアンヌ」













 学園に到着いたしましたわ。わたくし、はじめて見る動きをする生き物に固まっておりますの。

「お兄様……あの方は、なにをしていらっしゃるのかしら?」

 学園の校門横に咲いている白い花の葉っぱに、顔をこすりつける少女が一人……。制服を着ていらっしゃるから、王立学園の生徒だと思いますわ。銀髪にメッシュの白色。黄色い瞳になにか変な音も聞こえてきた気がいたします。

「お兄様の同級生でいらっしゃいますか?」

「いや……」

「まさか…」

「あぁ、おそらく、ナリアンヌの同級生であろう」

 やばい同級生がいる、そんな恐怖に震えながら、表情を整えてお兄様と一緒に校門に入ります。周囲の生徒もチラ見しながら、わたくしたちに挨拶してくださいます。公爵家の権力にみなさま怯えていらっしゃい……確実に、あの子に怯えていらっしゃいますわ。

「あ」

 校門をくぐろうとした瞬間、少女と目が合いましたわ。すごい勢いでこちらにかけていらっしゃるので、護衛が思わず飛び出そうとしました。殺気も感じないので、お兄様が手で制止します。わたくしの登園初日にトラブルは避けたいですもの。

「ムハル・ハーマート」

 お兄様の名前を呼んだ少女は、突然お兄様に身体をこすりつけました。

「なっ!?」

 慌てて引き離す護衛たちに言葉を失ったわたくし。

「お、お兄様にいったいなにをなさっていらっしゃるの?」

「……マーキング。逆ハールート目指すから。ナリアンヌ・ハーマート、悪役令嬢。よろしくね」

 そう言って、するすると去っていった彼女は、校門の門柱の上に飛び乗りました。まるで猫が顔を洗うかのような所作で、顔を拭いていらっしゃいます。

「……え?」

 もしかして、あれがヒロインですの? わたくしの聖女ルチア様は? 茶髪茶目の愛らしいルチア様は?
 そう思って呆然としていると、神殿の服装をした者が走ってきました。

「ルチアさまぁ! ルチア・テラスモンドさまぁ! 降りてきてくださぁい!!」

「テラスモンド男爵……」

 逆ハーエンド狙いの場合、ヒロインが養子入りする男爵家です。



「ナリアンヌ。できる限り、彼女と関わらないようにしなさい」

「わかりました。お兄様。お兄様もお気をつけて」

「あぁ」

 固い決意を胸に、わたくしは教室に向かいましたわ。

 ばあやはさすが熟練の使用人。一瞬でお兄様を拭いた後に、即座に空気になりましたわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚してやる!と言われたので、契約条項について確認していきます

碧桜 汐香
恋愛
「お前なんか、離婚してやる!」  そう叫ぶ書類上の旦那様に、結婚時に結んだ契約の内容について、わかりやすく解説する妻。  最終的に国王の承認を得て女領主となり、夫は今までに犯していた様々な罪に問われ、連れていかれる。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

処理中です...