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皇帝と皇后の運命の出会い

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 皇后陛下は、皇帝陛下と当時大変珍しい恋愛結婚をした。
 それはそれは、歌劇にされたり書物にされたり……“運命の出会い”“真実の愛”と持て囃されたものだ。
 もちろん、そこには権力的な圧力によるところもあったが。



ーーー
 皇后が隣国から転入してきた。美しくも影のある姿は、多くの人の心を掴んだが、誰からのアプローチにも一切靡かない。

「きっと、興味がないのよ」
「暗いのに、美人ってだけで得だよね」
「ご実家のお話、お聞きになった?」
 僻んだ者たちが裏でそっと囁いていた。

 自立する力を身につけるために必死の皇后の耳には、届いていないようだったが……。




ーーーー
 当時、皇帝には婚約者がいた。お互いの家の利害が一致した政略結婚だ。上手くやっていけると皇帝も確信する程度には、2人の間には信頼関係があった。
 しかし、婚約者が別の人を好きになってしまった。日に日に落ち込んでいく婚約者から、皇帝がなんとか理由を聞き出した。
 愛してはいないが、家族のように思っていた相手だ。できることなら幸せになってほしい。皇帝は、恋を語る婚約者を少し眩しくも思っていた。
 皇帝の気持ちを考えなければ、円満に解消。婚約者の家族も皇帝がなんとか説得した。そんな、優しすぎる性格の皇帝は、平和を象徴するような人柄である。




 皇后は、自立して生きるために人目を避けて剣術の稽古や武術の鍛錬をしていた。高貴な女子が身体を動かすなんて言語道断。親戚宅である公爵家でそのようなことをしたら、面倒を見てくれている方々を卒倒させてしまう。そのため、学内の人目につかないところで鍛錬することとしたのだ。

 ちょうどそのとき、皇帝も婚約破棄に悲しんでいた。普段は気丈に振る舞い、周囲には一切感じ取らせなかった。唯一、皇帝の心の傷に気づいていた元婚約者も、そうさせてしまったのは自分である気持ちから、対応を図りかねていた。
 普段は穏やかな皇帝だ。しかし、たまに人前で抑えきれない感情を抱いたとき、そっと1人で静かに悲しむ時間が欲しかったのだ。



ーーーー
 ぶん!ぶん!と木刀で素振りをする。筋力をつける目的がメインであるが、できることなら剣も取り扱えるようになっておきたい。何があるかわからないから。

 皇后がそう思って、建物の影の隅で素振りをしていると、ちょうどその建物の角を曲がってきた皇帝が、突然目の前に現れた。

 突然現れた皇帝に木刀をぶつけてしまいそうになり、慌てて止める。そのまま、体勢が維持できずによろけて抱き止められる。

「申し訳ございません!」
 そう慌てて頭を下げた皇后は、皇帝の目からぽろりと流れ落ちる涙に驚いた。驚きのあまり、張り詰めていた糸が切れてしまったようだ。

「私のせいでしょうか? 本当に申し訳ございません」
 皇帝の涙に慌てて、謝罪をする。

「いや、君のせいじゃないんだ。」
 あまりにも皇后が謝り続けるので、皇帝はそっと理由を語り出す。

 友人もおらず、周囲に興味もなかった皇后は、皇帝が婚約破棄した話を聞いてはいたが、詳細や皇帝の顔まで知らなかったのだ。

 婚約しておきながら他の人を好きになった元婚約者に、父を思い重ねたのか皇帝以上に憤った。また、皇帝に母を重ねたのか必要以上に心配した。自分のことで自ら以上に感情を爆発させる皇后に、皇帝の気持ちは和らいでいった。

「たまに、話を聞いてもらうことはできるか? 普段は平気だが、ふとした時に思い出してしまうことがあるんだが、君に聞いてもらうとかなり楽になるんだ」

「私で良ければ、喜んでお聞きいたしますわ。お役に立てるなら光栄ですわ」
 救えなかった母の代わりに皇帝を救えるだろうか、きっと救ってみせると意気込む皇后であった。



ーーーー
「まぁ! そんなことなさったの!? 本当に皇帝陛下は楽しいお方ですわね!」
 静かに密会を続ける2人。自身の話や取り止めのない日常の話まで、様々なことを話すようになった。お互いを支えとし始めた2人が、惹かれ合うのは当然のことだったのだろう。


「其方の父のことでトラウマを抱いているのは、わかっている。私は決して裏切らない。大切な者が離れていく経験はしたことがあるから、きっと君にはそんな思いをさせないだろう。だから、私と一緒になってくれないだろうか」

「皇帝陛下というご身分から、側室を持たないことなど不可能ですわ。私、それを許せなさそうですもの」

 断る皇后も、皇帝に惹かれる気持ちを抑え切れなかったのだろう。

「皇帝が側室を持たないなんて、お世継ぎに恵まれなかったら、どうなさるおつもりだ!」
 そんな周囲の反対の声を押し除け、2人は、運命や真実の恋と持て囃される大恋愛の末、結婚した。
 結婚前は城下に皇后と皇帝のデート姿がよく見掛けられたという。
 皇后は、皇帝に他の人に興味を持つなんて絶対許さないという条件下の下、結婚。もちろん、皇后もそれを守り続けるつもりだ。子に恵まれなかった場合、当時の皇帝の弟の孫を次期皇帝にするという案もでている中での結婚であった。
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