「婚約者と別れるから」って言ったじゃない。〜二番目令嬢の回顧録

碧桜 汐香

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掌上に運らす

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side:伯爵令嬢

「我が家は終わりだ!!!」

 お父様がそう叫ぶのをみて、わたくしはこっそりと笑いました。





◇◇◇
「まぁ、マイティス伯爵令嬢よ。今日も美しいわ」


 わたくしは、お父様の道具にすぎないのです。
 政略結婚のお父様とお母様は、ずっと不仲でしたわ。
 お父様は愛人を作り、愛人の家で過ごすことが多かったです。
 お母様はそんなお父様を見て嘆き、わたくしにいつも言い聞かせましたわ。

“浮気者は苦労するわ。結婚相手に浮気者はやめておきなさい”




 お母様が亡くなり、多少は家のことを省みるかと思えば、ますます愛人宅で過ごすことが多くなりました。愛人とその子供を我が家に連れてこなかった分、マシかもしれませんけれども。






◇◇◇
「マイティス伯爵家のために、婚約者を決めた。フラン・ラザンテール伯爵令息だ」

 お父様が不正を働いていることは存じておりました。お母様がいらっしゃる時には、バレないようにやっていらっしゃったみたいですが、お母様が亡くなった今、屋敷を任されているわたくしなら簡単に証拠を集められるようになりました。お父様も油断なさっていたようです。

 婚約者が決まったのなら、お父様の言うままに結婚するしかない、そう思ってこっそりと彼について調べさせたのです。


 驚くほど多くの女性に手を出していました。平民のみならず、貴族令嬢とまでそういう関係になっている事実に、目を疑いましたわ。
 彼とは絶対結婚したくない、そう思ったのです。
 それから、彼の家にも不正がないか調べたのです。真っ黒な我が家と婚約を結ぼうとするくらいですもの。こちらも大豊作でしたわ。
 証拠を集めたわたくしは、悩みました。
 この証拠を告発するにしても、わたくしはただ身分を失うだけ。か弱いわたくしが生きていくには貴族という身分が必要です。なにか、わたくしが市井で生きていく方法はないでしょうか。



 ある日、思いついたのです。平民の子女と伯爵令息の悲恋を書いてみよう、と。
 想い合う二人が家の都合で結ばれない、しかし、駆け落ちをして苦労の末に結ばれる物語でした。
 結果として、小説を書くことで市井でも生きていくことができるようになったのです。
 モデルはもちろん、かの子爵令嬢とわたくしの婚約者でした。美化したお話を書かせていただいたのです。編集者には、“ぜひ続編を書いてほしい。我が社で専属契約を結ばないか”と誘われているのです。



「これは……子爵令嬢には恩返しがしたいですわ」

 そう思ったわたくしは、子爵家と真っ当な取引を始めるように父に進言しました。
 屋敷を留守にしがちな父に変わって領地経営を手伝うことがありました。そんなわたくしの進言を疑うことなく、父は受け入れましたわ。


 通りすがりに“馬鹿な女”と暴言を吐き、彼女がいつも婚約者を見つめている場所で、婚約者と待ち合わせをしました。わたくしが現れるまで男性同士の社交を行なっていると予想して。
 彼女はわたくしの家で侍女として働くことになりましたわ。その次に、彼女がお父様の部屋に忍び込むその時には、証拠をたくさん準備してあげました。

 全てがわたくしの思い通りになったのです。


 浮気者の婚約者と娘を顧みないお父様とお別れすることができたのです。
 自由を手に入れたわたくしは、わたくしのやりたいことを活かして、わたくしを愛してくれる人と共に生きていくのですわ。

 あぁ。婚約者の浮気相手は、しばらく経った頃、もしかしたら良心の呵責で苦しむかもしれませんわね。関係のない領民たちに迷惑をかけたのですもの。

 いや、もしかしたら婚約者の逆恨みがあるかもしれないですわ。

 これが、わたくしから彼女へのプレゼントですわ。
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