上 下
6 / 31

最初のお茶会

しおりを挟む
 マリーが婚約者となり、初めてのお茶会が開催された。

「ウィナーベルこーしゃく家のマリリアントでちゅ。このたびは、おーじしゃまのこんにゃくしゃにえらんでいただき、ありがとうございまちゅ」

 マリーが一生懸命覚えたおぼつかない挨拶をする。愛らしさにみんながほっこりする。




「よかったわね、オズ。あなたずっとマリーのこと話していたもの。ほら、ご挨拶してありがとうって言いなさい?」

 やっとマリーに会えた嬉しさで顔を紅潮させているものの、恥ずかしいのか皇后の影から少しも出てこない。

「いくら恥ずかしいとしても、ありがとうくらい、言いなさい? オズ?」

「……マリー、ありがとう」

 そう言ってまたすぐに皇后の後ろに隠れてしまった。

「全くもう……この子ったら……マリーを婚約者にしてほしい、絶対幸せにするって泣いて頼んできたのに、本人を目の前にするとこうなんだもの」

 皇后が少し呆れた表情でそう嘆いた。



「ふふふ、とても愛らしいですわ。そんなにも想ってもらって、マリーも幸せね?」

「……うん?」

 母にそう言われるものの、婚約の意味をあまり意味をわかっていないようで、マリーは首を傾げながら肯定する。




ーーーー
「おーじしゃま! こっちおいでー?」

「う、うん!」

 マリーが先導して、第一皇子と共に遊びはじめた。王族に対しての言葉遣いとしては不適切だが、さすがに3歳児なので許されている。

 徐々に、第一皇子もマリーに声をかけるようになっていった。

「マリー! こっちこっち! きれぇなところあるよ!」




ーーーー
 そんな2人の様子を微笑ましげに見守る母たちは、会話を楽しんでいる。

「マリーがオズのことを好きにならなかったとしても、お互い想いあって大切にしあう関係になってくれたらいいわね?」

「そうですわね。でも、きっと好きになりますわ。第一皇子と共に歩むことのできる立派な女性にならなきゃダメですよ? マリー。お勉強頑張りましょうね?」

「はい! おかあしゃま!」

 恋や愛をまだわからなかったマリーではあるものの、皆が憧れる素敵な皇子様に選んでもらったことを誇りに思っているようだ。ただ単に、第一皇子と遊ぶのが楽しかっただけかもしれないが……。




 その日から皇后になるために、マリーに様々な教育を施されることとなった。本来、その教育は、婚約者に内定する10歳前後に行われるものだ。しかし、皇后に相応しいか判断できるとされる年齢以前に、婚約者として内定したマリーは、周囲に認められるためにも努力しなければならなかった。



ーーー
 元々の愛らしい外見は、メイドたちの努力によってさらに磨かれた。健康的な食事に、美しいマナー。そして、流行を抑えた完璧な服装。

 マリーは優秀だった。駄々をこねることは稀にあっても、基本的には1度言われたことはすぐに習得する。幼児とは思えない才能だった。
 皇后になった時、周囲に感情を悟られないように、と開始された表情のコントロールも完璧となった。もちろん、マリーだって腹の中は色々考えてる。
 しかし、動揺も一切、表に出さないことができるようになった。一見すると暖かく見受けられる、作られた微笑みを浮かべることはできるようになった。表情を出さないようにしている時は無表情なことが多くなっていった。
 それも高位貴族の務めというものだと、幼いながらもマリーも理解はしていたようだった。



 第一皇子と仲良く遊んでいた時期もあったのに、徐々に表情を失っていくマリーに、第一皇子も話しかけることができず、2人の距離は開いていった。
 もっとも、第一皇子の気持ちは衰えることを知らず、父母にはマリーへの愛を囁いている。
 マリー本人も第一皇子のことを憎からず思っているようであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Paradise FOUND

泉野ジュール
恋愛
『この娘はいつか、この国の王の為に命を捧げ、彼の願いを叶えるだろう』 そんな予言をもって生まれた少女、エマニュエル。両親の手によって隠されて育つが、17歳のある日、その予言の王の手により連れ去られてしまう。 まるで天国のように──人知れぬ自然の大地で幸せに育ったエマニュエルは、突然王宮の厳しい現実にさらされる。 そして始まる、相容れるはずのないふたりの、不器用な恋。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?

青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。 エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・ エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・ ※異世界、ゆるふわ設定。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

処理中です...