え?そちらが有責ですよね?

碧桜 汐香

文字の大きさ
上 下
1 / 1

しおりを挟む
「ねぇーマリオット様ぁー」

 わたくしの婚約者であるマリオット様にしなだれかかっているのは、男爵令嬢であられるミルフレッツァ様。

「あたしたち、運命の相手ですよねぇ」

「そうだな。婚約者なんてものがいなければ、今すぐにミルと結婚できるのに」


 婚約者がいるのに別の相手とそういう関係になることを不貞というのではないでしょうか?


「マリオット様とミルフレッツァ様、お似合いなのに可哀想」

「婚約者ってあれでしょ? 祖父母が勝手に決めたっていう」


 祖父母が勝手に決めた婚約者に浮気三昧されるわたくしは、かわいそうでなく悪なのでしょうか?

 なぜ、声の大きい方が正しいかのように扱われるのか……貴族子女としてこの国の将来が不安です。

 そう思いながら、その場を立ち去ります。悲劇のヒロイン気取りで声を上げる方々に何を言っても無駄ですから。








「……大丈夫か?」

 突然、わたくしに声をかけていらしたのは、銀髪に青い瞳……え、王家の印の青い瞳!?

「ら、ラファエル殿下。殿下におかれましては、」

「いや、いい。学園内だ。気にするな。ところで、あの、婚約者は……」

「あくまで政略結婚ですわ。お祖父様が仲良くしていた友人の孫と孫同士を結婚させたいというわがままと、婚約者の生家であるが没落しないように我が家が援助するという国の益となるためのものです。学生時代の火遊びくらい許して差し上げるのが、妻というものですわ」

「傷ついていないのならば、いいのだが。学生時代の火遊びといえども、あれはやりすぎだ。あくまで善意での支援を当然のように受け取り、己の義務を果たさない。それはいかがなものか……」

「一貴族の小さな揉め事までしっかりと正しく見極めてくださる、そのようなお方が殿下でいらっしゃるなんて、この国の将来は安泰ですね」

 殿下のお心遣いに思わず、安心して言葉を漏らしてしまいました。受け取り方によっては不敬になってしまいます。わたくしとしたことが、失言でしたわ。

「ふははは! メリエッティ嬢。君は、意外と面白いな。よければ、卒業パーティーまで王家の影を貸してあげよう。好きに使え」

「まぁ! ありがとうございます」










「卒業したら、マリオット様に会えないなんて悲しいですわぁ」

「卒業と同時に僕は婚約者の家に婿入りだからな……そうだ! 妾としてついてくればいい! 何物も僕たちを遮ることはできないんだから!」

「素敵ですわぁ! マリオット様ぁ!」

なら存分に金はあるから、好きなものを買ってあげられるよ」

「今までの迷惑料ってことですわね! あたしたちの真実の愛を邪魔したぁ」

「そうだよ! 真実の愛を邪魔したんだから、それなりの誠意ってものを見せてもらわないと!」

 なぜ、我が公爵家の予算で入婿の伯爵家の妾を養う予定になっているのでしょうか?

 


「公爵令嬢と結婚しても、あのお二人が離れることはなさそうね」
「よかったですわ、真実の愛のお二人ですもの」


 そんな二人を応援する皆様に王国法を一から説いて差し上げたくなります。そのようなことをしたら、一層疎まれるでしょうからいたしませんが。


「あの公爵令嬢、美しいだけで男心をわかってないものね」

「ふふ、あんなのが婚約者だとミルフレッツァ様のような愛らしいお方に恋してしまっても仕方ありませんわ」

「いっそのこと、あのお二人のお子を次期公爵として育てたらよろしいのではなくて?」

「そうね! それ、あのお二人に教えて差し上げたらいいですわ!」


 みなさま、身分社会というものを理解しておいでなのでしょうか? 学生生活では身分関係なくという飾りのような文言を信じておいでなのでしょうか? 不敬となったらどうなるのか……。


















「ミル!」

「マリオット様ぁ!」

 イヤイヤという態度を崩すことなく、卒業パーティーの会場までのわたくしのエスコートをしたマリオット様。会場に着いた瞬間、長年離れていた恋人同士のように抱き合うお二人に学生たちは感嘆の声を上げ、大人たちは眉を顰めます。


「マリオット様。ミルフレッツァ様。お話がございますの。よろしくて?」

「なんだ? ミルを妾にすることは決定しているからな」

「あたしとマリオット様の子供、たくさん産むので公爵家の跡取りとして育ててくださいねぇ?」


 あちらでお父上の男爵がお顔を真っ青にしておいでです。穢らわしいものを見るかのように令嬢をご覧の子爵、あなたも関係ありますわよ?


「それは、フェルリア子爵令嬢とサリマンル伯爵令嬢、アイランツ男爵令嬢のアドバイスですか?」

 名前を挙げられた各家の当主は顔色を悪くします。ご令嬢たちは後ろでうんうんと満足そうに頷いておいでです。

「それだけじゃないですわぁ! メラニア男爵令息とぉ、シャルル伯爵令嬢、あとぉ、」

 名前を挙げられる当主は顔色を悪くし、子女たちは嬉しそうです。


「ありがとうございます。わたくしが存じ上げてなかったお家の方もおいでですわ……影のお方、全ての証拠を押さえてありますか?」

「はっ、ここに」


 見えない空間から飛び出し、わたくしの横に片膝立ちになる影のお方。わたくしの知らなかったお話も全て把握しておいでなようです。



「その、メリエッティ嬢。我が家が手違いで名前を挙げられたようでして、」

 慌てた様子でわたくしの機嫌をとりにくる各家の当主。小首を傾げてその様子をご覧になっておいでです。


「あら? わたくし、王家の影をお借りしているの。間違いはないはずですわ。それに、わたくしは現在カサランタ女公爵となっておりますの。呼び方をお間違えなきようお願いいたしますわ?」

 当主たちの顔が一層青ざめる中、学生の皆様が叫びます。

「女公爵がなんだ! 真実の愛の邪魔をしやがって!」

「女公爵だろうが、お二人の真実の愛を遮ることができるものか!」

「美しいからって調子乗って!」

「ちょっと美しいだけで、全然可愛くなんてないんだから!」

 叫んだ学生の親たちは、必死に我が子を拘束し、口を塞ぎます。


「ありがとう、みんな!」
「嬉しいですわぁ!」

 その異様な光景に気づかないお二人は、嬉しそうに抱きつきあっています。


「な、何をやっているんだ!」

「お祖父様!」

 マリオット様のお祖父様、シャラン前伯爵がいらっしゃり、ミルフレッツァ様を引き剥がし、投げ捨てます。


「ごきげんよう。シャラン前伯爵。では、婚約破棄を進めましょうか?」

「我が愚孫が大変すまなかった」

 マリオット様の頭を押さえ込みながら、こちらに頭を下げる前伯爵。頭を抱える伯爵と伯爵夫人。

 うちのお父様とお祖父様は小さくなっております。えぇ、お父様とお祖父様にはわたくしの遭った目を全て報告して代わりに婚約破棄と公爵の座を即座に譲るようにお願いいたしましたわ。


「あぁ、ミルフレッツァ様。先日、わたくしから奪い取ったネックレス、お返し願いますわ」

 その言葉を聞いた男爵が関わりたくないけど仕方なくと言った様子でミルフレッツァ様を羽交締めにして、男爵夫人が平身低頭でネックレスを持ってきました。



「みなさま、わたくしへの行い、忘れておいででないですわね?」

 水をかけられたり、物を壊されることが日常でした。真実の愛で結ばれたお二人を邪魔するわたくしは、悪とされいじめられていたのです。成績が優秀なことも許されなかった理由だそうですわ。


「メリエッティ嬢。思ったよりも大規模になったから、ここからは引き取らせてもらうよ」

「わかりましたわ、殿下。よろしくお願いいたします」


「元公爵令嬢で現女公爵であるカサランタ公爵に対する不敬、許されると思っている者はいるか? それに、公爵家乗っ取りの計画。こんなにも大々的に計画しているとは、そこまで愚かな者が多いとは残念だよ」

「し、しかし殿下! 皆、言っていたではありませんか!」
「そうです! 不敬と言っても学園では、身分の差は認められません」

「今代の学生は不作だったな。各家の当主よ。別の後継をしっかり育てよ。身分の差が完全になくなるわけないだろう。仮にカサランタ公爵の身分が低くとも、このように寄ってたかって一人をいじめる行為、尊き血の流れる身としてふさわしくない」

 中立の位置を保っていた学生――主に公爵令嬢等の高位貴族の令嬢が多かったが――を報告し、それ以外の学生は卒業と同時に与えられる貴族の身分を認めることなく修道院や神殿、そのような貴族の身分が認められないものを送る場所へと追放となった。

「公爵家の乗っ取りを計った罪は大きい。中心となった二人には、牢に入ってもらおう」

「そんな!?」
「あたし、悪いことしてないですぅ」


 その後、一部の悪質な行動をとった学生と二人の粛清が行われ、各家は後継の教育に力を入れるのであった。



「カサランタ公爵。すでに爵位をついでおいでだが、優秀な君がいてくれると大変心強い。私と共に国政を担ってくれないか? その、王太子妃として」

「光栄なことでございます。しかし、わたくし、公爵としての責務を果たしていかなければなりません。……まずはお互いを知り、伴侶として相応しいか見極めませんか?」

「その権利を与えてくれたことに感謝しよう。まずは友人からよろしく頼む」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約破棄のお返しはお礼の手紙で

ルー
恋愛
十五歳の時から婚約していた婚約者の隣国の王子パトリクスに謂れのない罪で突然婚約破棄されてしまったレイナ(侯爵令嬢)は後日国に戻った後パトリクスにあててえ手紙を書く。 その手紙を読んだ王子は酷く後悔することになる。

婚約破棄ですか?では、あなたの幸せ壊させていただきます。

ルー
恋愛
ステライト王国には一つの王立学院がある。そこはステライト王国の貴族は必ず卒業しなければならなく、また留年、退学した者は貴族とは認められず、貴族籍を抹消されるほど重要な所だった。また、学院には四回の夜会がある。夜会と言っても生徒会主催のデビューのための練習ではあるが、とても立派な夜会だった。四回の夜会はそれぞれ春の夜会、夏の夜会、秋の夜会、冬の夜会と呼ばれていた。春の夜会ではサクラが咲く時期に行い、夏は夏休みの前日に行い、秋は紅葉が素晴らしい時期に行い、冬は粉雪が舞い散る時期に行った。その四つの夜会の中でも、特別大切な夜会とされているのが春の夜会だった。学院の卒業式は四月上旬。入学式の一週間ほど前だった。時を同じくして春の夜会がひらかれる。そう、卒業式の前日に、別名卒業パーティーとして・・・。そんな春の夜会でステライト王国の第一王子が婚約者に婚約破棄を叩きつける。 バットエンドは王子様だけです。あわないと思った方はブラウザバックをお願いします。

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

瓦礫の上の聖女

基本二度寝
恋愛
聖女イリエーゼは王太子に不貞を咎められ、婚約破棄を宣言された。 もちろんそれは冤罪だが、王太子は偽証まで用意していた。 「イリエーゼ!これで終わりだ」 「…ええ、これで終わりですね」

これは一周目です。二周目はありません。

基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。 もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。 そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。

婚約破棄裁判

Mr.後困る
恋愛
愛国心溢れる大公令嬢ヴィーナスは 自身の婚約者を誑かしたマーキュリー男爵令嬢を殺害した その裁判が今、行われる・・・

婚約破棄は、婚約できてからの話です。

白雪なこ
恋愛
学園の中庭で繰り広げられる婚約破棄騒動。 婚約破棄してみたいブームに乗り、遊ぶ学生たち。 でも、そこにはマジで破棄する気の者も混ざったりして。そんなブームも騒ぎも他人事だと思っていた少女が、婚約破棄されてしまい? *外部サイトにも掲載しています。

婚約破棄ってしちゃダメって習わなかったんですか?

みやび
恋愛
政略に基づく婚約を破棄した結果

処理中です...